音楽家がグローバルで活動するためには、The Orchard Japanヴァイス・プレジデントに聞く

―日本のアーティストを海外で売ろうというときにもThe Orchard Japanの組織力、小回りの速さみたいなものが生かされていくわけですね。最大の成功例はYOASOBIだと思うんですけれども、YOASOBIが海外で成功した一番大きな要因って何でしょうか。

増田:反応の早さだと思います。兆しがあったときにそれに対してきちんとソーシャルで対応していくということをやれたのが大きいです。

―それは本人が、ということですか?

増田:そうですね。海外でいける、と最初に思ったのが、3rdシングルぐらいですかね。ちょうど「たぶん」という楽曲をリリースする前に台湾やアジアを中心に動きが出てきた。アナリティクスを見ているとどこの誰が聴いているかわかるので。これはアジアいけるんじゃないかと感じたんです。それで「たぶん」を出すときに正式に海外ピッチを始めました。海外でもやっていきたいということをきちんと伝えて、英語資料を作ってプレゼンを始めた。そこからグーッと伸びていって、アジアでの数字が特に増え始めた。日本のみとか日本と台湾のみではなくて、いろいろな地域で一斉に数字が上がり始め、そこにニューヨークチームが反応して。わりと母数が上がってきているので、これはアメリカ含めてグローバルでどういったことができるか考えてみようよ、と話し始めました。3年前ぐらいのことです。



―最初にアジアでブレイクの兆しが見え始めたというのは、やはり楽曲の力が大きかったということですか?

増田:そうです。楽曲が良いから反応はやっぱりあるんですよね。でも反応があったらそこに対して何かしようという動きは結構クイックにやらないと、気がつくと「あーなんかなくなっちゃったね」となってしまう。

―「あ、すごいね、ここでは反応がいいね」で終わって適切なアクションをしないと、兆しが兆しのままで終わってしまう。

増田:そうです。兆しと言われるものが見えてきたときに、どうそれにリアクションするか、本当にそれが兆しなのか、ピッと跳ねているように見えても、その国の人口が多いだけじゃないか、という判断も必要です。そこで、きちんと各マーケットにThe Orchardのスタッフがいるというのは大事なんです。なので、現地のスタッフに連絡しますが、日本にも頻繁に連絡が来るんです。昨日から3日間で数万増でスパイクしているんだけど、これは何かあるのかと。調べると、例えばXで有名バンドのヴォーカルが僕の好きな曲ですとつぶやいていたとか、そういうのがわかるんです。彼らは全く日本語が読めないので、こういうつぶやきを誰々さんという方がしているから、例えばDMとかで「ありがとう、うれしいよ」と送ってみたらどう?と提案したり。昔はそういう反応は違う国で起きていたら気づけなかったと思うんですが、今はデジタルでほぼ全世界が繋がっているので、それに気づける可能性も断然増えている。

―つまりストリーミングの世界的なインフラ化によって、そういうことに気づきやすくなったし、その兆しを上手くとらえて適切なアクションができるようになった。そういうことが迅速にできるのがThe Orchardのディストリビューターとしての強みなんですね。

増田:はい。そういうことにより早く気づくためのツールを改修に改修を重ねてひたすら良くしていくということを、ニューヨークのエンジニアが頑張っています。それと今言ったようなすごくアナログなコミュニケーション。急にブラジルが反応しているとかドイツが反応しているとかそういう連絡があったり、逆に日本でTikTokで急に音源が使われてバズったものを本国に連絡してあげたり。日本でこういうやり方で使われているから、本人に自分で投稿させてみたらいいかもしれないよとか。

―例えばそこでクリエイティヴなアドバイスとか、創作上でこうやったらいいんじゃないか、みたいなアドバイスはされるんですか?

増田:基本はしないように意識していますが、言ってしまうこともありますね(笑)。みんなで盛り上がって、あの曲はいいね、この曲がいいねと話しているうちに、つい言ってしまう。でもそれぐらいみんな音楽を好きだし、関わって長いスタッフも多いので。

―ここをこうしたらもっといいのにって言いたくなっちゃう。

増田:個人的な意見はたくさんあります。ただあくまでもディストリビューターなので、できることは参考意見として選択肢をお伝えすることです。TikTokをやって成功するケースもあるし、しないケースもある。でもやり方は知っているから、こういうやり方がありますよと、例をなるべく多くの選択肢としてお見せできるように日々勉強しています。TikTokのことを聞かれてもInstagramでもYou Tubeでも、何を聞かれてもお答えできるような状態に常にいるように。

―曲の断片を切り取って、TikTokで流す。断片を切り取られてもいいように映えるような曲を作るのはアーティスト本人だし、それを実際にやるかどうかという決断もアーティストがするということですね。

増田:そうです。レーベルのA&Rだとこれをやれば売れると信じているから、アーティストにもそう説得する。でもそういう強いアドバイスとはまた少し違って。例えば、必ずしもサビ頭から切り出さなくてもいいんじゃないかという検証をしてみたら、意外とサビ頭から切り出していない曲の方が、お客さんが自分たちで一番いいところを使って投稿するので反応がいいこともありますよ、というような提案ですね。

ーThe Orchard Japanで上手いことやれるアーティストは、そういうちゃんとした自主性というか、自分自身のアーティスト性をしっかり持っている人が強いということでしょうか。

増田:インディーズで少人数で動いてている方々とご一緒することが多いので、The Orchardに「これちょっとやっておいてください、お金は払うので」というケースはないんです。あくまでもこういった選択肢があるとお伝えして、実際に考えて決断し、実行するのはアーティストや、レーベルサイドなんです。

Rolling Stone Japan 編集部

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