音楽家がグローバルで活動するためには、The Orchard Japanヴァイス・プレジデントに聞く

―昔レコード会社の偉い人が言ってたんですけど、日本のアーティストって日本にとって一番遠いマーケットはアメリカで。いきなり行くより、アジアから行って、だんだん西に行ってヨーロッパに行って、そこからアメリカに行くというのが一番いいんだと。今でもそれはありますか?

増田:今でもそうだと思います。一番シンプルにやるべきはそこで。アメリカに関して言えば、SXSWも大きいですが出るのはとてもカロリーが高い。お金もとてもかかるし、見本市なのでギャランティが出るわけではないので、自分たちでツアーを組むとなると、ビザなども含めて相当カロリーが高いし、これはインディーズのアーティストが一人でやるの無理だなと。そういう人たちをサポートしていきたいという話をインディー、ディストリビューター界隈でも話しているんです。

―今円安がきつくてエアー代だけでも大変ですよね。そのための軍資金作りじゃないですけど、基盤づくりとして配信やSNSをいかに有効に使っていくか大事になってくるわけですね。

増田:そうですね。インディーズのアーティストは自分のジャッジで行っているので、行くからには絶対に実を取ろうと思っているから、そういう意味で事前の告知や、現地でどれだけ自分を次のチャンスに繋げていくかか、そういったことを能動的にやっているアーティストが多いですし、The Orchardの立場としてはそういう人たちをお手伝いしたい。我々が持っている知見をどんどんお渡しして。うちでベストプラクティスと呼んでいる成功例シートのようなものがあるんですが、The Orchardの場合はグローバルに作っているので、各国の成功事例がどんどん溜まっていってるんです。それをこのアーティストにはこれが合うとか、この国、このターゲットでこういうふうにやるにはこれが合う、というものをピックアップしてきて、さっきのテーラーメイド方式でできるというのがある。

―言葉の壁って大きいですか?

増田:今は日本語で歌っても聴いてもらえる。ただ、やっぱりコミュニケーションは英語が必要になるのでインタビューされたときに、多少なりともわかった方がいいと思いますし、ファンの人たちが来てくれたときに会話ができた方がいいと思います。そういった意味では作品を変える必要はないと思いますが、SNSに投稿するメッセージ1つや、例えばライブに出ていったときに一言二言英語なりその国や地域の言葉で話してあげることはとても大事だと思います。

―なるほど。今のお話をお聞きしていると、自分で考えてやれるアーティストにとってみたら、メジャーカンパニーでやる意味はもはやあまりないという印象です。

増田:ただ、実はそういうアーティストは意外と少ないですよね。曲を書いて歌って、ライブをやって、365日しかない中で全部やりますというアーティストはそんなに多くない。私はいい曲を書いて、いい歌を歌うことに集中したいからそれ以外のことはマネジメントやレーベルにやってほしい。自分にどんな宣伝が合うか、あなたたちに考えてほしいと、良い意味で役割分担をしたいというアーティストもたくさんいるので。そういうアーティストはしっかりした会社をつけた方がいい。でも、僕は自分のことは全部自分で把握して自分で決めたい、というアーティストもいる。自分の宣伝費をそんなにもったいないことに使わないでほしい、だったらMVであの監督にお願いしたい、出広は必要ないのでこのギターを使ってこのスタジオで録りたいとか、そういうこだわりを持ったアーティストもいる。私たちが普段打ち合わせをしているアーティストは、そういうところまで自分で考えたい人たちです。

―そういう人は昔に比べると増えているんですね。

増田:増えていますね。そういうマインドを若くして持っているアーティストが増えてきているので、すごく楽しいですね。なので、こうすべきですよ、ではなくて、過去の経験や知見を事例としてお伝えしていますが、アーティストと意見を出し合い、お互い学び合っています。

The Orchard Japan
1997年に設立されたディストリビューション会社。全世界に40カ所以上の拠点を持ち、2019年8月には日本オフィスを開設。
https://www.theorchard.com/jp/

Rolling Stone Japan 編集部

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