音楽評論家・田家秀樹が語る、Mr.Children21枚目のアルバム『miss you』

I MISS YOU / Mr.Children

物憂げな始まりですよ。さあいくぞ!という感じでは全くないですね。今までのアルバムでも始まりがSE、効果音だったり、インストゥルメンタルだったこともありましたけど、概してアルバム全体を象徴する動きのある曲が多かった気がするのですが、こんなに内省的な始まりのアルバムですね。自問ですよ。何が悲しくて何がうれしくてこんなことを繰り返しているんだ、迷路の中にいる。「I MISS YOU」というタイトルは直訳すると、あなたを失ってさみしい。“YOU”という言葉にはいろいろな意味があるんだろうなというアルバムでもありますね。最後お聴きになりましたか? “僕らしくて殺したくなるくらい嫌いです”、ここまで聴かないと分からない歌です。

歌詞の中に“想像していたより、20年も長生きしちまった”という一節がありましたね。Mr.Childrenの曲はどの曲もそうですけど、これは彼らのことかな、桜井さんのことかな、他のテーマを歌ってるのかな、と思わせる。それでいて誰にでも当てはまるなっていうことがたくさんあるんですね。色んな解釈の余地がさりげなくおりこまれいる。でも、今回は“自分”のことに寄っている印象です。今まで言えなかったこととか、なかなか歌にくかったこと、立場上なかなかここまでは言えないよなっていうことが歌になっている気がしたんですね。

この始まりの「I MISS YOU」もステージに立っている彼らでもこんなふうに思うのかなというようなことが、とっても率直に歌われている。こんなふうに自問しながら日々を過ごしているのかもしれないなと思わせてくれる。特に20歳前想像していたより、20年も長生きしたというくだりはそうでしょうね。ロックは若者文化の象徴でしたからね。なかなかそんなこと歌えなかったんじゃないかなと「I MISS YOU」を聴きながら思ったりもしたんです。桜井和寿さん、田原健一さん、中川敬輔さん、鈴木英哉さん。桜井さんが1970年生まれで他の3人は1969年生まれですからね、50代です。アルバムの2曲目はこの曲です。「Fifty's map ~ おとなの地図」。

Fifty's map ~ おとなの地図 / Mr.Children

この曲を聴きながら「似てる仲間がここにはいるよ!」と桜井さんに言いたくなりました(笑)。昨日、台本を書くのでこのアルバムを1日聴いてたりしたんですけど、夜寝るときに“どこにも逃げられない”というフレーズがずっと頭の中に響いていて、そういうアルバムだよなーって勝手に思ったりしておりました。逃げるところはどんどんなくなってます(笑)。「Fifty's map ~ おとなの地図」、タイトルがすべてを物語っていますね。「17歳の地図」というのは尾崎豊さん。歌詞の中に出てくるバイクや窓ガラス、それと10代の自由、尾崎さんはステージで“自由になりたくないかい!”って叫んでました。でも、桜井さんは自由はティーンエイジャーだけがかかる魔法じゃないだろうと歌っています。大人になったからこそ、自由の意味が分かることがたくさんあるんですよ。



今回のアルバムはシングルがないんですけれども、ピックアップ曲として映像が1曲だけ流れてますね。所謂ミュージック・ビデオ。ご覧になっていただけると、このアルバムがどういうアルバムかというのがすぐ分かりますね。「くるみ」のミュージック・ビデオがほとんどまま出てくるんです。それでいてオチがちゃんとありまして、「くるみ」の映像の最後にバンドをやっていたおじさんたちがくしゃくしゃに丸めた紙に“Mr.Adult”って書いてましたね。そこに「Fiftys Map」と書いてあった。その紙を桜井さんが拾って広げるというシーンがありましたけど、あそこに答えがありますね。映像は当時の映像なのですが、桜井さんは今の姿です。“同じ迷路の中で彷徨う友よ”と、“似てる仲間がここにもいるよ”。「くるみ」もそういう作品だったんだなということが分かる映像であります。この年になって思うことが率直に歌われている、分かりやすいアルバムです。

Rolling Stone Japan 編集部

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