音楽評論家・田家秀樹が語る、Mr.Children21枚目のアルバム『miss you』

LOST / Mr.Children

さっきの「Fifty's map ~ おとなの地図」と同じように「似てる仲間がここにもいるよ」って言いたくなったもう1曲はこれですね。近年にないくらいあるあるソングです(笑)。これこそ年齢によって受け止め方が違うんでしょうが、朝起きて顔を洗うときにしょっちゅうこう思っていますね。あ、俺、こんなだっけ?って愕然とする。鏡を閉じようかと思ったりすることもある。俺は何をしてきたんだろうとか、そういう誰にでも振り返らざるをえなくなる瞬間があるわけで、セールスが何百万枚あろうと、チャートも何週間1位であろうと、動員が何十万人達成しようと思うことは同じなんだなというアルバムでもありました。そういう自分らしさ、自分たちらしさをとっても自然にさらけ出しているなという驚きがMr.Children史上、最も「優しい驚き」という言葉の“やさしさ”の方ですね。あ、ここまで優しいんだという驚きです。

もう1つ、驚きの方に寄った曲というのがこの後に入っているんです。「LOST」の中に“まっすぐな想いだって捻じ曲がって伝わっていった”という歌詞があったのをご記憶いただけてますか。聴き直してくださいね、そういうことも歌っていますから。どんなにまっすぐな想いを歌にしても、世の中、世間、メディアを通すと捻じ曲がって伝わっていくんだということをたぶん何度も何度も経験してきたんでしょう。次の曲もきっと捻じ曲がって伝わるでしょうね。お聴きいただくのは6曲目「アート=神の見えざる手」。

アート=神の見えざる手 / Mr.Children

史上最も「優しい驚き」のアルバム。アルバム前半にはやさしさに比重が置かれているような気もしたのですが、この曲はやっぱり驚きました。これも感想なんですけれども、さっきの「青いリンゴ」の中に、“もしナイフを持ったやつが暴れ出したら”というフレーズがありました。そういうナイフを持って暴れだすような青年を主人公にして、犯罪とか社会的に逸脱してしまった価値観に対しての視点というのがこの歌に歌われている気がしたんです。型にはまった二元論だと何が正しくて何が悪い、これが狂気でこれが正気と簡単に分けられてしまいますけれど、世の中にはそんな風に分けられないことの方がたくさんあって、分けられないところに踏み込んでいるのがアートでもあると思うんです。

犯罪を起こしている人の中にも、自分の犯罪をアートのようだと思っている人もいるわけです。そういう人たちをどうやって受け止めて、どう思えばいいのかということに対しての1つの視点がこの曲の中には込められている。そういうジャーナリズムの中にある見せかけの正義感への違和感みたいなものも歌われている。この曲はこのアルバムの中で必要な曲なのではないでしょうか。後半、アルバムがどんなふうに展開していくか。これは来週です。

Rolling Stone Japan 編集部

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