刑部芳則が語る、昭和モダニズムの先駆者・服部良一が作った大戦前後の楽曲

青い山脈 / 藤山一郎、奈良光枝



田家:作詞が西條八十さんで服部さんの作曲ですね。この曲であらためて思われることは?

刑部:この曲を嫌いな人っていないと思うんですよね。服部さんは大阪から京都に仕事で向かっている電車に乗っている途中でリズムが降りてきたみたいなんですね。

田家:じゃんじゃんじゃーん♪のイントロもそうなんですかね。

刑部:ええ。汽車が前に進んでいくような感じですよね。

田家:「東京ブギウギ」が中央線で、これは大阪から京都の東海道線だ(笑)。

刑部:そうなんです。西條八十は当時成城学園に住んでいまして、そこから見える山脈ですから富士山を中心にした山々ですね。これはちょうど昭和22年3月に、我々が受けた教育制度6-3-3-4制が始まって男女共学になるんですよ。東宝映画の『青い山脈』でクライマックスのシーンで原節子だとか池部良が自転車で肩を並べて走ってくるところで流れてくるのでよく使われますけど、戦前には考えられない。戦前は男女別学でしたからね。肩を並べて男女が歩くなんてことも許されなかった時代があったわけです。そういうことを考えると新しい時代が来たんだという。軍国主義が終わって民主主義の日本というような形で戦争を経験した人からすると、こんな時代があれば私たちもこういうような明るい青春時代が暮らせたって思うし、新しい教育制度を受けた人たちからすると、私たちは新生日本の時代が来たんだというような形で、激動の昭和を生きた人たちは必ずこの「青い山脈」を選んだんだと思うんですね。平成元年に私も見てましたけど、NHKが昭和の歌ベスト200曲を投票によって選んだんですけど、堂々の第一になったのがこの「青い山脈」なんですよ。

田家:服部さんの『ぼくの音楽人生』の中にこんな言葉が載っていて、古賀政男さんが僕が作曲している間は日本はよくならない。良ちゃんの時代になって明るい歌が流行れば、世界の日本になるとおっしゃったというのがありましたね。

刑部:ええ。古賀さんの歌は日本人の持っている悲しみ、切なさを投影しているとなると、服部さんの曲にはそういう悲しみがないから、そういうのがもてはやされる時代はみんながハッピーなんじゃないかと古賀さんは感じたんでしょうね。

田家:それがハッピーブギに繋がっているというところで、来週も服部良一さんの話をいろいろ伺っていこうと思います。ありがとうございました。

刑部:ありがとうございました!

静かな伝説 / 竹内まりや



流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

今週あらためて思ったことが2つありまして。1つはJ-POPってリズムとハーモニーがついているポップスのことなのかなと。それまでの作曲家の方たちが書いている歌謡曲は大体が単音が並んでいる曲が多かった。そうじゃない、リズムから生まれた曲というのはその時代にも既にあって、そういうのを作っていたのが服部良一さんだった。「山寺の和尚さん」はその典型的な曲だと思ったんですね。ああいうジャズのリズム、ご自分でお書きになっていましたけども、スキャットから曲ができるみたいなことがそれまでの歌謡曲の方たちの中ではあまりいなかったのではないか、これが1つ。

もう1つが大衆音楽とは何か。いつ生まれて、誰が作ったのかということが誰の脳裏にもないんだけれど、独り歩きしている歌ですね。そうやって広がっていって、その時代の歌になった。「青い山脈」はその最大の例でしょうね。誰が作ったかということよりも、1つの時代を1曲ですべて語っている。先生が見事に分析してくださいましたが、その頃のことを実は僕らが本当は知らなければいけないんだなってことも、今日は一番強く思ったことかな。戦時中のことと言っても、僕が生まれる数年前のことですからね。そのことを1977年生まれの人に教えてもらっている、これはなんだ(笑)。語り継がれてこなかった戦争体験ってことになるんでしょうね。戦前というのがどんな時代で、戦争が今の僕らにどう繋がっているのか。そんなことも考える1ヶ月、2023年の年末になっております。来週は最終週、思いがけない話が飛び出します。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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