ハロウィンの大惨事、ソウル梨泰院で158人の死者を出した一夜を振り返る

Paramount+のドキュメンタリー『Crush』の1シーン(PARAMOUNT+)

多くの若者の命を奪った韓国・ソウルの雑踏事故から1年、悲劇を掘り下げたドキュメンタリー『Crush』がParamount+で10月17日より公開された。

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Netflixで爆発的人気を誇った『イカゲーム』しかり、ごく最近では臓器売買/売春組織が天変地異の地震(!)で暴かれるというParamount+のドラマ『Bargain』しかり、韓国のポップカルチャーは制度の崩壊と信用できない当局という陰欝なストーリーの宝庫だ。同じくParamount+で配信された全2部構成の最新ドキュメンタリー『Crush』は、そうした不安が現実のものとなった有名な事件にメスを入れている。2022年、ソウルの梨泰院界隈で158人の死者を出した(さらに生存者1名が罪の意識から自ら命を絶った)ハロウィンの大惨事だ。

恐ろしい物語をありのままに淡々と描くのは、TVドキュメンタリー『11 Minutes』の製作陣。2017年、ラスベガスのカントリーミュージックフェスティバル「Route 91」で発生した銃乱射事件を、やはり当事者目線でつぶさに描いたドキュメンタリーだ。惨事を徹底解剖することは、地味ではあるが、映画製作の重要な役割だ。『Crush』はいささか急ぎ過ぎた感もあるが、おそらくあまりにも悲惨ゆえ、痛みと不名誉を早く終わらせたかったのかもしれない。一応言っておくと、ここでの不名誉は警察の怠慢という形で表れている。下っ端の警官数人が処罰を受けた以外はほぼお咎めなしで、この手の話ではよくあるように、上層部はほぼ無罪放免状態だ。

『Crush』は生存者の述懐や動画の映像が大半を占めている。生存者の多くは事故当時に大人数で外出していたアメリカ人留学生だ(韓国の惨事がテーマなのだから、もっと韓国人を起用してもよかったのに、と言っても差支えないだろう。もっとも、しかるべきタイミングで韓国人も数名登場する)。目撃者の証言や携帯カメラでとらえた映像から、悪夢がスローモーションのように展開する。10月29日夜、仮装したパーティ客はハロウィンを祝おうと、ソウルでも有数のクラブシーンでLGBTQにもオープンな繁華街、梨泰院に繰り出した。1年間ずっと新型コロナウィルスで年間行事がことごとく中止されていたため、20代を中心とする群衆は思い切り羽を伸ばそうとしていたが、実は死の罠へと歩みを進めていた。

Akiko Kato

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