音楽評論家・田家秀樹が語る、Mr.Children21枚目のアルバム『miss you』

青いリンゴ / Mr.Children

赤いリンゴはビートルズ、青いリンゴは野口五郎という人もいらっしゃるかもしれませんが青春の象徴のようなものですね。「さっき分かりやすいアルバムです」と思わず口走ってしまいましたが、あれは僕にとってはということですね。分かりにくいアルバムだなと思われる年齢の方もいらっしゃると思うんです。年齢とか過ごしてきた環境とか今やってらっしゃるお仕事とかによって、分かりやすかったり、分かりにくかったり分かれるかもしれませんね。このアルバムの1曲目から3曲目が組曲のような気もしました。青春組曲。歌詞の中にナイフを持ったやつが暴れ出したらという青春の暴走のようなフレーズもあったのですが、そんな話は後ほどです。

さっきレコーディングはメンバーだけで始まったという話をしました。これはレコード会社からの情報の中にあったのですが、最小限のメンバーで作ったアルバムだろうなというのは想像ができますね。この「青いリンゴ」もそんな感じです。音がちょっと変わったりしているところがあって、「Fifty's map ~ おとなの地図」もそういうところがありましたけど、スタジオの中で歌う場所を変えながら自分の声がどんなふうに届くか、いくつかのトライをされたんじゃないかなと思ったりしました。「青いリンゴ」にはサックスが入っていますね。山本拓夫さん。レコーディング・スタジオのクレジットも3箇所ありました。プライベートスタジオ、ビクタースタジオ、ロンドンのラックスタジオ。プライベートスタジオという印象の音、この曲なんかはそんな例でしょうね。プライベートな音と歌。そんなアルバムじゃないでしょうか。そういう代表的な曲が4曲目に待っていました。

Are you sleeping well without me ?/ Mr.Children

“僕がいなくてもあなたは眠れるんでしょうか”、“眠れているんでしょうか”みたいなタイトルですね。こんなパーソナルなことを歌うんだと思ったアルバムの感想の1つがこの曲でした。今回メンバーが全く語っていない。ここまで歌ったら改まってこういうアルバムですとかは語れないだろうなとも思いました。例えば、「Are you sleeping well without me?」で明け方そんなふうにピアノを弾かれているんですか?とか聞かれて、そうですとは言えないだろうなとかね。夜中に曲ができなかったりしたときにどんなことをされるんですか? 「はい、コーヒーを飲んで」みたいなことも話しにくいだろうなと。この“you”もいろいろな意味があると思ったんですね。遠距離恋愛で離れている人、それから別れた恋人、僕は亡くなった人に思えたりもしたんですけど、誰に言うこともなくいろいろな人たちのことが思い浮かんできて。「youは誰ですか」って聞かれても答えられないだろうなと思ったんですね。スタジオジブリの映画『君たちはどう生きるか』がやはり事前情報が全くなかったことも話題になりましたけど、かなり意図的な戦略という感じもしたのですが、今回の『miss you』で誰も語らないのはこれはここまで歌ったんだから、これ以上語らせないでほしいなということなのかもしれないと思いました。ここまで歌うんだという驚きと共感の曲、5曲目「LOST」。

Rolling Stone Japan 編集部

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