BREIMEN・高木祥太と鳥飼茜が語る、音楽と漫画の創作論

左から鳥飼茜、高木祥太 Photo by hamaiba(GROUPN), Hair and Make-up・Styling by Riku Murata

BREIMEN・高木祥太が話を聞きたい人を招いて対話する連載企画。今回来てくれたのは、高木が今最もハマっている漫画家・鳥飼茜。『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載されていた『サターンリターン』の最終巻が発売された直後、ついに憧れの鳥飼と会えることとなった。

【写真を見る】『サターンリターン』より

そもそもこの連載企画は、普段表に出ない人の人生にもドラマがあるし世の中には多様な価値観・生き方がある、といった高木の想いをもとにスタートしたもので、様々な人間や社会的状況をリアルに描く鳥飼の漫画にも近しい想いが流れている。二人は「人間」や「幸せな生き方」に対してどのような考えを持っているのか、なぜ「他人」を知ろうとするのか、そしてそれらをいかにして作品で表現しようとしているのか――二人の創作論は深いところにまで潜っていった。

※この記事は「Rolling Stone Japan vol.22」に掲載されたものです。





高木から見た鳥飼の漫画のすごさ

高木 鳥飼さんは僕が最近一番ハマってる漫画家さんです。『サターンリターン』が本当にもう、最高の漫画で。そもそも僕、めちゃくちゃ漫画読むんですよ。その中でも鳥飼さんの作品は全部読もうと思って、『地獄のガールフレンド』、『おはようおかえり』……。

鳥飼 あ、すごく古いのまで。

高木 『前略、前進の君』、『ロマンス暴風域』、『先生の白い嘘』、『おんなのいえ』……2つくらい以外は全部読んだと思います。最初に『先生の白い嘘』を読ませていただいて、衝撃的にくらって。僕の人生史上、その漫画家さんの作品を全部読みたいと思ったのが鳥飼さんと古谷実さんで。そこからインタビューとかを読んでいたら、古谷実さんのアシスタントをしていたことがあると知って。

鳥飼 そうなんです。私が唯一、長くアシスタントを勤めたのが古谷実先生で。

高木 それが自分的にしっくりきたというか。古谷さんも鳥飼さんも、それぞれ根幹のテーマがあって、作品によってその出し方を変えているというふうに思っていて。

鳥飼 そうですね。自分のことはあんまりわからないんですけど、古谷さんの話で言えばめっちゃそうだなって思います。

高木 僕的には同じだなと思いました。今回話をする前提として、僕、男性じゃないですか。あえてわけちゃいますけど、鳥飼さんの作品を読んで男性と女性で受け取り方が違うと思っていて。俺が受け取れる部分はどうあがいても一線あるような気がしている上でいうと、「性差」というテーマで、初期の作品は女性性の方に寄っているけど、『ロマンス暴風域』あたりから「なんでこの人はこんなに男のそれをわかるんだろう」みたいな……。

鳥飼 「それ」!(笑)

高木 本当にすごいなと思って。鳥飼さんの全作品に言えることは、ディテールがすごい。登場人物全員のディテールが細かくて、全員を主人公にして別の漫画ができるくらい。全員魅力的だし、醜いし。

鳥飼 醜いですよね(笑)。


『サターンリターン 』全10巻
小学館
発売中


主人公・加治りつ子が大阪に向かうシーン/『サターンリターン』第66話(8巻)より

高木 その塩梅がすごいなと思います。あと、現実の中で起きる、本当はいろんな人に起こっているであろう感情とか小さな出来事を広げていくような漫画というか。リアルなんだけど、リアルの中に存在する非日常的な部分にフォーカスがあたっていて、かつ、作品によってその出し具合や非日常度合いが違う。『サターンリターン』でいうと、主人公の(加治)りつ子が大阪の街に向かうあたりから急展開になって、だんだん壊れていくじゃないですか。

鳥飼 そうですね。今後はこういう展開にしていくということを、ちょっと宣言的な感じで描かせてもらったりして。それは、途中で色々あったんですよ。

高木 そうなんですか?

鳥飼 生活でも問題が増えて、本もどんどん売れなくなったんですよ。このままだと続けられないかもしれない、と。というのも作家が漫画を描き続けるには結構出費があるんです。だから部数が減っちゃうと赤字になっちゃうんですよね。こうなると長くは続けられないから、モチベーションを高めるためにもよりドラマチックな展開に振り切ろうと思って、そこまで考えていた設定を一回全部捨てちゃったんです。

高木 そうだったんですね。『サターンリターン』が他の鳥飼さんの作品と差があるとしたら、『サターンリターン』はそこらへんにいそうだった人にドラマ性があるという部分かなと思っていて。

鳥飼 すごいですね、全部お見通しで(笑)。やっぱり、エンタメ性が私の漫画には欠けているなとずっと思っていたし、あとは、自分の想定外の行動をさせることって難しくて。自分も生活で自身を抑えつけていたような感覚でいたから、自分の描いてるキャラクターが自由になるのが許せなかったんです。だからりつ子にちょっと変わったことをさせても、常に想定内のところで終わってた。それに対して読者も、中途半端というか、「もっと来いよ」という感じだったのかなと自分で思っていて、だから途中からとにかく自分の手から遠くに飛んでもらうことに集中して。最後はもう本当に遠くに行っちゃって、憧れてました。りつ子が羨ましかった。

高木 雑な言い方ですけど、『サターンリターン』は完璧な漫画だと思ってます。鳥飼さんの全部の漫画に言えるんですけど、特に『サターンリターン』は登場人物が多いと思うんですよ。

鳥飼 多いですよね。「女性8人を巡礼する」みたいなストーリーで、さらに周辺人物と、主要人物の3名とかがいるので。最後の方のシーンとか1個のコマに7、8人くらいいるんですよね。

高木 しかも、全員の表情をちゃんと描くじゃないですか。

鳥飼 もう描くのほんと嫌だと思って(笑)。なんかね、気になっちゃうんですよね。

高木 絶対そうだなと思って。創作物って共通点を探したら全部にあると思うんですけど、特に音楽と漫画は近いと思っていて。漫画の要素としてはお話と絵があって、音楽は詩と曲がある。話や詩だけだったら本でいいわけで、そこに絵や音が入ってやっと成立するというか。それでいうと、鳥飼さんの漫画はデザイン性とか絵のディテールがすごいから、バランスとして絵が占めている要素が多いなと思って。

鳥飼 説明が、文字情報より絵でわかるということ?

高木 そう、絵で補填されているというか。

鳥飼 へえー! それは描いていてよかったです(笑)。

高木 カメラワークとか、アングルの切り替えとか、寄りからいきなり広いところへ行くところとか、めちゃくちゃすごいなと感じました。……すみません、オタクな意見で(笑)。

鳥飼 いやいや、嬉しいです。今、褒めてもらうボーナスタイム(笑)。

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