シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ来日目前 UKジャズの王者とアフリカを巡る物語を紐解く

Photo by Tjasa Gnezda

 
UKジャズの頂点を突き進むサックス奏者、シャバカ・ハッチングス率いるシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ(Shabaka And The Ancestors)が11月6日(月)・7日(火)ビルボードライブ東京で初来日公演を開催する。コメット・イズ・カミング、サンズ・オブ・ケメット、アンセスターズという3つのプロジェクトを跨いでシーンに衝撃を与え続けているシャバカ。南アフリカとイギリスを背景に、八面六臂の活躍を見せている彼のストーリーをジャズ評論家・柳樂光隆が紐解く。

※bbl MAGAZINE vol.190より加筆・修正して転載

※ビルボードライブ公演のチケットプレゼント実施中、詳細は記事末尾にて



2010年代末から盛り上がり続けるUKのジャズ・シーンを世界に紹介したのは『We Out Here』というアルバムだった。ここには2023年のマーキュリー・プライズを受賞したエズラ・コレクティヴやヌバイア・ガルシアなど、今やシーンの顔ではあるが、当時はまだ世界的にほぼ無名だったころの若手が名を連ねていた。この歴史的なアルバムをミュージック・ディレクターとして束ねていたのがサックス奏者のシャバカ・ハッチングス。シーンの中で「キング・シャバカ」とも呼ばれ、別格のリスペクトを集めている存在だ。

カリブ海のバルバドスで育ち、ロンドンへ移住してジャズ・ミュージシャンとして活動しているシャバカはジャズだけでなく、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドやエチオピアの巨匠ムラトゥ・アスタトゥケ、最近ではフローティング・ポインツなどともコラボしているロンドンの音楽シーンの重要人物であり、マカヤ・マクレイヴンやカルロス・ニーニョともコラボするなど、USのシーンでもその存在がどんどん大きくなってきている。そんなシャバカはサックス奏者としてだけでなく、様々なコンセプトの活動を同時並行で行ない、常にシーンを刺激し続けている。

シャバカが面白いのは3つのグループを同時並行で動かしていること。シャバカのサックスとチューバに2台のドラムを加えた「サンズ・オブ・ケメット」ではラテン系のリズムやアフロビートを織り交ぜたパワフルでダンサブルなサウンドを提示し、「コメット・イズ・カミング」ではシャバカのサックスにドラムとシンセサイザーを組み合わせて、UKのクラブ・カルチャーとロック・カルチャーが交差するようなコズミックなサウンドを奏でている。この二つはロックフェスなどにも進出しジャンルを超えて評価され、シャバカの名を世界に知らしめるきっかけにもなった。




そんなシャバカのもうひとつのバンドがシャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ(以下、アンセスターズ)だ。南アフリカのミュージシャンとのコラボという特殊なプロジェクトで、シャバカの活動の中でも最もディープでスピリチュアルな音楽性で知られている。

実は南アフリカのジャズ・シーンは近年、世界的にも注目を集めている。南アフリカのジャズはUKのシーンとも共振するようなハイブリッドな音楽性で、その中に南アフリカ特有の音楽要素が入っているのが特徴だ。そんなサウンドを世界的なジャズのトレンドや技術を身に着けられる高い実力を備えた若手ミュージシャンたちが演奏している。その様子は『Indaba is』という2021年のコンピレーションによって紹介され、世界的にも話題になった。そこからピアニストのボカニ・ダイアーが『We Out Here』『Indaba Is』をリリースしたブラウンズウッド・レコーディングスからデビューしたり、ボーカリストのタンディ・ントゥリがシカゴのインターナショナル・アンセムと契約したりしているし、ピアニストのンドゥドゥゾ・マカティにはブルーノートと契約し、世界的な評価を得ている。すべてはこの3年の話で、その注目度は着実に高まり続けている。しかし、シャバカは南アフリカのシーンが取り上げられるよりもずいぶん前から現地のミュージシャンたちと交流し、ともに作品も作ってきた。


シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ(Photo by Tjaša Gnezda / Mzwandile)

そんなシャバカの動きを語るには、南アフリカとイギリスの音楽シーンには歴史的にかなり密接な関係があることにも触れておくべきだろう。もともと南アフリカがイギリスの植民地だったこともあり、両国の距離は近く、その中でもジャズに関してはかなり交流があった。南アフリカ政府のアパルトヘイト政策に反発するジャズ・ミュージシャンたちの多くが亡命先にロンドンを選んだ経緯もある。例えば、南アフリカ・ジャズ史の最重要バンドのブルーノーツは南アフリカ政府からの弾圧に耐えかね、クリス・マクレガーやドゥドゥ・プクワナ、ルイス・モホロといったメンバーたちはイギリスに亡命し、ロンドンのシーンに多大な貢献をした。また80年代には南アフリカの名ピアニストのベキ・ムセレクがロンドンに移住し、華々しい活動を行い、コートニー・パインらロンドンの若手を大いに刺激している。彼らが積極的にイギリスのミュージシャンとのコラボレーションを行ったこともあり、南アフリカから移住したミュージシャンたちはイギリスのジャズ史を語るのには欠かせない存在にもなっている。むしろ、南アフリカのジャズからの影響がなければ、現在のイギリスのジャズシーンは存在しないとさえ言っても過言ではないだろう。

シャバカはそんなイギリスと南アフリカのジャズの歴史的な交流をも視野に入れながら、誰よりも早く深く21世紀以降の南アフリカのフレッシュなシーンをフックアップしてきた。その中心にあったのがアンセスターズというプロジェクトだ。

 
 
 
 

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