ルイス・コールとジェネヴィーヴが今こそ語る「KNOWER」という奇跡的コンビの化学反応

 
DIYを貫くのは「反骨精神の表明」

―最新作『KNOWER FOREVER』は『Life』からサウンドが随分変わりましたよね。先ほどルイスさんから「ライブ・アルバムにしたかった」という話もありましたが、コンセプトについて教えてもらえますか。

ルイス:今回はライブバンドでアルバムを作りたかった。二人だけですべてを完結させるんじゃなくて、多くの人を巻き込んで制作をしたいと思ったんだ。

ジェネヴィーヴ:エピックでDIYな作品を目指したよね。合計で60人くらい参加したんだっけ?

ルイス:シンガーが16〜17人に、ストリングスが24人……それくらいだったはず。


「I'm The President」MVにはサム・ウィルクス(Ba)とジェイコブ・マン(Key)に加えて、総勢50名近いブラス/クワイア/ストリングスの各セクションが参加

―ということは、予算も相当かかっているということですか?

ルイス:……うん(苦笑)。

―クレジットを見た時に、オーケストラの人数にびっくりしましたよ。これは予算がヤバそうだなって。

ルイス:(笑)金銭面でも平等にしたかったし、レコーディングのスケジュール調整も大変だったよね。かなりのお金と時間がかかったよ。

ジェネヴィーヴ:(制作期間が)パンデミックの時期だったから、検査キットとかも用意しなきゃいけなかったのが大変だったね。

―ということは、割と長い時間をかけて作ったアルバムなんですね。

ルイス:ああ、ほとんどのインストゥルメンタルは2019年に作ったんだ。

ジェネヴィーヴ:2020年に録音する予定だったけど、コロナの影響でセッションがキャンセルになっちゃって。

―では、それぞれのソロアルバムがたまたま先にリリースされたということですか?

ルイス:本来は、ノウワーのアルバムが先にリリースされる予定だった。コロナの影響で延期になったから、ソロアルバムの制作をしたんだ。ソロは僕1人で完結するからね。



―先ほどライブバンドという話がありましたが、音作りについて聞かせてもらえますか?

ルイス:ハイファイで壮大でクリーンなサウンドだった前作と対照的に、今回は手持ちの楽器と機材で宅録をしているようなイメージで作った。壮大なスケールで完璧にミックスされたサウンドじゃなく、あえて粗さを残したサウンドを目指したんだ。それが、今回のアルバムにはふさわしいと思った。

ジェネヴィーヴ:ルイスの言う「粗さ」は、ポラロイド写真が持つ美しさに似ていると思う。それぞれが異なる美しさを持っているということ。

―逆に『Life』の頃から変わっていない部分があれば、それがノウワーの音楽の核の部分と言えると思います。何か思い当たりますか?

ルイス:グルーヴの密度かな。

ジェネヴィーヴ:ええ。どのパートにもまったく緩みがない。

ルイス:それにコードとハーモニーの強い主張、密度、そのディープなバランスがとれていること。

―『KNOWER FOREVER』というタイトルの意味は何でしょうか? 最終回っぽいですけども。

ルイス:『バットマン フォーエヴァー』。

ジェネヴィーヴ:ただ響きが良かったから(笑)。

ルイス:なんかかっこいいじゃん(笑)。


Photo by Yukitaka Amemiya 

―何年か前にバークリーで留学していた友人から聞いた話ですが、当時のバークリーはノウワー好きの学生が多くて、曲を譜面に起こしつつ演奏していたそうです。でも、ノウワーみたいにかっこよくならないからなぜだろうって。

二人:(頷きながら聞く)

―そこで調べてみたら、和音に理由があると気づいたそうです。ノウワーの楽曲はどこかで音がずれていたり抜いてあったりする箇所があって、バークリーの学生たちはそれを理論的に正しいものに直してしまったから、ノウワーらしい響きが失われていた。その独特の構造が多くのミュージシャンを惹きつけてきたのかなと思うのですが、そういう変わった構造は意図的に作っているものですか? それとも偶然そうなっている?

ルイス:意識的にやっているよ。正直、僕は音楽のセオリーについて詳しくないんだ。何年も音楽をやってきているから、感覚的には理解しているけど、何を弾いてるかは分かってない。ただ、どの音がどの場所にあるべきかは、はっきりと分かるんだ。ピアノを習ってないことが変わったサウンドを作っている理由の1つだと思う。スタンダードのコードを弾けるほど精通してないから、思い浮かんだ音を弾いてるんだよね。

ジェネヴィーヴ:それに、みんなが習うようなボイシングやコードって、もう何百万回も聴いてるから飽きちゃったっていうのもあるよね。私たちは、自分たちが楽しめるようなサウンドを求めてるってことかな。

―ユニークなコードを意識的に作ることの理由は?

ジェネヴィーヴ:複雑で、味わったことのない感覚を与えてくれるから。私はそれを求めて曲を書いている。

ルイス:予測できないものが生まれて、自分でも驚くような瞬間があるんだ。不協和音から、そういったものが出てくることがあるよ。

―それって自分がイメージしたものを試しながら探して掘り当てていくような作業ですか? それとも頭の中にあるイメージがそのまますぐに鳴っているんですか?

ルイス:イメージが浮かんできて、それを形にしようとすることもあれば、手を動かすことからスタートして、何も意図していないところから良いものが生まれてくることもある。まあ、両方だね。



―先ほど予算がかかったとか「多くの人を巻き込んで制作をしたかった」という話もありましたが、MVはデビュー当初から最新作に至るまでずっと自宅で撮り続けていますよね。ノウワーがDIYであることを大切にしているのはなぜでしょうか?

ジェネヴィーヴ:ただ、自分たちが使えるもので制作しただけだよ。それに、音楽のクオリティよりプロダクション・バリューが高く評価されている現代において、 DIYは私たちの反骨精神を表明している。自分たちを表現するためには、決して立派な機材がなくたっていい。そのことを私たちから多くの人々が学んでくれていると思う。いつもDIYで制作しているのは、すべてをコントロールできるし、思い立った時に制作できるのが大きな理由。他の人と制作すると、大抵ファンシーで洗練されたものになりがちで、アイディアを通すことが難しくなる。私たちは自分たちのアイディアを守りたい。たとえ学生の作品みたいに見えようとも、それが私たちのやり方だから。

ルイス:誰かと一緒に制作するのも、もちろん素晴らしい。でも、限られた予算の中で制作をしなきゃならないっていうことも身に染みて知っている。金がないなら、ベッドのシーツにビルのイラストを印刷したり、身の回りのものを使えばいい。荒々しい部分が残っていて、いかにも洗練されたものにはならないかもしれないけれど、自分たちで作り上げることで多くのスキルを身に付けてきたし、どの側面をとっても、僕らから生まれてきた作品だって言える。純粋な僕らの作品が作れるなんて、最高だと思うよ。

―本当にそのとおりですね。でもお二人はいまや売れっ子ですし、もし豪邸に引っ越したりしたらビデオの雰囲気も変わるんでしょうか。

ルイス:心配しないで、そんな余裕ないから(笑)。

―スティングみたいに城とかで暮らしたら、それはそれで面白いビデオが撮れそうですけどね。

ルイス:お城だったら、すごいリヴァーブが録れるんだろうなぁ。




KNOWER JAPAN TOUR 2024
feat. サム・ウィルクス、ポール・コーニッシュ、チキータ・マジック
SUPPORT ACT:TBC

2024年3月28日(木)東京・LIQUIDROOM
2024年3月29日(金)大阪・umeda TRAD
詳細;https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13826


ノウワー
『KNOWER FOREVER』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック「Bonus Track」追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13722

Translated by Tomomi Hasegawa, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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