ルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディによるLA発のユニット、ノウワー(KNOWER)が前作『Life』から実に7年ぶりとなる最新アルバム『KNOWER FOREVER』をリリースした。共にブレインフィーダーに所属しながら充実したソロ活動を送ってきた二人だが、ここからはその意味深なタイトル通り、ノウワーというユニットでしか生まれえない何かが確実に聴こえてくる。今回、11月に「なぜか」来日していた二人に話を聞く機会を得たので、この機会にノウワーについてゼロから掘り下げることにした。お互いのことをどう見ていて、一緒に活動するうえでどんなことを考えているのか。現在の活躍ぶりを考えたら今更な質問をしているように思われるかもしれないが、二人とも7年前とは立ち位置がすっかり変わっているわけだし、僕(柳樂光隆)自身も個別に取材したことはあるが、ノウワーについては「そういえばよくわかってなかったな」と改めて調べながら気づいたのだ。
そういった質問を重ねたことで、ノウワーというプロジェクトの本質がようやくわかった気がする。二人は取材中も息がぴったりだったし、お互いのセンスやバックグラウンドを何もかも共有できているようにも映った。2024年3月に東京・大阪で開催される来日ツアーを前に、このコンビの奇跡的な相性を再認識できるインタビューになったと思う。
―最初に聞いておくと、ルイスは何しに日本へ来たんですか?ジェネヴィーヴ:(笑)。
ルイス:ただのバケーションだよ。セブンイレブンで鯖の塩焼きを買って食べたところ(笑)。
―そうですか(笑)。ノウワーとはどういったプロジェクトなのか、そもそもの話から聞いてもいいですか?ルイス:2009年にジェネヴィーヴから、プロデュースをしてほしいって数曲送られてきたんだ。それが最初だった。
ジェネヴィーヴ:実は彼から最初に受け取った曲は、すごくつまらなかった。「申し訳ないけど、すごくつまらない」と伝えたら、彼は私がそういうのを望んでるって勘違いしていたみたい。私はクレイジーさを求めてたから。そこからは「今までにないクレイジーな音楽を生み出そう」って感じで一緒に制作している。
―最初の曲はどんな感じだったんでしょうか?ルイス:「The Mystery Of A Burning Fire」だった。
ジェネヴィーヴ:「Like A Storm」もじゃない?
ルイス:ああ。それから……。
ジェネヴィーヴ:「From Two Sides」も?
―ノウワーとして最初のアルバム『Louis Cole and Genevieve Artadi』(2010年)に収録されている曲ですね。ルイス:うん。それに「From the Height of Accusation」もそうだね。
ジェネヴィーヴ:それは一度も……。
ルイス:うん、まだ一度も公表していない。ヴァイオリンとチェロを持ってきて、すべてのストリームセッションをレコーディングしたんだ。まだ曲にしてない。
ジェネヴィーヴ:曲にしなきゃ!
ルイス:ああ。
―ノウワーという名前の由来は?ルイス:スイスにいた時、友人の車に乗せてもらってる間に名前を考えてたんだ。なかなか決まらなくてさ。道中で、運転手に「このあたりで美味しいドーナツ屋ない?」って聞いたら、彼は「知らない。僕はドーナツ・ノウワー(Knower)じゃないんだ」って言ったんだよ。
ジェネヴィーヴ:「ノウワー!? ねえ、今の聞いた!?」って、そんな感じだったよね(笑)。
ルイス:ああ。まさにぴったりだと思ったんだ。たぶん正しい英語なんだと思うけど。
ジェネヴィーヴ:きっと正しいけど、誰も使わない。
―そこから二人でどういう音楽をやろうと考えたんですか?ジェネヴィーヴ:アルバムのコンセプトについては、よく話し合ってた。大抵の場合、私が彼のところに曲を持っていってたんだけど、当時の曲は、その時に私たちが熱中していたものがダイレクトに反映されていたと思う。例えば、『Let Go』(2013年)や『Life』(2016年)を制作していた時、ルイスはエレクトロニック・ミュージックの作品をたくさん作っていたから、そのアルバムもエレクトロニック寄りのサウンドになった。『Let Go』のライブアルバムをやろうって決めたのも、「Overtime」と「Time Traveler」のライブセッションをやっていた時だったんだ。サウンドもすごくポップな感じにしようって。その時々の自分たちに従ってる感じかな。
ルイス:たしかに。僕らのアルバムにはそれぞれコンセプトがある。『Think Thoughts』(2011年)では、ファンクのアルバムを作りたかったんだ。
ジェネヴィーヴ:そう、ジャズっぽい感じの。
ルイス:『Let Go』(2013年)や『Life』(2016年)では、エレクトロニック・アルバムを作りたかったし、最新作の『KNOWER FOREVER』はライブ・アルバムにしたかった。
ジェネヴィーヴ:次は、メタルっぽいのを作ろうかって考えてる。
―マジっすか(笑)。ジェネヴィーヴ:そのうちジャンルを制覇できそうだよね(笑)。
―エレクトロニックなところに向かったきっかけは?ジェネヴィーヴ:スクリレックスを観たんだよね。
ルイス:ああ。2011年のスクリレックス……最高だったよ。
ジェネヴィーヴ:サンフランシスコでね。ルイスと彼のライブに行ったんだけど、インストゥルメンテーションは無限大で、何もかもが楽器になっていて……最高のパフォーマンスで、すごく刺激された。彼(スクリレックス)はそういった表現がすごく得意だよね。
ルイス:フォーマティブでクール。ダブステップが理解できるようになったのも彼の音楽と出会ってからだ。ライブでのベースサウンドは信じられなかったな……ジェットコースターを音楽で表現したんだなって思ったよ。巨大なPAスピーカーを使うことが前提になっていて、サウンドは文句なしに最高。ボーカルもピアノもない。(声を震わせながら)「アアアアア……」ってただ振動を浴び続けるんだ。
ジェネヴィーヴ:(笑)。
ルイス:友達と話す暇なんかない。ただ音を浴び続ける……最高だよ。
―ということは『Life』を作った頃には、フェスにあるようなパワーのあるスピーカーから音を出す想定で作っていたんでですか?ルイス:ああ、そういう場所でやりたいと思っていた。
ジェネヴィーヴ:ときどき、アリーナで音響の人がスピーカーのテストをする時、私たちの音楽を使うことがあって、そのビデオを送ってくれる。それを聴くたびにアガるよね。
ルイス:そういった場所でライブをする機会は、今まであまりなかったんだよなぁ。
ジェネヴィーヴ:フェスで数回やったくらいじゃない?
―なるほど。デカい音が出せるフェスでパフォーマンスをした時は、自分たちがやりたかったことを実現できたという感じでしたか?ジェネヴィーヴ:
「Second Sky」(ポーター・ロビンソン主催の音楽フェス、ノウワーは2021年に出演)でやった時、ヴィジュアルが巨大なスクリーンに映し出された時は嬉しかったよね!
ルイス:ああ、「ついに!」って思ったな。
―『Life』の頃に作っていたのは、普通のライブハウスというよりは、クラブなどでパフォーマンスした方がふさわしい音楽だったのかもしれないですね。ルイス:無意識的には、そういった場所にふさわしい音楽を作っていたんだと思う。ただ、あのアルバムを作っていた頃の僕らはそこまでビッグじゃなかったから、比較的小さい場所でプレイすることになるだろうとも思っていた。凝縮された音楽体験ができるライブハウスもすごく楽しいよ。でも、君が言うように、そういった場所を想定してたんだろうね。
ジェネヴィーヴ:私たちの音楽にはたくさんのコードが入ってるから、エレクトロニックシーンの人たちには「ジャズっぽすぎる」って思われることもある。実際、ジャズフェスに出たこともあるし。でも、「Second Sky」は好きにさせてくれたから自由にやったんだよね。