サム・ウィルクス&ジェイコブ・マンが語るデュオとしての哲学、ルイス・コールや長谷川白紙への共感

Photo by Roman Koval

 
ベーシストのサム・ウィルクスとピアニストのジェイコブ・マンは、LAジャズ屈指の実験的ミュージシャンとして、ルイス・コールやサム・ゲンデルとの活動でも大きな存在感を放ってきた。YAMAHA DX7やRoland Juno-106といった日本産シンセサイザーの名機を駆使してクリエイティブなサウンドを作り上げた2022年の共演作『Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』を引っ提げ、10月25日(水)東京、26日(木)大阪、29日(日)横浜のビルボードライブで来日公演を行う彼らに、お互いの関係性と音楽的ルーツを尋ねた。

※ビルボードライブ公演のチケットプレゼント実施中、詳細は記事末尾にて


左からジェイコブ・マン、サム・ウィルクス(Photo by Roman Koval)


―そもそも二人はどのように知り合って、どうして一緒に演ることになったんですか?

ジェイコブ:出会ったのはお互いに南カリフォルニア大学の音楽学校に通ってた時で、当時の僕はピアノ、サムはベースを勉強してた。最初は好きな音楽を通じて意気投合して、在学中に色んなバンドで一緒にプレイしたんだ。でも、本当の意味で友達になったのは一緒にノワーのツアーに参加したのがきっかけだった。ノワーのライブバンドでは世界中を周って、ホテルの部屋をシェアしたりして。その頃じゃないかな、一緒にプレイし始めたのは。

サムは昔からずっと(二人の演奏を)全て録音してるんだけど、アイデアを録音しては数年寝かせて、また録っては寝かせてを繰り返して、アルバムに取り組み始めた頃には10年来の友達みたいになっていた。共に色んなバンドとのツアーを経験したことで、二人に共通した音楽的言語が確立されたんだ。

そうこうしていたらサムのほうに、ロンドンのThe Jazz Cafeからデュオでの出演オファーが届いたので、「お互いの曲を少しずつやればいいよ」ということで受けることにしたんだ。そのギグに向けての準備をしていくうちに、新曲もたくさん出来上がっていった。当時のアイデアの多くが曲となって、『Perform the Compositions of Sam Wilkes & Jacob Mann』に収録されている。その後の数年間で、二人で作曲や編集を重ねて、2021年頃からアルバムとして仕上げていったんだ。

サム:もともと僕は在学中MD(音楽監督)になりたかったから、バンドを作るという立場にいることが多かったんだ。ジェイコブと初めて共演した時、腕がいいってことは瞬時にわかったから一曲参加してほしいとお願いして、2回目にはすでにスタイルやテイスト、音楽的才能、技能を含む全てにおいて絶対的に信頼できるって確信していたよ。そこから一緒にプレイする機会が増えていった。LAのクラブでジャムセッションをしたり、ノワーやルーファス・ウェインライトと共演したりね。

ちょうどその頃、ちょっとした話し合いになってね。今でもはっきり憶えてるよ。あるR&Bシンガーと共演した時、演奏後にブライアン・イーノの話になったんだ。そこで「俺たちさ、二人で一緒になんかやるべきじゃない?」って話になったんだ。ギグでの共演がデュオに繋がって、今度はLAでライブしようとなって、それも大成功して……という感じで、今のスタイルに至るまでにはかなりの時間を要したんだ。

そこからコロナ禍に入って、アルバムを作る計画が浮上した。パンデミックは同じ部屋で顔を合わせた環境で、二人の性格と友情にフィットしたプロセスで作業することを可能にしてくれた。プレッシャーもなく、純粋に楽しんで作ったことで『Perform the Compositions of〜』が生まれたんだ。



―これまでに特に研究してきたミュージシャンを教えてください。

ジェイコブ:僕にとって一番大きい存在はハービー・ハンコック。アコースティックからエレクトリックまで、彼が手がけてきた多種多様な音楽はどれも本物で、僕の音楽人生においてずっとインスピレーションを与えてくれている存在だよ。特に好きなアルバムは……すぐ思いつくのは『Sunlight』。あとは『Mr. Hands』『Fat Albert Rotunda』『Empyrean Isles』『Maiden Voyage』とかね。

サム:僕はとにかく音楽を聴くんだ。部屋を見てもらったらわかるけど、まるでレコード屋だよ。ベーシストに絞って答えるとレイ・ブラウン。長年ずっと研究してきたから。もちろん、他にもたくさんいるよ。ジェイムス・ジェマーソン、チャック・レイニーとかね。オスカー・ピーターソン・トリオの『Live from Chicago』は大好きなアルバムで、ベースがレイ・ブラウンで、ドラムがエド・シグペン。僕の中では一押しの作品だよ。あと、ソニー・ロリンズの『Way Out West』も素晴らしい。ドラムがシェリー・マンで、ベースはレイ・ブラウンだね。

あとは最近、アントニオ・カルロス・ジョビンに夢中で研究しているんだ。ジェイコブも同じように研究してた頃があるから、「ジョビンのアルバムで好きなのは?」って聞いたら、『Terra Brasilis』と言ってたよね。1980年にリリースされたジョビンのキャリア後期の作品だけど、クラウス・オガーマンが長期プロジェクトとして手がけた最後のアルバムで、とにかくアレンジが素晴らしいんだ。





―これまでに特に研究してきたコンポーザーは?

ジェイコブ:その質問には分けて答えたいと思う。一方がコンポーザー、もう一方がアレンジャーとオーケストレーターでね。例えばアレンジャーで何人か挙げるとネルソン・リドル、ヴィンス・メンドーザ、クラウス・オガーマンが好き。

コンポーザーだったら僕にとってもジョビンは大きな存在だね。あと、素晴らしい歌詞と曲とを掛け合わせるという点で言うと、スティーヴィー・ワンダーは達人だと思うよ。歌を形作るという意味でね。ジャズで言うとビル・エヴァンス。彼はマイルス・デイヴィスの最初のクインテットにも素晴らしい楽曲を多数提供したことで知られているよね。あと、作曲家のカテゴリーにもハービー・ハンコックを加えたいね。

サム:ジェイコブが挙げた名前には僕も同感。そこに大事な名前を付け加えるとすればギル・エヴァンスだね。僕らにとってアレンジャーとしての大きなインスピレーションだ。あとアレンジャーとして、個人的に大ファンなのはチャールズ・ステップニー、アリフ・マーディン、クインシー・ジョーンズ。彼らを研究することで、オーケストレーションやアレンジメントなど、曲が最高の作品になるよう貢献している姿を目にするのはすごく刺激になる。特にアリフ・マーディンは、最高のセッション・ミュージシャンたちを一同に集めて、彼らが本領発揮できる環境を整える素晴らしいコントラクターで、そのプロセスを学ぶだけですごく刺激になる。僕の人生に大きな影響を与えてくれた人物の一人だ。

作曲で言うと、僕はソングライターとかリリシストも大好きで、リリシストではジョニ・ミッチェルの大ファンだ。あとは、さっきも言ったようにジョビンだね。ミュージシャンとして彼の音楽を聴くということは、まるで無限に栄養を吸収しているような感覚なんだ。もう一人、最近また改めて研究しているのがチャーリー・パーカー。彼の作曲は僕に言わせるとすごくサイケデリックなんだよ。メロディーのセンスはなんというか、すごくパワフルで言葉では表現できない。僕はトラディショナルなジャズも勉強してきたし、数えきれないほどの楽曲を聴き込んできたけど、彼みたいな表現や作曲をするミュージシャンには出会ったことがないよ。あとはセロニアス・モンクもずっと研究してきた。


ルイス・コール、サム・ウィルクス、ジェイコブ・マンの共演パフォーマンス(2018年)

―ビートメイカー、トラックメイカー、プロデューサーだと誰が挙がりそうですか?

ジェイコブ:サムと僕が最初に意気投合したのはJ・ディラ、クエストラヴ、ディアンジェロ、いわゆるソウルクエリアンズのサウンドだったんだけど、2010年頃からLAに住むようになってからはフライング・ロータスやサンダーキャットといったブレインフィーダーの音楽をすごく聴くようになった。あとは僕らの友人である、ルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルタディも。

サム:あの2人がどれだけ大切な存在かは語りきれないよ。あと、僕らにとって大切なプロデューサーといえばマッドリブだね。

ジェイコブ:ブライアン・イーノも僕たちにとって大きな存在だよね。曲作りにおいて一味違うひねりがあるんだ。雰囲気を創り出すスタイルというか。

サム:その流れでいうとダニエル・ラノワも加えたいな。こういう質問にパッと答えるのは難しいね。川の中に手を突っ込んで触れたもの全部を掴んでるみたいだから(笑)。要するに、僕たちに影響を与えたアーティストは数知れないってことだよ。

Translated by Aya Nagotani

 
 
 
 

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