ビョークが語るロザリアとの共演秘話、環境問題に挑みながらハッピーな希望を歌う理由

ビョーク、ロザリア(Photo by Santiago Felipe/Getty Images; Aldara Zarraoa/WireImage)

ビョーク(Björk)とロザリア(Rosalía)のデュエット曲「Oral」がリリースされた。母国アイスランドにおける商業的規模のサケ養殖が生態系に与える深刻な影響を懸念するビョークは、新曲の収益を養殖場造成の反対運動にあてたいと考えている。米ローリングストーン誌による最新インタビュー。

ビョークは、ここ数年の間に何千匹もの「フランケンシュタイン・フィッシュ」なる生物がアイスランドの河川に生息するようになったことに、激しい憤りを感じるという。

フランケンシュタイン・フィッシュとは、ビョークがつけた養殖サーモンの別名である。パニック映画『ピラニア』(1978年)の肉食魚ピラニアを想起させるこの不気味な魚は、ここ数カ月にわたってアイスランド西部のフィヨルドのそこここに造成された沖合の養殖場の囲いから逃げ出し、同国の河川に流入している。この侵入者たちが殺虫剤や排泄物を河川に持ち込み、野生のサケと交配することで、野生のサケの個体数が減少するのではないかと危惧されている。世界的に見ても、野生のアトランティックサーモンの個体数は、20年間にわたって激減している。主な原因は、気候変動とアニサキスをはじめとする寄生虫である。アイスランド野生生物保全基金(IWF)のデータによると、アイスランドの野生のアトランティックサーモンの個体数は、1970年と比べて4分の1にまで減少した。

かねてより地球——特にアイスランド——の環境保全への取り組みを公言してきたビョークは、新曲「Oral」を通じてアイスランドのサケ養殖問題にスポットライトを当てようとしている。スペイン出身の世界的ポップスター、ロザリアとのコラボレーションによる新曲の歌詞自体は、サケとは無関係である。だからこそ、ビョークの想いはより切実にリスナーに伝わるのかもしれない。

このたびリリースされた「Oral」という曲は、もともとはビョークが90年代後半に作曲&レコーディングしたものである。だが、この曲が日の目を見ることはなかった。『Homogenic』(1997年)や『Vespertine』(2001年)といったアルバムに収録するには、あまりにもポップでメインストリームすぎると考え、リリースを控えたからだ。その未発表曲が11月21日(現地時間)にリリースされる。一瞬にしてリスナーを虜にしてしまうストリングスとかすかなレゲエのビートにのせて、ビョークとロザリアは「理想と現実」とを結びつけることの難しさと、愛しい人への想いを歌い上げている。サビの部分で“それは正しいことなの?”(Is that the right thing to do?)と問いかけるふたりは、“私にはわからない/わからないの”(I just don’t know/I just don’t know.)と答える。この曲が収められたマスターテープは、今年の3月までビョークのアーカイブの中で眠っていたという。それを改めて聴いたビョークは、今回のリリースに踏み切ったのだった。



アイスランドの野生のサケが危機に瀕していること——さらには、今年の夏にかけて事態が悪化し、養殖サーモンを駆除するために政府が“サーモンハンター”を派遣したこと——を知ったビョークは、「Oral」をチャリティ・シングルとしてリリースすることを決意。楽曲に新鮮味を与えるため、ロザリアに声をかけたのだった。楽曲の収益は、アイスランド東部セイジスフィヨルズルの近隣住民たちの反対運動の支援金となる。フィヨルドに囲まれたこの場所に、商業的規模のサケ養殖場の造成が予定されているのだ。残りの収益は、新しい法律の制定やアウェアネス喚起のための活動にあてられる予定だ。

IWFのヨン・カルダル氏は、「野生のアトランティックサーモンの生息地は、気候変動と海洋酸性化によって減少し続けています」と本誌に語った。さらにカルダル氏は、次のように続ける。「だからこそ、野生のアトランティックサーモンへの悪影響や脅威を最小限に抑え、新しい環境への順応を妨げないようにすることが急務なのです。寄生虫や養殖サーモンとの交配、沖合のいけすで養殖されるサーモンの感染症などは、野生のサケにとってもっとも危険な人為的脅威です」

ビョークは、ビデオ通話アプリを介して本誌に次のように語った。「私は、事態を変えられると思っています。だからこそ、こうした活動を行なっているのです。科学者や環境法を専門とする弁護士に話を聞いたところ、いまからでも被害の修復は可能であることがわかりました。大切なのは、環境関連のニュースにはハッピーエンドが待っている、と人々に思ってもらうことです」。

Translated by Shoko Natori

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