クイーン+アダム・ランバート来日公演を総括 大合唱と人間愛に満ちた集大成的な一夜

ステージ演出に込められた「ヒューマニティ」

「タイ・ユア・マザー・ダウン」では、立体的に前後に配置されたスクリーンの効果が一段と映えていた。ソロではブライアンの鋭いスライドギターが冴え渡る。ランウェイ上にブライアン、ロジャー、アダムが揃った状態で、続いて「愛という名の欲望」が始まり、またも場内大合唱。思わず歌い出さずにいられない名曲の多さに、改めて感嘆させられた。

「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」から「リヴ・フォーエヴァー」へと至るパートは、シンガー=アダム・ランバートの真骨頂。フレディの節回しを過剰に意識せず、持ち味を伸び伸びと発揮する名唱で、ここでも大きな感動の山を作る。まだいくらか残っていたオリジナルのクイーンに対する遠慮がだいぶ抑えられてきて、アダムの個性がより前面に出てきたのが、今回のツアーでは明らかに良い結果を生んでいるようだ。

アダムが歌い切ると、ブライアンのギター・ソロへと移行。「さくら さくら」の一節を弾いてから、ドヴォルザーク『新世界より』の第2楽章、日本では「遠き山に日は落ちて」として親しまれてきたメロディをモチーフに、たゆたうようなソロを弾き続ける。宇宙空間で星々と共に浮かんで演奏するブライアン、という映像の演出も、彼のキャラクターによく合っていた。そして曲が「悲しい世界」へと続き、スクリーンに枯れゆく木が登場した辺りで、冒頭に置かれた「マシーン・ワールド」の副題、“Back To Humans”が脳裏をよぎり、気づかされるのだ……ヒューマニティの奪還、それこそがこのツアーのテーマであると。2020年代の今も戦火が止まない世界情勢を踏まえての選曲、と考えるのは行き過ぎだろうか。切実な歌詞と共に、ブライアンが来たTシャツの“和”の文字が強く印象に残った。日本通のブライアンは、当然この漢字の意味を理解しているだろう。

プロジェクション・マッピングの効果は絶大で、メンバーの映像が煌びやかに彩られた「カインド・オブ・マジック」では、ディズニー映画『ファンタジア』さながらの展開に。そしてメンバー紹介を挟み、「ドント・ストップ・ミー・ナウ」から再び場内大合唱モードへと誘っていく。終盤に来てもアダムは疲れ知らずで、高音までこれでもかと突き抜けていく「愛にすべてを」には何度も鳥肌が立った。


Photo by Ryota Mori

「ショウ・マスト・ゴー・オン」では、それまでステージ上にそそり立っていた宮殿がすっかり崩れ去ってしまう。この大胆さも、映像を駆使した演出ならではの醍醐味だ。そして本編ラストの「ボヘミアン・ラプソディ」では、これまでのようにMVの映像をうまく活用、生演奏と組み合わせて魅せる。セリからミラーのかけらをあしらったジャケットに衣装替えしたブライアンが上がってくる演出も楽しかった。

アンコールの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」では、『世界に捧ぐ』(77年)のジャケットを飾った殺人ロボット、ファンには“フランク”の愛称で親しまれているあの巨大ロボがスクリーンに登場する演出も、近年の定番。そこから再び冒頭の「マシーン・ワールド」「RADIO GAGA」に戻り、後者のサビではフランクが手拍子する。大量生産されたロボットの群れは破壊され、ヒューマニティが守られた……というストーリーのようだ。そして最後の最後、「伝説のチャンピオン」では、“一期一会”とプリントされたTシャツを着たブライアンが勇壮なフレーズを弾く中、大量の紙吹雪が降り注いで幕となった。

年齢を考えると、ちまたの噂のように「最後の来日」になる可能性を否定はできないのだが。加齢を経てもなお、溌剌と演奏するブライアンとロジャーの姿に、“これで終わり”という悲壮感はなかった。去り際、名残り惜しそうに何度も振り返り、客席に投げキッスを送っていたブライアンの表情は、自分の目には「またね」と告げているように見えた。このツアーの集大成的な一夜に、さらなる“次章”が控えていることを期待しよう。



〈2月14日(水) セットリスト〉
1. Machines (Or 'Back to Humans') / Radio Ga Ga 「マシーン・ワールド/RADIO GAGA」
2. Hammer to Fall 「ハマー・トゥ・フォール」
3. Fat Bottomed Girls 「ファット・ボトムド・ガールズ」
4. Another One Bites the Dust 「地獄へ道づれ」
5. I'm in Love With My Car 「アイム・イン・ラヴ・ウィズ・マイ・カー」
6. Bicycle Race 「バイシクル・レース」
7. I was Born to Love You 「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」
8. I Want It All 「アイ・ウォント・イット・オール」
9. Love of My Life 「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」
10. TEO TORIATTE 「手をとりあって」
11. Drum Solo ドラム・ソロ
12. Under Pressure 「アンダー・プレッシャー」
13. Tie Your Mother Down 「タイ・ユア・マザー・ダウン」
14. Crazy Little Thing Called Love 「愛という名の欲望」
15. You Take My Breath Away~Who Wants to Live Forever 「テイク・マイ・ブレス・アウェイ~リヴ・フォーエヴァー」
16. Guitar Solo ギター・ソロ
17. Is This the World We Created…? 「悲しい世界」
18. A Kind of Magic 「カインド・オブ・マジック」
19. Don't Stop Me Now 「ドント・ストップ・ミー・ナウ」
20. Somebody to Love 「愛にすべてを」
21. The Show Must Go On 「ショウ・マスト・ゴー・オン」
22. Bohemian Rhapsody 「ボヘミアン・ラプソディ」
◎アンコール
23. We Will Rock You 「ウィ・ウィル・ロック・ユー」
24. Machines (Or 'Back to Humans') / Radio Ga Ga 「マシーン・ワールド/RADIO GAGA」
25. We Are the Champions 「伝説のチャンピオン」




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