狙撃の名手だった米海兵隊員、「サイコパスの元夫」が義父を殺した理由

あれから1年以上が経過し、マイケルはバージニア州ダンヴィルの精神病棟に収容された。弊誌との取材中、彼は熱心になったかと思えば内省し、自虐的になるというのを繰り返したが、自己憐憫の傾向は見られなかった。時には世間と同じように、自分の人生が一変したことに驚いてもいるようだった。「妻の意図が100%理解できるわけじゃないが」と、元妻からサイコパスと呼ばれたことについて語った。「もし妻や他の誰かから、はっきりした説明が聞けたら最高なんだけど」。

彼は今でもこぎれいにしている――かつての隣人マーフィーさんが最近面会に訪れた時には、ゼリーで靴をピカピカに磨いていた。1日3回グループセラピーを受け、夕食後には「夜の娯楽」に参加する。取材の前の晩にはカラオケで「カントリーロード」を歌った。「歌うのはそれほど好きじゃない」と彼は取材で語った。「でも楽しい気分になりたいから参加している」。マイケルは過去についての質問には答えようとしなかったが、カルドウェル-ボノ氏を惜しまなく賞賛し、「将来を無駄にしない」という決意について話す時はさらに熱が入った。

ほぼ4年近く「記憶が飛ぶ」発作は起きていないという。だが今のところ退院に向けた精神鑑定では、引き続き精神病院での入院が望ましいとの結論が出されている。いつかヨット生活を送り、セーリング学校を開くのが彼の夢だ。「自由になって、日常生活の問題も気にしなくていい」と本人。「気にしなくちゃいけないのは風向きだけだ」。

取材ではマイケルの事情に詳しい人々からたくさん話を聞いた。みな解離性健忘について意見できるほど病気について詳しくなかったが、裁判がこうした形で決着したことについては胸をなでおろしている。「なんらかの人格障害を患っていたのかどうかは分かりませんが」とバランスさんの妻ヨランダさんは言った。「彼は辛い幼少時代を過ごしてきたみたいですし、もしこれで筋を通すことができるなら……」。娘がマイケルと知り合いだったという女性は罪悪感でいっぱいだと語った。「悔しいですね、自分がもっと十分目を光らせていたら、かわいそうなあの子の人生を変えられたのに」とその女性は言う。「マイケルに申し訳ない」。

ロドニーの葬儀は行われなかったが、斎場では通夜が営まれた。「私がぜひにとお願いしました」とヴァネッサは言った。「お別れを言いたかったんです」。現在遺灰はヴァネッサのクローゼットに眠っている。ロドニーはどんな幼少期を過ごしたのだろうか? 数年前、マイケルがホームレス状態だと知ったマーフィーさんは、彼について詳しく知るためにロドニーの勤務先だった貯水池へと車を走らせた。「これだけひどいことが起こっていたので、『なぜだろう?』と思ったんです」と本人。ところが着いてみると、そこはとても静かで、穏やかな場所だったそうだ。

昨年春に筆者が訪れた際、貯水池の岸にはカヤックが係留され、葦の間を蝶が舞っていた。年老いた男たちが数人、電池式のラジオでオールディーズをかけていた。誰も名乗ろうとせず、ロドニーについても話したがらなかった。だがそのうち1人はロドニーの知人だと認めた。「彼は俺たち全員とまったく同じさ」とその男性入った。「どこにでもいるふつうの男だった」。

Akiko Kato

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