音楽家がグローバルで活動するためには、The Orchard Japanヴァイス・プレジデントに聞く

全世界に45カ所以上の拠点を持つ音楽ディストリビューション会社、The Orchard。1997年に設立された同社は、2015年に米国Sony Music Entertainmentの100%子会社化、2019年8月に日本オフィスを開設した。現在は、主にインディーズ・マーケットのアーティストやレーベルの楽曲をデジタル配信する窓口を担うと同時に、データ分析や広告、権利管理、デジタルとフィジカルの配信などの幅広いサービスを行い、アーティストたちのDIYな活動の後押しをしている。

2023年に「アイドル」が世界的ヒットを記録したYOASOBIも、The Orchard Japanがディストリビューションを担当しているアーティストだ。グローバルに音楽活動をする上で彼らのバックアップは非常に重要な役割を果たしていると言える。The Orchard Japanとはどのようなディストリビューション会社なのか、どのような哲学のもとで音楽を取り扱っているか、音楽家たちが活動していくうえで、どのような選択肢があるのか、増田雅子(The Orchard Japan ヴァイス・プレジデント)に話を訊いた。

―まず、The Orchard Japanがどういう会社か、というところからご説明いただけますか。

増田:ニューヨークに本社があるThe Orchardというディストリビューション会社の日本オフィスです。もともとはCD流通も含めてフィジカル時代からディストリビューションを行なっていて、今は主にレーベルやアーティストからお預かりした楽曲をデジタル配信するお手伝いをしています。その際に実際に流通されて世にリリースされた楽曲がどのように聴かれているかをテクノロジーの力を使って分析していくサポートもしている会社です。2015年に米国のSony Music EntertainmentがThe Orchardを買収したのですが、日本オフィスを出したいという話になり、4年前に日本ブランチがスタートして、ソニー・ミュージックエンタテインメントの経営企画にいた私がサポートすることになりました。非常に面白いビジネスですしこれからの可能性もすごくあると思っていたところ、去年の春から専任となりました。The Orchardはインディーズ・マーケットのアーティストがクライアントです。ソニーミュージックのようなメジャー・レーベルは、ほとんどの場合原盤権を持っていますが、The Orchardは原盤・出版権を持っていない。権利はアーティストが持っていて、原盤ホルダーであるアーティストやレーベルの希望をサポートをするのが仕事です。基本的には預かった音源を流通させる手数料がベースのビジネスですね。

―ソニーミュージックというレーベルは、とりわけ原盤を持つということにこだわりがある会社だと私は理解しています。

増田:どのレコード会社もそうだと思います。

―それを自分では持たないというのは大きな方針転換ですね。そういうビジネス・モデルもソニーミュージックとして必要だという判断だったんですね。

増田:それはあると思います。原盤含めて全ての権利を一緒に考えていきましょう、というビジネス・モデルももちろんありだと思いますし、マネジメントもライブ制作も一緒にやりましょう、という「360°」と言われるようなところに各レーベルがーーソニーミュージック含めてですがーー向かう一方で、インディーズで活躍されているアーティストには、自分たちのブランドや自分たちの意思、権利を持ったまま活動をしたいという方々もすごく増えてきている。そういったアーティストとお付き合いしていくためには、アーティストが望んでいるものは何なのかを知って、それを部分的に提供できるようなサービスを作る必要がある。全部一緒にやりましょう、いやいや全部は望んでいないです、というところで折り合わないと、いいアーティストとお仕事する機会を逃してしまう。

―この10~20年の間に音楽のアウトプットの仕方みたいなのも変わってきて、時代の変化の中でレコード会社としてやるべきことも変化している。

増田:オーダーメイドやテーラードという言い方をよくしますが、アーティストが360°を望むのであれば360°関わりますし、そうではなくてこの部分だけサポートしてほしいと言っているのに、みんな同じサービスを提供しなくていいよね、という考え方ですね。このアーティストだったらこういったもの、このアーティストだったらこういったもの、というように向き合い方を変えられるようなやり方がグローバルでもどんどん一般的になっている。特にUSマーケットだとアーティストが自分でマネージャーを雇ったり、レコード会社を決めたり、それぞれで契約していくようなスタイルだと思いますが、そういったことがここ数年で日本でも少しずつ起きてきているんです。

ーあえて言葉を選ばずに言うと、メジャーカンパニーの力みたいなものが相対的に落ちてきたことが関係しているんでしょうか。

増田:選択肢を増やすことをやり始めたということですね。それは戦略もあると思いますが、ソニーミュージックに限らず各社そういった選択肢を増やす、いわばプラスの挑戦に出ているようなイメージですね。

―その傾向はいわゆるストリーミングサービスというものが大きなシェアを占めるようになってきたことと関係していますか?

増田:あると思います。アーティストがいい曲を作り、この曲を出したいと思ってもCDではすぐには出せない。今だと一旦デジタル配信をしてファンの様子を探ったり、何なら配信さえせずに自分のソーシャルやプラットフォームに1回音を出してみて、お客さんの反応を見てデジタル配信するか正規リリースするか考えることができる。正規リリースも今では最初に少しお金を支払えば簡単に配信できてしまう仕組みができている。そういった形で曲を届けていった結果、大成功したアーティストが実際に出てきているとなると、その人たちと一緒に仕事をするために、こちらが提供できるものも変わってくる。裏方たちが渡すべきツールが昔と違うというのはすごく感じています。The Orchardはそこで規模の大小に関わらず、そのアーティストが一番やりたい方向に向かうためのツールを提供していく。The Orchardで提供できるものは様々ありますが、例えば「インサイト」と言われているアナリティクスツールがあります。Spotifyや Apple Music、Amazon Music、LINE MUSICなど、各DSPのデータが「インサイト」に全部集まってきて、それを単一画面で見ることができる。その国でどれだけ聴かれていて、どういったプレイリストで何回聴かれていて、今回出したリリースにどういった傾向があるか、アーティスト自身が自分のラップトップで見ることができるんですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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