ビリー・ジョエルの物語は終わらない 彼の未来を照らす「17年ぶり新曲」最速レビュー

他者との共作によって切り拓いた「新章」

“モード”の変化は、新曲「ターン・ザ・ライツ・バック・オン」にはっきりと表れている。「シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン」を思わせるアルペジオや、「オーケストラは何処へ?」を彷彿させるチェロの響き。「ピアノ・マン」から地続きに思える間奏のピアノ。これぞビリー・ジョエル、と即座にピンと来る“スタイル”を非常にわかりやすく踏襲しているのだ。こんなコンセプトの曲は、今までのビリーでは考えられなかった。敢えて外の血を入れることで、“ビリー・ジョエルの音楽とは何ぞや?”を客観的に整理してみようという意図があったのかもしれない。





そういう側面がある一方で、この配信版(※)のイントロなし、エンディングもあっさり終わる構成は極めて今日的。ボーカルを中心にしたミックスも、ビートの重さも実に今風だ。ビリーの歌声ひとつ取っても、フィル・ラモーンと組んでいた頃のようなスタジオ・ライブ感は薄く、録音後のポストプロダクションで細かく調整を加えた手触りがある。どこまでヒットを狙うつもりがあったのかわからないが、2020年代のマーケットから浮かない“シングル”として丁寧に作ることを目指したのではないか。

※2月1日に全世界に同時公開されたバージョンは 「ラジオ・エディット」(3分59秒)、アメリカで発売される限定7インチ・シングルは収録時間4分21秒のエクステンド・バージョン

歌詞を見ると、ラブソングのようにも取れるし、長い間創作から遠ざかっていたことをファンに詫び、随分遅くなったけれどまた始めてみよう、と宣言しているようにも思える。4度目の結婚を経て2人の娘に恵まれたビリーだから、創作のモチベーションを取り戻していても不思議ではないが。ことさらウェットになり過ぎず、言葉を選び抜いた感じがする“節度”が、「ターン・ザ・ライツ・バック・オン」に独特な緊張感をもたらしている。そこも他者との共作が効いているのかもしれない。

圧倒的な才能を持つソングライターが、他者とのコラボレーションを試して新章を開いたケースとして思い当たるのは、ウィーザーのリヴァース・クオモだ。2009年の『ラディテュード』辺りからブッチ・ウォーカーや原一博といった外部のヒットメイカーたちと組んで“共作”を積極的に行い始めると、ファンの一部から疑問の声が上がったが、“楽曲の良さ”にこだわって複数のソングライターとコラボを続けたおかげで、ライターズ・ブロックを回避すると同時に共作相手から刺激を受けるという一石二鳥の収穫を得ている。ソングライターとしてのエゴから長年距離を置いていたビリーだから、そういう実験が許容できる心境になっていたのではないだろうか。共作の経験は極めて少ないが、『ザ・ブリッジ』(1986年)では作詞をシンディ・ローパーに助けてもらい、「コード・オブ・サイレンス」を完成させたこともあった。


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