増加する実録犯罪ドキュメンタリーへの疑問、殺人犯に発言の機会を与えるべきか?

デヴィンスさん以外にも、こうした問題に声を上げている被害者遺族がいる。2017年にルームメイトから殺害されたブルック・プレストンさんの姉ジョーダン・プレストンさんは、妹の事件をテーマにしたHuluのドキュメンタリー『Dead Asleep』に異を唱え、2021年にTikTokで署名運動を起こして話題を集めた。デヴィンスさんと同じく、ジョーダンさん一家もドキュメンタリーへの出演を辞退した。ブルックさんを殺害したランディ・ハーマン・Jr.とのインタビューがメインになると分かったからだ。犯人は犯行の際に夢遊病にかかっていたと主張したが、第1級殺人罪で有罪となり、終身刑を言い渡された。

「夢遊病の弁護を深く掘り下げるとかなんとか言われました」と、2021年に『Dead Asleep』のプロデューサーから打診された時のことをジョーダンさんは語った。「わりとはっきり、妹ではなく犯人がメインになると言われました。犯人主体のものに、なぜ私たちが協力しなきゃいけないんでしょう? あいつは私たちから妹を奪ったんですよ。あいつは世間に申し開きができるのに、どうして妹はできないんですか?」(当時ローリングストーン誌も番組ディレクターのスカイ・ボルグマン氏にコメント取材を申請したが、返答は得られなかった)。

キム・デヴィンスさん同様、プレストンさんも『Dead Asleep』のプロデューサー陣が法律に違反していない点は認識している。だがこの番組も含め、実録犯罪ドキュメンタリーは家族の同意なしに制作されるべきではないと強く感じている。「間違ってます。遺族は悲しみに暮れているんですよ」とプレストンさん。「なぜ私たちを利用したがるんですか? あの人たちは私たちの痛みをスクリーンにさらして、私たち家族を傷つけているんです」。

実録犯罪というジャンルは近年大ブームだが、Podcast『Serial』やTVドラマ『殺人者への道』のヒットにより、こうしたコンテンツがオーディエンスや被害者遺族に向けて何を意図しているのか、疑問の声も上がっている。実録犯罪ものは被害者の声を代弁しているのだとか、安全や犯罪防止について無防備な市民を啓蒙する公共サービス的な役割を果たしているのだ、と弁護する人もいる。だが、実録犯罪ブームは制御不能になっているという反論も多い。その例として、RedditやTikTokでは素人探偵が大人気で、実際の犯罪被害者に関する破廉恥な陰謀論を定期的に報じるクリエイターの存在が指摘されている。

AIの登場により、被害者のディープフェイクが殺人の生々しい様子を語るTikTok動画が出回るようになり、実録犯罪ものが被害者や遺族にもたらす影響の倫理問題はさらに複雑化している。ニューヘイヴン大学で刑事司法を専門とするポール・ブリークリー助教授は以前ローリングストーン誌の取材で、「この手のものは、すでに被害に遭われた方々が再び被害を受ける可能性をはらんでいます」と語っていた。

『Interview With a Killer』の放映日が間近に迫り、デヴィンスさんも放送差し止めをあきらめた。それでも声を上げたのは、「実録犯罪ものが被害者遺族に与える影響について、認知を広めたかった」からだそうだ。

「Plum Picturesは殺人者に嘘をまき散らす場を与えずとも、力強い啓蒙メッセージを発信できたはずです」と本人。「殺人犯にインタビューせず、被害者や残された人々の痛みをテーマにすることができたはず」なのに、代わりに「娘を殺した犯人に、望み通りの注目を与えたんです」。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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