米テキサス州知事、支持率アップのために「移民への残虐行為」を拡大

「この件について、州知事は何のお咎めも受けてない。おそらくこの先もそうでしょう」とネヴァレス氏は続けた。「州知事が下した決断はどれも最悪ですが、非常に効果的でもあります――功を奏しています」。これまでのところ、イーグルパスでの対立でも効果を発揮しているようだ。テキサス州でのアボット州知事の支持率は過去最高に迫る勢いだ。在職期間を考えれば、たいしたものだ。とくに重要なのは、州知事が国境問題での対決姿勢によって、この10年基盤が揺らいでいた共和党の極右グループから支持を集めているという点だ。

国境問題に対する意見をアメリカ国民に尋ねれば、答えは十人十色だ。国境を警備するべきだという点ではみな一致している。だが北部ミシガン州ならまだしも、テキサス州の住民でさえも移民問題の核心や経緯に熟知しているとは限らない。移民保護収容所についても知らないのではないか。こうした問題は人々の話題には上らない。川を渡ろうとする人々の多くが、当局に身柄を寄せようとしていることも知られていないのではないか。ひと昔、ふた昔前まで国境は基本的に開放されていたことも、現在はかつてないほど厳重に閉ざされていることも知られていないだろう。こうした誤解が、アボット州知事やトランプ氏のような政治家に格好の舞台を作ってしまった。

イーグルパスでも誤解は生じている。この数年間、移民や亡命申請者が街にあふれ返った時期は、明らかに手に負えない状況だった。だが全体的に、イーグルパスから国境を越えようとする移民の数は、テキサス南部やカリフォルニア州やアリゾナ州の国境付近ほど多くない。時たま発生する危機や、時に威圧的な警備隊の姿が「サイコシス」的な雰囲気を生んでいるのだとネヴァレス氏は言う。住民は不満を募らせている。越境移民が急増すると、国境をつなぐ橋は閉鎖され、住民は仕事にも家族にも会えなくなるからだ。街の経済は橋に依存している。そのため「あいつらのせいだ」という発言が聞かれるようになるのだとネヴァレス氏は言う。おそらく「縫合しようと救急病棟に行けば、20人の移民が中で待っているでしょう」。

そうした心情は州のあちこちで耳にする。すでに逼迫状態の公共サービスに移民が殺到しているという苦情。時にはもっと意地悪い声もある。とある政治集会で話を聞いた1人の男性は、老朽化した近隣の病院の酸夫人病棟を時折のぞき、有色人種の妊婦がどのぐらいいるかチェックしていると語った。これほど裕福な州で、近所の病院がなぜ老朽化しているのか疑問に思う代わりに、その男性は新参者と思しき人々を非難していた。

イーグルパスが他と違うのは、底辺にまで落ち、ときに助けを必要とする移民と頻繁に遭遇する点だ。「人間なので意地悪になることもあります」とネヴァレス氏。「だが個人レベルでは、移民に同情を寄せる人々も大勢います。みな自分たちのできる範囲で手を差し伸べています」。ある年のクリスマス・イブ、4人家族を含むホンジュラス移民の一行が川を越えてネヴァレス氏の牧場にたどり着いた。「我が家もちょうど食事のタイミングでした」とネヴァレス氏は振り返る。「なので一緒に夕食に誘いました」。

「義母や妹が死んで以来、最高のクリスマスでした」とネヴァレス氏は語る。移民たちは身の毛もよだつような恐ろしい旅の末、なんとか越境し、しかるべき場所にしかるべきタイミングでたどり着いたのだ。「お嬢さんは4~5歳ぐらいで、クリスマスプレゼントをあげました」。もう1人の少女は10代だった。男性の中にはあまりにもやせ細っていたため、ネヴァレス氏の息子のおさがりの服がぴったりだったという者もいた。旅の途中で遭遇したトラウマの中には、すんなり語れるものもあれば、そうではないものもあった。空腹を満たし、服を与えられ、ようやく身の安全を確保できた移民たちは、最終的に国境警備隊までの道筋を教わった。

他にもまだある。さかのぼること数カ月前には、12歳の少女と8歳の少年に出くわした。2人の腕にはフロリダに住む親せきの電話番号が書き込まれていた。ネヴァレス氏は2人にハッピーミールを食べさせ、数日間連絡が取れずにいたという家族に電話をつないでやったそうだ。ここで同氏は言葉を切って、気持ちを落ち着かせた。一生忘れられない「電話口の声」だったそうだ。「子どもたちの前では泣くまいと思いました」。

移民にフェンスを切断されるのを防ぐためというのもあり、ネヴァレス氏は可能な限り手を差し伸べた。だが同氏もやはり嫌な思いを経験した。自宅にやってきた州職員から敷地内に有刺鉄線を張ってもいいかと尋ねられた際、同氏は承諾した。「人生最大の過ちでした」と本人は言う。有刺鉄線を張っても、越境は止まなかった。有刺鉄線が張られたのは木曜日だったという。日曜に牧場へ行くと、「2歳児を連れた17歳の少女」に出くわした。「少女は身重でした。全身切り傷だらけでしたが、なんとか有刺鉄線を潜り抜けてきたんです。その時、無意味だったことに気が付きました」。

出来ることなら鉄線を撤去したい。だが州は撤去しないだろう。「州のやりたいようにやらせたなんて、頭がどうかしてたに違いありません」。遅ればせながら、牧場のフェンスを移民に切断されるよりも最悪の事態があることに気が付いた――自分は命にかかわるけがを負わせる片棒を担いでしまったのだ。突き詰めて言えば、我々もみな同罪だ。

Akiko Kato

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