コーシャス・クレイが語るジャズとポップを繋ぐ感性、上原ひろみやBTS・Vへの共感

 
ジャズとポップを横断する自由な感性、Vとコラボした経緯

―ジャズを学んでサックスやフルートを吹いていた頃から、今のようなシンガーソングライターとして成功するためにどんなプランを描いていたんですか?

コーシャス:プランはなかったかな(笑)。パッションだよ。それに運良く、多くの人が気に入ってくれる声をしていただけだし、しかも、歌い始めたのも遅かった。サックス、フルート、プロダクション……あと、大学で何年もDJもしてたね。それはプランというよりは、音楽に関するすべての要素が好きだっただけなんだ。ものすごい変わったジャズからポップなものまでみんな好きだった。このコンプレッションが……とか、このプロデュースの仕方が……とか、この1つの音が他の音を思い起こさせる……とかそんなふうに原因は色々。とにかくたくさん聴いて、技巧への熱い思いとリスペクトだけは持ってた。粘り強くね。僕には確信があった。だから、今の自分がいるんだと思う。

―確信……具体的に言うと?

コーシャス:たとえば、人って仕事に関して、大変な決断をしなきゃならない時ってあるよね? 仕事によってはただこなすだけで、批判的に考えずにできるものもある。でも僕は批判的に物事を考えたり、クリエイティブな仕事が好きなんだ。そう確信を持って言えるよ。パッションがあるんだ。サウンドを作るという技巧のあらゆる要素に対して興味がすごくある。音楽に限らず、サウンドを作ることが大好きなんだ。本来は一つにならないように見えることの中に関係性を見つける……これは太陽みたいに見えるけど、実際は違う……みたいな。上手く言えないけど。なんとかそれを説明する方法を見つけたいってずっと思ってるんだよ。

―人生の一時期、不動産の仕事をしてたり、かなり回り道をしてきたそうですよね。それでもミュージシャンになれる確信があったと。

コーシャス:うん、そうだったんだと思う。自分に作れるものをすべて作る方法を理解したかったんだ。音楽業界の悲しい点の一つは、あらゆる場面でアーティストとしての自由にクリエイトする能力を奪おうとする人たちがいるってこと。だから僕は音楽プロデューサーになる道を学び、曲を書き、自分で歌い、ミックスし、リリースした。ずっとインディペンデントなアーティストとして……きっと今だってまだある部分で僕はインディペンデントなアーティストなんだと思ってる。

だから、さっき僕が「確信」と言ったのは、自分のやっていることの意味を探し続ける道を僕は進み続けるし、進むことを止める気はないってことだね。楽しんでやっていることだから。それが当たり前のことだとは思いたくないんだ。



―億単位で再生されている曲をもつ一方で、ジャズの名門レーベルからアルバムを出している。それでもインディペンデントで自由でいるために必要なことはなんですか? それって若いアーティストが皆、知りたがっていることだと思うんですよね。

コーシャス:僕の場合はタイミングがすべてだった。不動産の仕事をしていた22歳の時点で、一人で音楽制作を行い、SoundCloudである程度のフォロワーがいた。その頃、出会ったマネージャーがありがたいことに、いいやつだったんだよ。音楽業界に通じていて、僕があらゆるプロセスにおいて自由にできる道を取り付けてくれて、助けてくれた。レーベル、音楽出版会社、ライセンス会社などは、アーティストにとって理解できないと脅威に思える存在だよね。でも、僕は時間をかけてそこらへんのことも学んだんだ。だから怖気付くことはないんだよね。

『KARPEH』は本当に贅沢に作らせてもらったアルバム。その時点で僕にはファンベースができていたし、自分一人でインディペンデントに作ることを心掛けた。ブルーノートのようなレジェンドレーベルから発表できたのは、僕にとっては素晴らしい機会だったけど、レーベルにとってもいい話だったんだよ。一から何かをしなくてもいいだけのファンベースが僕にはあったわけだから。もちろん、すごく手伝ってもらったけどさ!(笑)。いずれにせよ、両者にとって好ましい形だったということだよ。

―今まであなたが作ってきたポップでキャッチーな歌ものと比べると、『KARPEH』はかなり実験的ですよね。これまでのファンはかなり戸惑うんじゃないかと思うのですが。

コーシャス:それは大いにあったと思う。ただ、これが自分のやりたいことだったから。ポップミュージックは大好きだけど、ビッグなポップ・アーティストになりたくて音楽を始めたわけじゃない。自分が作りたい音楽を作るのが好きなんだ。理由はそれだけ。それでも驚いた人はいただろうね(笑)。でも僕はこの仕事を長くやっていくつもりだから、これからずっとジャズ・アルバムだけを作っていくつもりもない。

ジャズは大好きだし、その自由さも大好き。自分のアイデンティティ、カルチャー的な要素、その中での経験、母も父もジャズが好きだったので、ジャズを聴いて育ってきたし馴染みがあった……そういう背景があったから、自分に語れる音楽だと感じたんだ。それに新しいファン、これまでとは異なるファンを開拓したかったのもある。「この1曲しか聴きたくない」ってことじゃなくて、僕のやること全部をリスペクトしてもらえれば……と思ったんだ。みんなを疎外してなければいいんだけどね(笑)

―ジャズをやってきた自分の、アーティストとしての大事な部分を知ってもらうための名刺、という意味もあったんですかね。

コーシャス:それは絶対にあった。僕はジャズを理解しているし、ジャズから多くをもらって感謝してるけど、同時に僕はジャズ・ミュージシャンではない。でも僕の体験の一つではあるから。



―フルートのことも聞きたいんですが、フルートのどんな所に魅力を感じていますか?

コーシャス:柔軟性かな。僕は誰よりもうまいフルート奏者ってわけじゃないけど、先生だったグレッグからたくさんのトリックを学び、そこから自分だけのプレイスタイルを作ることはできたと思っている。フルートってかわいい音色だと思われがちだけど、実は様々なサウンドを出せる点が魅力なんだ。

―サックス、トランペット、クラリネットにはもう少し構造が複雑で「機械」って感じがしますけど、フルートは筒に穴を開けただけで。

コーシャス:本当にそうだよね。っていうか、なんだってフルートになる。これだってフルートさ(と言って、手元のペットボトルを吹く)。だから好きなんだ。なんだってありなんだよ。

―でもローランド・カークやエリック・ドルフィーを見てもわかるように、技術があれば奇妙な音も出せると。

コーシャス:その通り。ドルフィー、ローランド・カーク……そして理由は違うけど、キャノンボール・アダレーも、大好きなサックス奏者だ。彼らは当然ながら、もの凄いテクニカルなんだけど、サウンドやエネルギーからアプローチしている。パンクなんだ。エネルギーって部分で、ジャズとパンクには関係性があると僕は思ってる。でも人は忘れがちなんだ、特にジャズのコミュニティの人たちはね。実際、ジャズはパンクだよ。


Photo by Makoto Ebi

―V「Slow Dancing」やあなたが手掛けたリミックスでも、フルートの演奏がすごく活きてますよね。

コーシャス:あれはすごく面白い仕事だったな。彼は僕のことを数年前、少なくとも去年から聴いてくれてたらしく、1年前にVlogでドライブをしながら僕の曲、ジョン・メイヤーとコラボした「Swim Home」を歌ってくれたんだ。で、1年後に彼のチームから連絡があり、「Slow Dancing」という新曲に参加してくれないかと打診された。それで1分半のフルートソロを吹いたんだよ。その後、リミックスの話も来たのでそれもやったんだ。すべて最高だったよ。彼はいろんなアイディアにオープンで、フルートソロを入れるっていうことに対してもそう。Vのアルバム(『Layover』)は他にも、インストゥルメンタル・ジャズの要素が感じられる曲もあって、すごく良かったよね。今回の来日中にVと会いたかったんだけど、残念ながらタイミングが合わなかったね。

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Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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