クイーン+アダム・ランバート来日公演を総括 大合唱と人間愛に満ちた集大成的な一夜

フレディの姿に感涙、日本のファンも大合唱

続く「ハマー・トゥ・フォール」も『ザ・ワークス』から。アダムとブライアンがランウェイへ颯爽と駆け出して行く様子は、『LIVE AID』でこの曲が歌われたときの記憶を呼び起こしてくれる。ロジャーは背後で炸裂した花火の爆音に驚いて首をすくめていたが、バック・ボーカルを務める声に張りがあり、好調さが窺えた。「ファット・ボトムド・ガールズ」ではクイーンの売りのひとつであるコーラスの厚みを、サポートメンバーも加わって存分に見せつける。アダムがオーディエンスを煽り、早くも場内は大合唱だ。

「地獄へ道づれ」は簡単そうに見えるが、実はオクターブ上まで歌わねばならない難曲。しかし絶好調のアダムは余裕で艶やかに歌い切る。サポート・メンバーにも見せ場が用意されていて、ベーシストのニール・フェアクローがお馴染みのリフを弾いて喝采を浴びていた。ニールは元アヴェレイジ・ホワイト・バンドのヘイミッシュ・スチュアートともプレイしていた時期があり、ファンクはお手のもの。ジョン・ディーコン不在の穴を見事に埋めている。


Photo by Ryota Mori

1975年の傑作『オペラ座の夜』から、ロジャーのボーカルで「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」を聴けるのもうれしい。ヘヴィなビートを叩き出しながら歌う様は、クイーンのハードな側面とエッジを思い出させてくれる。今でこそ広く大衆に愛されるバンドになったが、初期クイーンの本分はポップスではなくシャープにデザインされたハード・ロックにあった。そこから乗り物シリーズで、曲は「バイシクル・レース」へ。回転する銀のバイクにまたがったアダムが、挑発的なアクションを繰り出してファンを熱狂させる。

そこからの流れで「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」に突入すると、アダムがブライアンに寄り添って肩に手を置く場面も。当初は周囲に気をつかっているように見えたアダムが、すっかりバンドに馴染んだのを感じる、微笑ましい時間だ。頭上でミラーボールが回転する中、ギターソロで速いタッピングをこなすブライアンはとても若々しく見えて、御年76歳とはとても信じられない。


Photo by Ryota Mori

ここで照明が落ちて雰囲気が一変、アダムの詠唱に続いて始まった「アイ・ウォント・イット・オール」は、そのボーカリゼイションの巧みさに圧倒された。ブライアンは途中のヴァースを歌い、テンポアップしてからはランウェイまで走って来て熱烈なギターソロをキメる。かと思うと、いつの間にかランウェイ上に椅子が用意されていて、そこでブライアンがMCを。「日本の友達、こんばんは。お元気ですか? 本当です! いっしょに歌ってください」と日本語で語りかけ、12弦アコースティック・ギターで弾き語りを始める。それをキーボードで控えめにサポートするのは、80年代からクイーンをサポートしてきたスパイク・エドニー。ブライアンが一言一句を噛みしめるように歌う「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」に、自然と合唱が巻き起こる。そしてスクリーン上、ブライアンの隣には、ありし日のフレディの姿が……“お約束”ではあるけれど、やはり感涙を禁じ得なかった。

そのまま「手をとりあって」に続き、ボーカルはブライアンがしばらく歌ってからアダムへとバトンが渡される。日本のファンにとっては特別なこの曲でスクリーンに歌詞が投影され、これも当然大合唱。折り返し地点を待たずにクライマックスが続いた感じだが、この日のショウはまだまだここからが凄かった。81年モントリオール公演でロジャーが熱演したティンパニのソロがスクリーンに流れ、続いて“今のロジャー”がドラムソロを披露。外見こそ渋くなったが、74歳とは思えぬ切れ味でアグレッシヴに叩きまくる。その熱を残したまま、曲は「アンダー・プレッシャー」に突入。フレディもデヴィッド・ボウイも去ってしまった地上で、アダム&ロジャーが高揚感溢れるメロディを歌い上げる。その直後、客席からのアピールに気付いたアダムが、ファンが描いたメンバーのイラストを掲げて紹介する一幕もあった。

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