サンファが語る新たな傑作の背景 抽象的なサウンドに込められた「過去と未来のサイクル」

 
母から自分、娘へと続いていくサイクル

―次は参加ミュージシャンについて。ユセフ・デイズ、クウェイク・ベース(Kwake Bass)、モーガン・シンプソン(ブラック・ミディ)という、スタイルの異なる3人の個性的なドラマーを使い分けているのが面白かったです。それぞれの曲で表現したいこととドラマーのキャラクターが結びついているのではないかと想像しました。

サンファ:ドラマーの使い分けに関しては、あまりそこまで深く考えなかったんだけど、「Spirit 2.0」のユセフのドラムに関しては多少の考えがあった。ブロークンビーツやエレクトロニックなサウンドのドラムを入れたいと思っていて、ユセフは非常に精確なドラムの演奏をエフォートレスにする人だからね。しかも、彼が聴いてきた音楽はエレクトロニックからヒップホップまで非常に幅広い。その影響が彼のドラミングにも反映されている。だから僕が「Spirit 2.0」でやろうとしていたことには、彼が適任だと思った。でも実際のところ、彼は僕の想像以上だったよ!(笑)

クウェイク・ベースのドラミングには自由な感じがあるんだけど、彼は同時に音楽機材オタクでもある。だから僕はクウェイクと二人でMIDIのドラムを作ったんだ。Polyendという会社からパーツを買って、アコースティックなMIDIドラムキットを二人で自作した。その機材に合わせてクウェイクがドラムを叩いた。彼はジャングルなども好きで、ワイルドとは言いたくないけれど、並外れたエネルギーを貢献してくれたよ。

モーガンは、僕が知っていたもともとのドラミングと、今回のドラミングが最もかけ離れていた人だった。彼が汎用性の高いミュージシャンだということが分かったよ。今回参加してくれたミュージシャンたちはみんな、新しいスタイルに適応できる人たちだった。僕が提案することに適応してくれるミュージシャンたちの姿を見られたのはすごくクールだったね。


ユセフ・デイズはトム・ミッシュとのコラボ作『What Kinda Music』(2020年)を経て、ソロデビューアルバム『Black Classical Music』を今年リリース。2024年2月にブルーノート東京で来日公演を予定


クウェイク・ベースが参加するスピーカーズ・コーナー・カルテットによる今年発表のデビューアルバム『Further Out Than The Edge』にはサンファも客演。『LAHAI』では「Stereo Colour Cloud」「Can’t Go Back」に参加


モーガン・シンプソンが参加した「Jonathan L Seagull」

―器楽奏者の生演奏をかなり使った部分に関して、インスピレーションになったアーティストや作品はありますか?

サンファ:昔から聴いていたものが参考になったというか。ある特定の時期のスティーヴィー・ワンダーや、シンサイザーを使ったアコースティックなテープ録音の音あたりかな。エイフェックス・ツインも参考にした。彼の『Computer Controlled Acoustic Instruments pt2』というアルバムを聴いていたんだよ(笑)。それを聴く前からアルバムの制作に入っていたんだけど、そういう機材について調べたりしているうちに、エイフェックス・ツインのこのアルバムに出会い、聴き始めたというわけ。

―ドラマー以外にもシーラ・モーリス・グレイ(ココロコ)やマンスール・ブラウンなど、イギリスのジャズ・コミュニティの人たちが参加していますが、それはどんな繋がりだったんですか?

サンファ:マンスールは、彼の音楽を聴いて、すごく良いと思ったからセッションに招待したんだ。シーラはトランペット奏者を探していたから。自分の頭の中にトランペットのフレーズがあって、それは「Can’t Go Back」の最後の方に聴こえる部分なんだけど、リヴァーブがかなりかかっているから聴こえにくいかもしれないね。それも最近できた繋がり。彼女もスタジオに呼んで演奏してもらった。すごく良い体験だったよ。ある一つの楽器に集中して取り組んでいる人は素敵だね。僕はまだトランペットのサウンドや、そのサウンドの様々な録音方法を学んでいるところなんだ。さらに、シーラにはセッションの最後に、あるフレーズを言ってもらったんだ。それがアルバムの全体を通して聴こえてくる、女性ボーカルの「Time flies, life issues」というフレーズだよ。それはシーラの声なんだ。「一緒にこのフレーズを言ってくれないか?」と彼女に頼んだら、とても良いものができた。だから彼女はトランペットの演奏以上の貢献をしてくれたよ。


Photo by Jesse Crankson

―その「声」についてなんですが、このアルバムでは「Inclination Compass」「Can’t Go Back」「Evidence」「Rose Tint」など、声を複雑に組み合わせたり、質感を変えたりして、歌やコーラスを超えた効果を生み出している曲が多いと思います。このアルバムでの「声」に関するチャレンジについて聞かせてください。

サンファ:僕は、西アフリカのワスールー音楽のコール&レスポンスに興味があるから、それを「Can’t Go Back」に取り入れたんだ。たとえそのコール&レスポンスが自分とのやり取りでも、他のボーカリストとでもね。ハーモニーに関しては、幽玄というか繊細で軽妙(ghostly & ethereal)な感じを出したかった。また、ミニー・リパートンや、彼女の最初のアルバム『Rotary Connection』をアレンジしたチャールス・ステップニーにもインスピレーションを得た。それから、アリス・コルトレーンなどのコズミック・ジャズやスピリチャル・ジャズからもね。結構、自然な形でそういう風になったから、今後はもっと複雑にしようと思えばできると思うんだよね。今後は構成についてもっと学んで、今回思い付いたコンセプトを掘り下げて、深いところまで追求していきたいと思っている。




―最後の質問です。今回のアルバムはボーカルやラップが多いと思います。そこであなたは「自分自身のこと」を語っている印象があります。それと同時に「スピリチャルな物語を娘に伝えている」「亡くなったお母さんに語りかけている」みたいなことも感じました。僕は「誰かに言葉を伝える」ことに意識的なアルバムなのかなと思ったんです。それはもしかしたら、アフリカのグリオに近いのかなとも思いました。

サンファ:うん、その通りだと思う。僕はグリオやセネガルのジャリと言った、言葉を使ったアフリカの伝統伝達や歌い方にインスパイアされているからね。それから今回のアルバムに関しては、フリースタイルで作っていく方が、紙に書き留める方法より大きな割合を占めていた。だからとても直感的で、自分の頭にあったことがそのままに表現されている。

僕の娘は、僕よりさらに一世代、シエラレオネから離れてしまった世代ということになる。彼女にとっても、今後、自己発見の時期が必ずやってくるだろう。そんなとき、このアルバムは、僕のことをもう少し知るための記録になると思うし、僕のことや、彼女自身のことをもっと知りたいと思うときに聴けば何かしらの手助けにはなると思う。僕は、娘からたくさんのことを学んでいるし、僕も娘に教えてあげられることはたくさんある。そして、僕は母親からもたくさんのことを教わった。すべてはサイクルであり、そのサイクルは続いていく。だから、そういう口頭伝承と僕の作品には確かに繋がりがあると思う。とはいえ、今、僕は録音をしてCDという形に残しているし、内容は抽象的かもしれないけれどね(笑)。






サンファ
『LAHAI』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック2曲収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13653

Translated by Emi Aoki

 
 
 
 

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