麻薬中毒、性的暴行、SMプレイ、カニエの元カノが暴露した波乱万丈な日々

「男たちに好かれて、とことん甘やかされたかった。代償がついて回ろうと気にしなかった」

フォックスは幼少期について、邪魔者扱いされてほったらかし状態だったと『Down the Drain』で書いている。祖父の家でTVを見ながら砂糖をライターであぶって飴を作ったり、父親が仕事でいないときには自室にこもり、猫のトイレで用を足していた。「間違いなくめちゃくちゃな子ども時代だった」と本人。「でも今は自分も親になって、前より理解できるようになった。父が向いてなかった部分とかね。父は自分が正しいと思ってたことをしてただけなのよ」。弟とイタリアで暮らす母親にはそこまで寛容ではない。「母はものすごく神経質で、ものすごく冷たい人。(親になってからは)なんでも母とは真逆のことをするようにしてる」。

親元を離れると、フォックスは誰からも指図されずに成長した。アッパーイーストサイドの高級百貨店で万引きし、中学生で早くも麻薬やセックスの味を覚えた。

『Down the Drain』によれば、フォックスは物心ついたときから性的対象として見られていたそうだ。11歳の時、クスリでハイになって26歳の男性といちゃついた。学校の廊下を歩けば上級生の男子から身体を触られ、いいケツだと褒められるのが自慢の種だった。「私たちにとっては生きのびることがすべて」の生活だったとアンダロア氏も言う。「ただ腕を組んで、いつも一緒でした。言葉も交わすことなく、視線をかわすだけで良かった。悪だくみとイカサマで絆を深めあっていました」。

『Down the Drain』はいろいろな意味で、対象化をテーマにしている。そしてそれに伴う精神的代償と、反抗と妥協を繰り返しながら世間を渡り歩こうとするフォックスの苦労。「私はずっと『かまってちゃん』だったのね」と本人は言う。男性からの承認欲求に飢えた女性のことだ。「イケてる美人になりたかった。男たちに好かれて、とことん甘やかされたかった。代償がついて回っても気にしなかった。(代償として)自分をたくさん否定し、自分にたくさん嘘をつくことになったけど」。

すぐにフォックスは、美貌がたくさんの可能性の扉を開けてくれる一方で――「おかげでいろんなクラブに出入りできました」とアンダロア氏も言う――暗黒面に落ちる可能性があることも学んだ。14歳の時、彼女は初めて大恋愛を経験する。本の中では「エース」と呼ばれる麻薬ディーラーは精神的にも肉体的にも虐待男で、彼女の跡を付け回し、脅迫状を送り付けた。当時フォックスと同居していたアンダロア氏も痛ましい関係の目撃者で、その時の影響が後遺症として尾を引いていたという。「そういうトラウマは、その場ではすぐに対処できないんです」とアンダロア氏は言う。「トラウマには波がある。今日、明日、1か月後は大丈夫でも、いつトラウマに襲われて影響を受けるか分からない」。


DRESS BYПОЛИНА МИЛАЕВ

当時フォックスは虐待を自分のせいにしていた。「あの時のことを思うとものすごく恥ずかしい」と本人。「女性が虐待の状況におかれると、たいがいはこう。『あんな風になるまでほっといたなんて、自分はバカじゃない?』って。多分そこが一番辛いかもね、ずっと頭から追いやってきた傷を再び掘り起こさなきゃいけないんだから」。最終的に、彼女はストレスで精神病院に入院した。

フォックスが昨年、世間から誤解された有名女優アンバー・ハードの支援に回ったのも、そうしたエースとの経験があったからだ。当時他のセレブは誰一人彼女の肩を持とうとしなかった。慌てた知人はやめておけと電話したが、フォックスは居ても立ってもいられずハードを擁護した。「友人には『いつかきっと流れが変わるわ』と言った」と本人。「そうなのよ、私は自分が正しいってピンときて確信したら、他人が何と言おうと気にしないの」。

10代も後半に差し掛かると、フォックスはSMの女王としてキャリアをスタートした。自叙伝によれば、挿入の必要がなく、「男嫌いの経験」もあったので、自分に向いていると感じたそうだ(彼女はじょうごを使うという斬新なアイデアも考案した。潔癖症の読者はこの部分を読み飛ばしていただきたい)。「どのみちモノとして扱われるんだもの」と彼女は当時の心境を振り返る。「だったらそれを利用して、自分のものにした方がいいじゃない?」。

フォックスはSM女王の仕事を気に入っていた。何年もセクシュアリティを利用された末に、それを武器にして金を稼ぐ術を見つけたのだ。「自分はクズだ、何の価値もないっていう考えに陥っていた。周りから『君はきれいだよ、最高だよ』って言われ続けても、私の耳に入るのはお金という言葉だけ。誰より依頼が殺到するようになって、顧客の数も一番になった。数字として、目に見えるようになった。それでやっと信じるようになったの」と本人。「自尊心を取り戻すのにすごく役に立ったわ」。

彼女がこれほど成功した理由は一目瞭然だ。フォックスの人柄は温厚だが驕ることなく、物腰も豊かだが鼻につくところもない。それと同時に高尚な雰囲気も漂う。めったに笑わず、自分の時間を費やすのにふさわしい相手かどうかを見極めようとするかのように、青い瞳で瞬きもせずにじっと見つめる。「内心はすごく温かみがあって、優しくて、愛情を惜しみなく注ぐ人です」とアンダロア氏。「でも外見はすごく激しく、冷酷ですよね」。こうした部分が、ある種の男性にとっては征服欲をかき立てられ、たまらなく魅力的に映るのだろう。彼女にしてみれば必要にかられて身に着けた資質だ。

「いつもそんな風に直感が働くの。よくあるのよ、『なんて悪人かしら』と思って、友だちは違う意見でも、後々になってやっぱり悪人だったって分かって、『だから言ったじゃない』っていうことが結構ある」と本人。「都会で暮らしていると自分1人だから、ある意味余計に目を光らせなきゃいけない。人の顔色を窺って、行間を読んで、裏の真意を汲み取らなきゃいけないの」。

20代でフォックスはダウンタウンのパーティの常連となり、当時付き合っていた恋人から金銭的支援を受けて、アンダロア氏とファッションブランドを運営していた時期もあった。ちなみにその恋人はSM女王時代に知り合った裕福な年配の男性で、自叙伝ではアントワンという名で登場する。フォックスいわく、ものすごくストレスを感じた時期だった――自分や友人の生活が恋人との関係にかかっていたからというのもあるが、アントワンから「プペ(フランス語で「お人形」の意味)」と呼ばれ、彼が求める役を演じることに精神的に疲れたからだ。

えてして年配の男性は、「若くて自由奔放、快活で、冒険好きで、魅力的で、若さにあふれ、エネルギッシュ(という女性像)を頭の中で思い描き、それを私に投影した」とフォックスは言う。「実際、私は飾り立てられた操り人形だった。もちろん、向こうの期待を壊すわけにもいかなかった。そんなことしたら、自分の得にならないもの。それで精神がすり減るまで、役柄になりきるってわけ」。

最終的にほころびが見え始めた。本の中にも書かれているように、他の男性との浮気が発覚し、アントワンとの関係は終わりを告げた。彼女は友人とともに路頭に迷うことになった。「彼女は猛スピードで大人になって、なんとか自立し、身を粉にして生計を立てるしかなかった」と言うのは、当時彼女と同居していた親友で、モデル兼フォトグラファーのリッチー・シャザム氏だ。「その度に彼女はいつもなんとかしていた。文字通り、いつも解決策を見つけていました」。

ファッションブランドをたたむ前、フォックスは貯金の大半をはたいて別の男性とクラブに投資した。その男性とはクラブでの暴力事件がきっかけで破綻した。フォックスは公の場でその男性を非難したが、アンバー・ハード同様、交際仲間から「村八分にされ、痛い目に遭わされた」そうだ。「どこに行ってもみんなが私の噂をして、あの子はクレイジーだとか、嫉妬心に狂ってデマを流しているんだとか言われた」(ちなみにその元恋人はニューヨークポスト紙に弁護士を通じて声明を発表し、容疑を否認している)。

Akiko Kato

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