音楽家がグローバルで活動するためには、The Orchard Japanヴァイス・プレジデントに聞く

―海外で成功する、バズるアーティストとそうではないアーティストの違いというのは?

増田:1つはソーシャルの使い方だと思います。どの国でもDMで簡単に繋がれますし、コラボレーションもアーティスト同士がお互いの曲を聴いて、君すごくいいね、今度一緒にやろうよ、と始まることがほとんどなんです。たとえば海外のファンが日本語以外の言葉でSNSでコメントしてくれると、自分のお客さんがどこにいるかわかる。そこで例えばドイツ語でつぶやいてみたり、ドイツの人たちがこう言ってくれている、絶対いつかドイツでライブがしたいんだって言うと、現地であのバンドを絶対呼ぼうという動きが起こるんですよね。

―YOASOBIのメンバーが海外を意識し始めたのはいつ頃なんでしょう。

増田:本格的にはジャカルタで大合唱を聴いたときじゃないでしょうか(2022年12月)。我々は当然いけると考えて、その理由もきちんと伝えていましたし、ikuraさんも英語が上手だから興味はすごくある、海外に行ってライブをしてみたいというのはずっとAyaseさんも話していたんです。ただ、本当にそんなにファンがいるのか、観るまで信じられなかっただろうし、YOASOBIに関してはそもそもコロナ禍がピークの時にデビューしているので、海外どころか日本のファンの前でも生で演奏したことがないという状態が長かったんです。だから先にコロナ禍で会えなかった自分たちを待ってくれている人たちに会いに行こうというのが最初にありました。その間に「夜に駆ける」の英語版を出しましょうと提案したり、海外のファンにその間どう待っていてもらうかを考えて、アドバイスやサポートをしていました。

―「アイドル」を聴いていて思ったんですけど、いわゆるヒップホップとかトラップとかR&BとかEDMとか今の音楽の要素を適宜取り入れているんだけど、総体としては我々のよく知っているJ-POPの匂いみたいなものがすごく強くて。逆に言ったらあれだけJ-POPらしい曲が世界中でうけたってことがめちゃくちゃ重要なんじゃないかと思いました。

増田:彼らも言っていました、J-POPで勝負がしたいと。最高のJ-POPを届けるのがYOASOBIだと言われたいと。



―アメリカのR&Bとかヒップホップのマナーをそのまま踏襲するのではなく、J-POPであることを突き詰めてエッセンスを曲げないで出すことによって世界に受け入れられている。ガラパゴスだと思っていたものが実はそうでもなかったということを証明している、という気がします。

増田:グローバルと日本でどう違うかと言うと、日本はドメスティックなアーティストが強いんです。かたや世界を見ると、その国と地域によって特性がすごくあって、例えば自分の国の言語の音楽ばかりを聴かない国もある。韓国は人口的なバランスもあるので早い時期から日本や他のアジアをターゲットにしています。アメリカだと、西と東でカルチャーが全く違うので西で勝負したいのか、東で勝負したいのかでも全然違ったり。日本は10年前ぐらいまでは単一的な、みんなが好きなものがわりと似ていたり、ちょっと流行ると私もそれ好き、という傾向があったと思うんです。グローバルでアメリカとかにどんどん進出する海外アーティストたちを見ていると、自国の成功だけにこだわらず、結構早めにグローバルに展開している。国内だけでも成立してしまう日本はそれが少し遅れたのかなと思っています。自分の音楽をもっとポップにもっとメジャーにしなきゃいけないという発想ではなくて、私の音楽を好きな人はどこにいるのか、どこにどれぐらいいるのか、そこに向けて本当に満足いくものを見せていくというやり方の方がいいんじゃないかと。YOASOBIも彼らが本当にかっこ良いと思うものを常に発信していますよね。

―昔だったらその「どこかにいるはずのリスナー」にリーチする手段もなかったし、知るよしもなかった。

増田:そうなんです。わざわざ行っても響かなかったと帰ってくることになってしまいますが、今は普通にグローバルなDSPで配信すればみんな一旦聴けるわけですよね。SNSを通してどんどん自分の売り込みもできるし。なので、The Orchard内でできるだけ各エリアの実際のマーケットを知っているスタッフに聞かせて。「アイドル」のときはさすがにこの曲は絶対くるとスタッフの中で盛り上がりました。わりと早めからグローバルのThe Orchardチームにこれいよいよ来ると思うと話してやり始めたんですよね。

―アーティストとしてもかなり戦略的な意図をもって作っているってことなんですかね?

増田:どうでしょう。特別ということではないかもしれないですね。Ayaseさんは意図的にすごく売れたいとはなるべく考えないようにしているとは言っていました。原作があり、小説を音楽にしているので、原作を表現する為に意図して作るのは毎回そうだと思いますが、仕掛けを詰めていったり、売れるためというより、その曲をよりリッチに表現するために自分がかっこいいと思うものを詰め込んでいくという意味では考えられていると思いますが。

―その「いろんな要素を詰め込んでいく」というやり方が渋谷系以来の日本のポップ・ミュージックのあり方に通じるものがあると思います。

増田:海外からはいい意味で日本っぽいと思われていると思います。すごくアイデンティティのある音楽だし、それがかっこいいと海外のお客さんは思ってくれているんだろうなと。だから次を知りたくてYOASOBIにまた帰ってきてくれる。まだまだ広がると思いますね、YOASOBIに関しては。つられてほかの日本のアーティストへの興味をみんな示し始めていて、すごくいい状態です。

―BTSがビルボードの1位になって、韓国のアーティストにとってめちゃくちゃ大きな目標になったというのと同じことがYOASOBIで起こりうるってことですよね。

増田:そうですね。どんどんチャンスも幅も増えていっていて、日本のアーティストが好き、聴きたいみたいな。台湾でも羊文学がとてもうけていましたしmiletもそうですね。日本のアーティストに対するリスペクトがすごくあって、先日クレナズムが台湾に行ってイベントに出たんですが、それも非常に盛り上がって。台湾は日本のアーティストが行って1回いいライブをすると、次行ったときに必ずお客さんが増えていくんです。そういったところも選んでいった方がいいと思います。最初に自分の味方になってくれる地域を探して、そこで味方を作ることでアジア周辺でのお客さんを増やしていって、アジアのフェスに出始める。そうするとグッとフェーズが上がるので。

Rolling Stone Japan 編集部

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