sunking シアトル実験デュオが語るヒップホップ、ジャズ、エレクトロを跨ぐ音楽人生

 
サンキングの音楽を支える自由と好奇心

ー普段訊かれたら、自分たちのサウンドを言葉でどう説明していますか?

ボビー:『SMUG』と新作とでは全然違っているし、難しいよね。あえて言うならインストゥルメンタル・ミュージックかな(笑)。

アントワン:僕はできるだけその質問を避けてるよ(笑)。

ーリスナーとしては、シンプルでわかりやすさが特長のインストという印象です。演奏者にとっては分かりませんが、あまり複雑ではなく、間口が広いというか。

ボビー:だよね、知的じゃなくていいと思うんだ。ジャズを知っていなければ楽しめないとか、そういうのって違うと思うんだ。個人的には、歳を取るほどこういう話をよくしてる気がするんだけど、知性に訴える音楽に、どんどん興味がなくなっている。感情に訴えたいんだ。ミュージシャンであっても、なくても、誰もが楽しめる、感情に訴える音楽を作りたいんだ。

ーとはいえ、長年やっていると複雑なテクニックに挑戦したいとか、演奏者としての楽しみに走りがちじゃないですか?

ボビー:そういう時期はもう卒業したかな(笑)。

アントワン:確かにボビーはそういう時期があったよね。僕はクラシックのバックグラウンドから逃げ出したかったから、最初からずっと避けてきた(笑)。

ボビー:本当の意味での楽器演奏者じゃないってことかもね。ただ僕は自分の聴きたい音楽を作りたいというだけ。僕が聴いてるヒップホップは4小節のループだし、ジャズなら60年代のやつ。ソウルフルなやつがいい。



ーアメリカのプレスには、異端のジャズユニットと紹介されていたりしますよね。

ボビー:そもそもジャズバンドじゃないし(笑)。

アントワン:言いたいことは分かるけど、サンキングはジャズじゃないよね。『SMUG』を聴けば明白だと思うな。

ボビー:個人的にはビートアルバムだと思うな。イマニュエル・ウィルキンスやジャズバンドより、マッドリブに近いと思うんだ。

アントワン:でもジャンルで括るのが彼らの仕事なんだろうね。僕の経験から言わせてもらうと、2本のサックスとメジャー9のコードが聴こえたら、大抵ジャズにされてしまう。だから僕たちは逆の方向に行きたいのかも。「僕たちは違うんだぞ」って言いたいのかもね(笑)。

ボビー:ジャズバンドのオープニングでツアーを組まれたこともあったよ。

アントワン:ああ、あのスウィングジャズとのツアーね。あれは意味不明だった(笑)。

ボビー:僕らも言われるがままに受け入れてきたからね。「君たちジャズマンだよね」って言われて「そうだよ」って答えてたし。今はもう少しちゃんと自分たちでコントロールしようと思っている。

アントワン:ジャズバンドよりもサイケデリック系のロックバンドのオープニングのほうが相応しい気がするな。エキサイティングだし。

ボビー:もしくはエレクトロニック・ハウス・ミュージックとか、ダンス・ミュージックとか。いわゆる伝統的なジャズバンドからは、最も遠いところにいるのが僕たちじゃないかな。おかしいよね。現代ジャズはすごく規律正しくて知的な音楽だけど、僕たちは違っている。

ー古いジャズには共感できると?

ボビー:僕はそうだね。ウェイン・シューター、初期マイルス・デイヴィスのセカンド・クインテット、セロニアス・モンク、ビル・エヴァンスとか、そういったやつ。

ー朝霧JAMで来日していたカッサ・オーバーオールとも仲がいいようですが、友達なのですか?

ボビー:カッサね、いい友達だよ、同郷シアトルの出身だし、8月にはフェスで一緒に共演したよ。

アントワン:2019年にもシアトルのフェスで共演した。3曲ほど。あの時も日本から帰ってきたばかりで、僕たちが彼のラップのバックバンドを務めたんだ。

ボビー:でもスレ違ってばかりで、なかなか会えないんだよね。彼が朝霧に出演した土曜は、僕たちUFOでライブだったし。カッサのバンドメンバーも、他のバンドの時から知っていたりして、いい仲間だよ。カッサがやりたい音楽をやってるのは、すごく嬉しいな。


Photo by Will Matsuda

ー音楽が自己表現手段だとすれば、サンキングのサウンドの要は何だと思いますか?

ボビー:好奇心だと思うな。それが僕たち2人を結びつけている。

アントワン:うん、個人的には、サウンドのテクスチャーが大好きで、とても興味を持っている。だからモジュラーを試してみたり、ギターを弾いても速弾きのソロとかじゃなくて、違った形で貢献したいんだ。

ボビー:ジョニー・グリーンウッドみたいにね。

アントワン:そう、彼は最大のインスピレーションなんだ。僕も映画音楽が大好きで、映画のスコアを作るのも大好きだから。

ボビー:サンキングを2人でやっていない時、彼はアンビエントミュージックや映画のスコアを作っている。僕はヒップホップやハウスミュージックを作ってる。

アントワン:で、一緒になった時、ダンスっぽいテクスチャーとエレクトロニックなビートが合わさり、こうなるんだ。

ーサブカル的なバックラウンドや影響も受けていたりしますか?

ボビー:もちろん。特に僕はそうだね。僕たちが育ったシアトル界隈には、DIY精神が溢れていたから。トラブルメーカーなところも少しあったから、僕はDIYに共感したと思うんだ。グリーン・デイやブリンク182、ヒップホップなどに夢中になったのもDIYと関係あるよね。シアトルでバンドをやってたら、自然と影響を受けるんだ。本気でバンド活動をやりたい18歳なら、車に楽器を積んで西海岸を回る。3週間ぐらい掛けて、知ってる会場、レコード店、地下室、コーヒーショップ、どこでも演奏して回るんだ。レーベルが声を掛けてくれるのを待ってたりしないね。みんなが自分で行動を起こしていた。僕たちの知り合い、バンド仲間は、みんなそうやってツアーをやって演奏していたよ。欲しければ、自分でゲットする、というのがモットーだね。レーベルや事務所はあとから付いてくる。そういうサブカル的な精神は、ビジネスなんて糞食らえという姿勢でもあったよ。いわゆるカウンターカルチャーだよね。シアトルからはニルヴァーナなども出てきたし、そういう地盤があったから。

ー有名になってビジネス的にも成功したいと努力をする一方で、でも、それを避けていたりも?

ボビー:世界には80億人もいるから、自分のやりたいようにやればいい。成功したければそれでいいし、でも僕たち2人は、そういうのを目指してはないんだよね。エド・シーランになりたいとは思っていないんだ。

アントワン:僕は一生誰にも気づかれずに、コーヒーを買いに行けるくらいがちょうどいい。その一方で、自分のやりたい音楽を作ることができて、生計を立てられるならそれが理想だね。

ボビー:だから僕たちはマッドリブを尊敬しているんだ。ジョニー・グリーンウッドからも大きな影響を受けている。でも彼がコーヒーショップにいても、多くの人は気づかないと思うんだ。あと自分で何かを始めるってことが大切なんだ。名声やお金を追っても何も起こらない。自分が信じることをやって、それでムーブメントを起こすことが大切なんだ。

 
 
 
 

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