BREIMEN・高木祥太とガリガリガリクソンが語る、「キャラ」と「商売」からの解放

株を始めた本当の理由
「お金のためにお笑いをしない」

ー「ガリガリガリクソン」というキャラクターを切り離して生活するために、株を始められたということですか?

ガリ 僕、お笑いでお金を稼ぐのが嫌になっちゃって。たとえば、この舞台でネタをして「10万円です」って言われたら、10万円分なにかしないといけない。お金をもらってしまったら、その分の対価を支払わないといけない。それが嫌で、なんとか切り離したくて。自分のお笑いと、お金を稼ぐということを、分離させたかった。でも、たとえばビジネスをするとなったら、それはそれでまた誰かに対価を支払わないといけないから、そのやり取りを遮断して1人だけで生きていける方法ってなんやろうと考えると株になっちゃった。

高木 なるほどね。すごく納得できました。お金が絡んでビジネスになっていくことが悪ではないけど、プリミティブな気持ちで始めたことがそうなると、なんかちょっと変わってきますよね。「お金を払ってくれてるからには」みたいな。そこから離れたくなる気持ちは、めっちゃわかります。お金が絡んでない企画とかをやりたくなりますもん。

ガリ そっちの方が楽しかったりするし。

高木 そうなんですよ。ショービジネスやエンタメが悪いとかではなくて。お笑いとか、絵とかもそうだと思うけど、「1人、もしくは、みんなでやってて楽しい」みたいなことからスタートしたものは、究極的にいえばビジネスと相性よくないと思う。だから……株始めようかなあ。

ガリ ははははは(笑)。

高木 たとえば10万円もらう30分の舞台と、1万円もらう30分と、本当は自分としてもどちらも100%で行きたいけど、そこに9万の差があったら、なにかが変わってしまうことはあるような気がする。

ガリ なんかあるよね。芸人さんからしたら「芸で稼げや」ってなるけど、逆にそれで稼がなくなってからプレッシャーがなくなって、毎日すごく楽しいし。お金のためにお笑いをしなくなったからすごくよかった。たとえば劇場出番があって1日3回同じネタをするってなったときに、同じことを3回もするなんてメンタルがもたない。それは自分の中でなんにもプラスにならないし、劣化していってストレスが溜まるだけやから。今、本当に、会社に「仕事入れてほしくない」と言っていて。8月は3回仕事しただけで、あとはノーギャラでやる配信とか。

高木 でも1日15時間くらい株やってるんですよね?

ガリ 朝から晩まで。だからニートではない! 保険も自分で払ってるし!

高木 でも納得。そんなまっとうな理由があるとは思ってませんでした。

「新幹線のチケットを売ってた」
忙しいのに金がなかった時代

ガリ あとは、お金もそうやけど、僕、ファンを増やしたくなくて。だからネットで毒舌するっていう。ファンの人って、応援してくれてありがたいけど、間違っていても正しいって言ってきてくれはるから怖くて。

高木 そんな計算尽くしで毒舌だったとは。ちょっと衝撃の事実かもしれないです。

ガリ 自分の感覚だけでやらないと。「みんなが喜ぶからこれをしよう」とかになってしまったら、薄くなって、なんのこっちゃかわからんくなってしまうから。

高木 めちゃくちゃわかります。でもそれを明言しつつ、本当にやってるのがすごい。「みんなが喜ぶものを」というところからスタートしちゃダメだし、そもそも合わせにいかないけど、いざファンの顔が見えると無意識に影響されちゃうところは確かにあって。目を光らせてるわけではないけど「この人、アルバムのリリース以降、来なくなった」とかをふと感じたりして、そういうことが無意識のうちに自分の創作に影響してるのかもしれないなって、ちょうど最近思ってました。俺は、音楽は絶対にサービスではないと思っているから、「ニーズに応えなきゃ」みたいなことをなるべく思わないようにやっているものの……そこまでやってると本当に遮断できるんだな。それはちょっと、シンプルにかっこいいですよ。

ガリ 意外とかっこいいこと言うんですよ。

高木 結構……かっこいいっすね(笑)。僕の勝手なイメージなんですけど、お笑いは――俺がテレビとかでしかお笑いを見てないからそう思うだけの可能性もあるんですけど――「お笑いドリーム」みたいなものが目に見える形になっているというか。ミュージシャンは、たとえば「日本で売れなくても海外フェスに呼ばれたらいい」「ずっと恵比寿LIQUIDROOMがソールドアウトするくらいでいい」とか、「テレビに出て天下を獲る」「日本の音楽を変える」以外の人も結構いる気がする。芸人さんの中でガリさんのスタイルは完全に亜流じゃないですか?

ガリ 特に漫才師さんとかは「賞を獲らないといけない」「『M-1』の決勝に出ないといけない」とか、すごい切羽詰まった状態でやってる方が結構いて。でも僕はそういうタイプではないので。

高木 でもガリさんもある段階のドリームは行ってますもんね。そのときって、めちゃくちゃ忙しかったんじゃないですか?

ガリ これ、言っていいかどうかわかんないですけど、『あらびき団』のときは新幹線のチケットを売って夜行バスで移動していたので。

高木 え? 金なかったってことですか?

ガリ そう。うちの会社はほんとにお給料少ないし。

高木 『あらびき団』『レッドカーペット』とかに出まくっていた時期は忙しいし金もないし、みたいな?

ガリ ない。

高木 そのあとにだんだん入ってきたりはしたんですか?

ガリ いや、結局単価は上がらないまま。

高木 それはだいぶきついですね。

ガリ 音楽も一緒かもしれんけど、ほんまに忙しくなると制作時間がなくなっちゃう。ただただ毎日をこなすだけで、気がついたら1カ月終わってる、みたいな。でも忙しい中で「早く新ネタを作らないと」「他の人は作ってるのにこんなことしてる場合じゃない」みたいに変なプレッシャーがぐるぐる始まっちゃって。

高木 ありますね。めちゃわかりますね。

ガリ だからもう忙しくなりたくない。

高木 仕事量が増えても単価が上がらないから、もらえる額は増えるけど、そもそも忙しさに見合ってない、っていうことですよね?

ガリ そう、労働量が増えとるだけみたいな。芸人さんが賞とかコンテストを頑張るのって、あれを獲ると若干ギャラが上がるから、そのためにやってるのもあるかも。

高木 全然ドリームじゃない、現実ですね。だから逆にガリさんが一番お笑いで夢見てるんじゃないかなって思いますけどね。「お金が」みたいなことって、音楽とかお笑いの本質を追求することとは距離があるものだと思うから。『M-1』とか賞レースが存在してるから、逆説的に「お笑いドリーム」みたいなものができあがってるのかもしれないですよね。もし音楽業界に『M-1』みたいなものがあったら、多分そういうベクトルの「音楽ドリーム」みたいなものがあったんだと思うし。構造的な話なのかもしれない。

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