コーシャス・クレイが語るジャズとポップを繋ぐ感性、上原ひろみやBTS・Vへの共感

 
「ブラック・エクスペリエンス」と自身のルーツへの思い

―話は変わりますが、『KARPEH』を作る上で、リベリアのクル族にルーツを持つおじいさんのことを調べたそうですね。その話を聞かせてもらえますか?

コーシャス:母から話で聞いていて、興味が沸いたのでさらに調べてみたところ、とても興味深くてね。クル族は西アフリカのガーナとかリベリアに住んでいて、彼らは海の探検者だった。船で航海し、漁をしたんだ。そもそも英語のcrew(船員)という言葉は、クル族のKuruから来ているのさ。1500〜1600年代にヨーロッパから渡来した者たちによってそう呼ばれたことからね。

―わざわざ調べるくらい知りたいと強く思ったきっかけは?

コーシャス:祖父は僕が生まれた年に亡くなったんだ。そしてなかなかの人物だった。リベリアのクル族の出身で、ドイツの医学大学で学び、医者になった。ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語を含む7ヶ国語を喋り、世界中で子供を作った(笑)。母は兄弟たちとドイツに5年間暮らしたが、祖母が祖父と離縁したので、祖母に連れられてアメリカに移ったんだ。なので、僕も祖母が亡くなるまでは会っていたけど、祖父のことは何も知らずじまいで、知りたいと思ったんだ。アメリカに生きるアフリカン・アメリカンの祖先の多くが奴隷として連れられてきたのとは違い、母方の祖父母はどちらも移民として移ってきた。当然、彼らの人生のストーリーは他とは違う。それで知りたかったんだよ。

―そういったルーツにまつわるストーリーを、このアルバムで残したいという気持ちもあったということですか?

コーシャス:そうだね。そこで終わりではなく、永続させたかったんだ。我が家のストーリーは珍しい話ではないかもしれないが、決してどこにでもある話でもない。アメリカでは特に、アフリカン・アメリカンの辿ってきた人生は「こういうもの」という一つのパターンで捉えられがちだ。だから僕が知る、そして共感する自分の経験を語りたかったんだ。



―UKにサンファというシンガーソングライターがいますけど……。

コーシャス:ああ、サンファ!

―彼が今年発表したアルバム『LAHAI』は、祖父母がシエラレオネの出身だということを反映した内容でした。そして、イギリスに移る前の世代の記憶を、自分の子供達にも伝えたい、残したい……という意図があると本人から聞きました。その話に通じるものを、あなたの『KARPEH』にも感じたんですよね。

コーシャス:ああ、それは何世代も前からあったことだとは思う。ここ1〜2世代とかね。サンファはイギリス人なので、僕とは体験してきたことも違うだろうけど……というか、アフリカン・アメリカンが経験したことは、世界のどことも違っている。とても複雑なんだ。アメリカンであることと、アフリカン・アメリカンであることは違う話だしね。アメリカの歴史の多くはアフリカン・アメリカンの歴史でもあるので、二つは決して別ではないのに、いろんな部分で別のものとして捉えられている。

例えば、ジャズやヒップホップもアメリカが生んだもの……とされているけど、そこにアフリカン・アメリカンの歴史が絡んでいることとは切り離そうとする。人種差別が存在したのは過去の話だから、と言わんばかりにね。この話をし出したらすごく長くなるね(笑)。だからこの辺にしておくけど、僕個人はブラック・エクスペリエンス、もしくはアフリカン・アメリカンの体験ーーいや、やはりブラック・エクスペリエンスと言おうーーをネガティブに反映するのは好きじゃないんだ。苦しみやネガティビティは語り出したらキリがないくらいあるんだけど、僕自身はそのことに興味があるわけじゃない。そうではなく、複雑かもしれないけど、人間が体験したストーリーに興味があるんだよね。


Photo by Makoto Ebi

―『KARPEH』を聴きながら、あなたがブラック・エクスペリエンスに関心があるから、同じようにブラック・エクスペリエンスを作品に反映させているイマニュエル・ウィルキンス、アンブローズ・アキンムシーレのような音楽家を迎えているのかな、とも思ったんです。

コーシャス:もちろん、そうだね。

―イマニュエルと以前話したときに、ゴスペルとかアフリカ音楽の深い話を聞かせてもらったんです。そういう部分で何か通じるものがあるのかな、と思っていました。

コーシャス:うん、すごくあるだろうね。僕は「New Negro Era(ニュー・ニグロ期=ハーレム・ルネッサンス期。1910〜1930年代半ばのハーレム)における人種とジェンダー」の授業を専攻して学んだんだ。ジェンダー研究、アフリカン・アメリカン研究、ブラック・ディアスポラ研究……そういうことに関して思うところはたくさんあるし、とても興味がある。人の体験は本当に様々だ。特にダークな肌をした者はね。それぞれに素晴らしく、それぞれが違う。例えば、僕と、バハマに住んでいる僕と同じような肌の色をした人の間には、何の関係もない。むしろ僕と君たちの方が似てるかもしれない。それなのに肌の色が一緒だというだけで、同じだという目で見られる。逆にそれで、自分と何の関係もないと思える人たちとの繋がりを考えることにもなるわけだけど。そうやって人間それぞれの体験が、人の物差しでジャッジされるのは不幸なことだよ。そういうのは存在しなければいいなと思う。その方が本当はいいんだ、そうすれば皆がポジティブな形で繋がれる……って、僕はなんでこんな話をしたんだろう?(笑)

―いえいえ、大事な話です。

コーシャス:イマニュエルは僕とはまた違う体験をしてきてるはずだと思ったのさ。でも二人ともアメリカの出身で、アフリカン・アメリカンであるがゆえに共感できる部分もある。僕らはみんな自分たちではコントロールできない体験によって、どこかで繋がっているってことだね。まあ、僕とイマニュエルの場合は、音楽を通じて繋がっているというのもあるしね。

だって、街を歩いててたまたますれ違った黒人の知らない誰かと、僕らは繋がっているのか? 繋がる唯一の要素は肌の色ってだけだろ? そんなのバカらしいよ。「韓国にいる誰かと君とじゃ、まるで体験してきたことは違うから繋がりはない」とか「君たちは見た目が似てるから繋がってる」とかさ。人間って、人間に対して、本当にいろんなことを推定するものなんだなって、そう思うんだ……ごめんね、重い話で。

―本当に大事な話だし、おっしゃっていることはよくわかります。僕らと韓国人と中国人は見た目は似ているけど、文化は全く違っているわけで。

コーシャス:そうなんだよ!

―言葉も違うし。

コーシャス:文化も違う。

―でも歴史を遡ると、すごく深く繋がっている。だから共通点はたくさんあるんです。違うけど、同じなんですよね。

コーシャス:本当にそうだと思う。とても興味深いよ。確かにみんな繋がっている。でも違う部分の良さもすごくある。そこを正しく、オープンに認識できればいいなと思う。実際、認識している人たちも大勢いるよ。もっといてくれればいいんだけど……だから僕は旅するのが好きなんだ。自分とは違う人たちの体験の中に身を置き、体験することができるのは、とても恵まれたことだと思う。

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コーシャス・クレイ
『KARPEH』
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再生・購入:https://Cautious-Clay.lnk.to/KarpehPR

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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