聴いている人の身近にあるアルバム、Mr.Children21枚目のアルバムに迫る

deja-vu / Mr.Children

バート・バカラックと思われた方がたくさんいらっしゃるでしょうが、このdeja-vuは既視感という言葉ですよね。どこかで見たことがあるような感覚。バカラックはどこか懐かしい、でもどこか耳に残っているという音楽でしょうから、そういうこともあってdeja-vuとついたのかなと思ったりもしたのですが。もう1つ、deja-vuってことで思ったの“僕なんかを見つけてくれてありがとう”。「GIFT」に“僕の方こそありがとう”というのがあったなと思ったりもして、前にもそういう気分になったことがあるよというタイトルなのかもしれないとも思ったんです。これも想像ですよ。そういう気分になったということで、前もこういうのがあったなということがこういう歌になったのかなと、これも推測です。

さっき日常性を歌ったバンド、これが彼らの1つの彼らの稀有な点だと言いましたが、もう1つあって、それは“無名性”なんですね。何万人も相手にしているスーパースター、カリスマという有名性が作品の中に感じられない。誰にでもあることを歌っている。それが誰にでも当てはまる。これはステージに立っている人であろうと、満員電車で揺られている人であろうと同じなんだなと思わせてくれる、彼らの中にもきっとそういう意識、感覚があるからそういう歌が生まれてくるんだろうと思うのですが、この曲もそんな曲だろうと思いました。自分たちは特別だという意識が見えない。彼らを語るときに数字、何作1位になったとか、何枚売れたとか、動員が何万人だと語る、それが彼らの大きさ、偉大さ。彼らのことを象徴するような語らい方がありますけども、そうじゃないバンドなんだと証明しているのがこのアルバムじゃないかなと思ったりもしています。最後の歌はまさに日常です。13曲目「おはよう」。

おはよう / Mr.Children

口笛が出ていましたが、「口笛」という名曲もありますね。あれも日常を歌った歌ですね。1曲目の「I MISS YOU」で迷って試して信じて疑ってと逡巡して始まったアルバムが「おはよう」で終わりました。僕らは音楽を聴くときにCDで作品を聴くか、ライブでステージ上の彼らを観るしかないわけですよね。その間とか裏側で何が行われていて、彼らがどんなことを考えているんだろうと知る機会はほとんどないんですけれども、今回のアルバムはそういうオフショット、オフステージの心の動きみたいなものを垣間見ることができた気がするんですね。こういう試行錯誤してきた30年なんだろうなとあらためて思ったりしました。

2005年の『I ♥ U』というアルバムの中に「モンスター」という歌があって、そのときのインタビューでMr.Childrenってモンスターバンドじゃないですかと言った軽薄なインタビュアーがいて、桜井さんは血相を変えて違いますって言ってましたからね。この「おはよう」はまさにそういうことでしょうね。そのときの軽薄なインタビュアーは私でありました。明日は大事な仕事があるという方にこの曲、そしてこのアルバムを贈ります。

Rolling Stone Japan 編集部

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