スウィング・アウト・シスター物語 ふたりが語るルーツと名曲秘話、日本との特別な関係

ソウル古典の影響、日本との特別な関係

─3枚目のアルバム『Get In Touch With Yourself』では「Am I The Same Girl」のカバーが新鮮で、あれはシャイ・ライツのユージン・レコードが書いて、バーバラ・アクリンが歌った曲でした。あなた方はデルフォニックスの「La La (Means I Love You)」もカバーしていますが、ソウル・ミュージックではシカゴやフィラデルフィアの洗練されたアレンジの楽曲が好みですか?

アンディ:いい洞察だね。確かにそうだよ。「Am I The Same Girl」はニューヨークのクラブにいたときにバーバラ・アクリンのレコードがかかっていて、雰囲気が素晴らしい曲だと思ったんだ。あんな感じの雰囲気をとらえてみたいと思ったね。それで何度も試行錯誤を繰り返してああいう曲を書こうとしたんだけど、その度にイントロのメロディを思い出したから、いっそのことこの曲をカバーすればいいじゃないかと考えたんだ(笑)。

デルフォニックスの曲も同じ感じでね。最初はその曲のムードにインスパイアされて、後になってから「自分たちのバージョンを作ろう」と思ったんだ。わざわざ一から作り直すより、いいバージョンを作ればいいじゃないかと。そうやってリスペクトを示すのもいいことだと思うよ。

コリーン:私は昔からノーザン・ソウルが大好きで……

─そう、実はノーザン・ソウルについても質問しようと思っていました。

コリーン:ソウルとR&Bのシーンがフィリー・サウンドやシカゴ・サウンドとクロスオーヴァーしたのがノーザン・ソウルだと思うの。ある意味ディスコの伏線だったわね。モータウンとディスコの間に位置する感じ。モータウンのライターやプレイヤーの多くが裏でそういう曲を書いていたし、認知度は低かったけどアメリカにもブラック系の小さなレーベルがたくさんあったのよね。そうしたらイギリス北部のDJたちがその中から速い曲を引っ張りだしてきて、ウェアハウス・パーティでかけるようになった。アメリカでは需要がなくて捨てられていたものを私たちがリサイクルしたってことね(笑)。音楽のリサイクルの一番初期の例よ。そんな感じで、ノーザン・ソウルはアンダーグラウンドのカルト的なシーンになっていったの。私はいつも惹かれていたわ。ストリーミングもmp3もない時代だったから、レコードを聴くには、そのレコードを持っているDJがかけてくれるのを(クラブに)聴きにいかないといけなかったのよ。でも一番有名なウィガン・カジノには行かせてもらえなかったわ。母が新聞で悪い噂を読んでいたからね(苦笑)。

その手の音楽をいくつか集めてみたら、バカラック&デヴィッドが書いたものも結構あったわ。映画音楽の編曲家、例えばマイク・ポストやロン・グレイナーみたいに映画やテレビの音楽を手がけていた人が書いたものもあった。彼らのストリングスのアレンジは実に洗練されていたわ。チャールズ・ステップニーみたいにR&Bをたくさん手がけた人もいたのよ。彼はその後アース・ウィンド&ファイアーやエモーションズを手がけたことで最も知られているわね。それからラムゼイ・ルイスも……ディスコ時代の前身みたいな感じだったし、その土台になったんだと思う。あなたよく気付いたわね。私たちのインスピレーションはまさにその辺りよ(笑)。




─ところで、日本で最もポピュラーなSOSの曲は、実は「Breakout」ではなくて「Now You're Not Here」かもしれません。あの曲があれほど大きなセールスを獲得して、長く愛されるようになったポイントはどこにあると思いますか?

アンディ:TVドラマのテーマ曲になったことは、決して過小評価されるべきではないと思うよ。あのおかげでそれまでとは違ったオーディエンス層が生まれた訳だしね。あの曲がドラマに使われたおかげで、日本のヒットチャートに登場する機会ができたんだ。素晴らしい機会をもらったと思うよ。実は曲も日本で書いたんだ。ツアーの後、1カ月くらい滞在してね。渋谷にはよく行ったな。ほら、渋谷に時間を知らせる大きな金属の時計があるの知ってる?(注:渋谷公会堂の前の時計台と思われる)。僕たちは渋谷に小さなホテルを借りて、その時計台のすぐ近くにあるスタジオに通っていたんだ。

「Now You're Not Here」が成功したのは、僕たちとしては珍しいバラードだったからじゃないかな。本格的にバラードに挑戦したのはあれが初めてだったんだ。それがうまくいった。でもどうしてうまくいったのかは僕にもわからない(笑)。ただ、オーディエンスに届いたという実感はあったね。

コリーン:バラードだけど、ラヴ・ソングって訳ではないからかしら。その場に居ない人を思って寂しさを感じるという内容の歌だから。でも切なさというか思慕感があって、そういう感情を日本のオーディエンスが汲み取ってくれたんだと思う。あの曲は他にも色んなバージョンを作ったのよね。……日本で作った曲だったからこそスペシャルだったのかもしれないわ。日本で日本のために作った曲だったし。

アンディ:ミュージシャン陣も日本人だった。リズム・セクションもそうだし、ホーンのアレンジは村田陽一という素晴らしいアレンジャーが手掛けてくれたんだ。彼は仲のいい友人でね。日本ではCHAGE and ASKAのバーニッシュストーンスタジオでもレコーディングしたことがある。確か世田谷にあったよね。



─何度も訪れてきた日本ですが、この国からはどんな刺激を受けましたか? スタッフやファンとの交流も長年重ねてきたと思うのですが。

コリーン:他のどこよりもインスパイアされてきたわ。それも日本のオーディエンスがずっとついてきてくれたからだと思うの。西洋のオーディエンスは移り気というか……どのバンドも2ndアルバム、3rdアルバムは売れるのが難しいのよ。すぐに飽きてしまって他に行ってしまう。でも、日本のファンはずっと通して支えてくれている気がするの。日本人の継続性は、何かをひとつ残らず集めたがる性質とも関係があるのかもしれない。コンプリートするのってすごく日本人的なことだと思うのよ。全色、全レコードを集めたい、みたいなね。私たち、日本ではCDやヴァイナルを買い漁って、スーツケース3個分くらいCDを買ったわ(笑)。世界の他のところでは忘れ去られていたタイプの音楽を、日本で山ほど知った。

アンディ:日本ではレコード店巡りが一番楽しいね。ライセンスの問題でイギリスでは手に入らないものも多かったし、宝探しみたいな感じだったよ。時間の感覚も不思議な感じになるんだ。びっくりするくらいコンテンポラリーなものがあるかと思えば、誰も持っていないような、ビーチ・ボーイズのレアな1965年の作品があったりするからね。

ただ、近年数回行ってみて、今は日本らしいカルチャーを探し出すのが難しいと感じた。もっと画一化されてきて……それは日本だけじゃなくて、世界中そうだけどね。世界がひとつの場所になってしまった感があるよ。今じゃ秋葉原に行く必要もないんじゃないかな? 全部スマホ1台で手に入るし(苦笑)。でも、あの場所は大好きだったよ。


現時点の最新作『Almost Persuaded』(2017年)収録曲「Happier Than Sunshine」

─さて、ニューアルバムは7年近くご無沙汰ですが、今はどの辺まで進んでいますか?

アンディ:(苦笑い)常に進めてはいるけど、問題はいつ終わるかなんだよな~。今3つ4つ進めているものがあるけど、どれも完成図が見えない。

コリーン:ひとつは完成しかけているわ。ビッグ・バンドのアルバムの話をしようかしら。と言ってもスウィング時代のビッグ・バンド的なアレンジじゃなくて、私たちの曲を映画音楽版みたいな感じのアレンジでやっているの。アンディの誕生日のお祝いにやったもので、彼自身もアレンジに参加して、ビッグ・バンドでショウをやったの。その時の録音があって、あとはそれをどう使うかってことなんだけど、色んな考えがあって。もう少しで考えがまとまると思うわ。

アンディ:でもコリーンも言っていたように、元々は僕へのバースデープレゼントだった。つまり「僕のもの」だから、自分のためにとっておきたいな。シェアしたくないというか(笑)。シェアする前にもう少し自分で遊びたいね。ちなみに「Now You’re Not Here」のステキなアレンジも入っているよ……ともあれ、いつかは完成させるよ。

コリーン:ライブ盤として出すのもいいかもよ(笑)。


前回の来日公演、2018年10月のビルボードライブ東京にて撮影(Photo by Masanori Naruse)



スウィング・アウト・シスター来日公演

2024年4月1日(月)〜3日(水)
ビルボードライブ東京(1日2回公演・3DAYS)
1stステージ 開場16:30 開演17:30/2ndステージ 開場19:30 開演20:30
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2024年4月5日(金)
ビルボードライブ横浜(1日2回公演)
1stステージ 開場16:30 開演17:30/2ndステージ 開場19:30 開演20:30
>>>詳細・チケット購入はこちら

2024年4月8日(月)〜9日(火)
ビルボードライブ大阪(1日2回公演・2DAYS)
1stステージ 開場17:00 開演18:00/2ndステージ 開場20:00 開演21:00
>>>詳細・チケット購入はこちら

チケット;
サービスエリア¥12,800-
カジュアルエリア¥12,300-(1ドリンク付)

メンバー:
Corinne Drewery / コリーン・ドリュワリー (Vocals)
Andy Connell / アンディ・コーネル (Keyboards, Vocals)
Gina Foster / ジーナ・フォスター (BGV)
Tim Cansfield / ティム・キャンスフィールド (Guitar)
James Ahwai / ジェイムス・アーウェイ (Bass)
John Thirkell / ジョン・サーケル (Trumpet)
Jody Linscott / ジョディ・リンスコット (Percussion)
Nic France / ニック・フランス (Drums)

Translated by Sachiko Yasue

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