BREIMEN・高木祥太と鳥飼茜が語る、音楽と漫画の創作論

人間の多面性を見せることへの挑戦

ー「相手のことを知りたいし、見たいし、見せたい」という意志がお二人に通じている中で、どれだけ相手のことを見ようとしても結局は自分が見たいようにしか見ることができない、というリアルも鳥飼さんの作品の根底部分には流れていると思うんです。それはBREIMENのアルバム『FICTION』のコンセプトにも通ずるもので。

高木 『FICTION』は、めちゃくちゃ人を傷つけてしまって、自戒の念も込めて作り出したアルバムで。俺から見たあなたは一面でしかないし、あなたから見た俺も一面でしかない。どこかで自分の見たいものしか見えない瞬間があるということに自覚があるから。たとえば「綺麗事」という曲は、恋愛のよかった部分だけを映画的に切りたいように切り取ってロマンチックに描いていたりするんですけど。そもそも作品化すること自体が、切り取ってしまっているから。

鳥飼 そうですね。

高木 それを、自戒の念と「これは事実ベースの話だけど俺目線でしか切り取れてないよ」ということを前提として、アルバムタイトルに付けたというか。

鳥飼 ああ、それを『FICTION』と。



高木 そう。俺はある意味諦めたというか。「作品ってフィクションだよな」という気づきでもあったんですけど、鳥飼さんの漫画を読んだら、ギリギリまで全部を見せようとするアプローチがあるんだなということを思いました。ひとつの事実のどこをどのアングルで切り取るのか、その認識ってものを作っている人だったら全員あると思うんですよ。でも俺は鳥飼さんの作品を読んだ時に「いやもうちょっと頑張ります」と思って。

鳥飼 (笑)。『FICTION』という名前を自分でつけちゃったのは、聴いている人に何をどう思ってほしくて?

高木 音楽ってすごく即効性のある媒体だと思っていて。だからたとえばサビが終わって「えっと、これはあくまで僕からの視点でしかなくて、これが事実というふうには捉えないでほしいです」って言ったら変じゃないですか。

鳥飼 はい、ですね(笑)。

高木 だからそれをアルバムタイトルに入れたというか。伝わりやすいかって言われたら、そんなことはないと思うんですけど。これは事実があった上であくまで俺視点の話でしかないということをわかる形にしておきたかった。

鳥飼 ああ。多分、途中まで自分もめっちゃ近いんですよね。ただ最終、そこに「フィクション」というタイトルを私はつけない。「これはあくまで私の見た一面なので」というのはもちろん絶対にそうなんだけど、「すべての可能性を探ってみました」みたいなことをやりたいんですよ。

高木 めちゃくちゃわかります。それこそ鳥飼さんの漫画を読んで……別に『FICTION』が「諦めた」とは思っていないけど。

鳥飼 いや、それは「親切」だと思う。

高木 もっと自分の中でいろんな可能性を探して、という作り方もありなんですけど、それをやったら多分3年後くらいに出せる感じだったなと思って。自分の人生のタイミングとかも含めて、「フィクション」というていでアルバムを出すことが必要だったんですよ。だから『FICTION』は納得いってるし、すごく好きなアルバムで。多面性を探るよりは、もうめちゃくちゃ振り切って、俺の視点ということに開き直っちゃうというか。

鳥飼 だって音楽は時間の尺があるから。時間が限られている1曲の中でできることって、すっごく無限だし、限られてるじゃん。それに嘘つきでいたくないというか、なるべくパンツ脱いでいたいという感じは、私も一緒なんですよ。

高木 そうですね。

鳥飼 だからすごくわかるんだけど、多分、それをどこまでやっても見る人からすれば一面でしかないことにも変わりがないから、すごく葛藤がある問題で。本当はまん丸のボールの全部剥き出しのやつを出したいんですけど。

高木 わかります。

鳥飼 でもそれって不可能じゃないですか。いろんなカメラがあるから。なるべく球体に近い多面体を作っているけど丸にはならない、みたいな感じで。でも一回は『FICTION』という一点に落とし込まないと自分が納得いかないというのはすごくよくわかる。

高木 鳥飼さんの漫画は本当にそれを感じたから、憧れ的な意味も含めて好きだしすごいなと思います。音楽におけるそれの限界も確かにあるとは思う。でも媒体は違えど、剥き出しをギリギリまで描こうとしていることへのリスペクトがすごくあります。

鳥飼 そういう……露出狂じゃないんですけど(笑)。ちょっとそんな感じなのかな。

高木 そうですよね(笑)。この企画にあやかって普段だったら会えない鳥飼さんを呼べて、本当に感謝してます。いくらでも話せるなという感じなんですけど(笑)、本当にありがとうございました。

鳥飼 2時間しゃべり通しでしたね。こちらこそありがとうございました。

高木 舞い上がってしまった部分もありつつ、楽しかったです。普通にまたしゃべりたいです。(カメラ)なしでも。

鳥飼 ですね、ぜひぜひ!

Text&Editor by Yukako Yajima


左から鳥飼茜、高木祥太(Photo by 2025, Hair and Make-up・Styling by Riku Murata)

BREIMEN
常軌を逸した演奏とジャンルにとらわれないスタイルで注目を浴びる5人組オルタナティブファンクバンド。2022年5月リリースされたポルノグラフィティ岡野昭仁とKing Gnu井口理のコラボナンバー「MELODY(prod. by BREIMEN)」では高木祥太(Vo.&Ba.)が作詞作曲を手掛け、メンバー全員が演奏・編曲を担当。同年7月に3rdアルバム『FICTION』をリリース。


BREIMEN 最新シングル
「T・P・P feat.Pecori」
配信中



BREIMEN ONEMAN TOUR 2023 「COME BACK TO BREIMEN」
2023年10月13日(金)東京Spotify O-EAST
2023年10月20日(金)大阪BIGCAT
2023年10月28日(土)広島Reed
2023年10月29日(日)福岡CB
2023年11月5日(日)金沢AZ
2023年11月6日(月)名古屋ElectricLadyLand
2023年11月21日(火)仙台MACANA
2023年11月23日(木)札幌Sound lab mole

鳥飼茜
漫画家。1981年生まれ、大阪府出身。2004年に『別冊少女フレンドDXジュリエット』でデビュー。『先生の白い嘘』『地獄のガールフレンド』などを手掛ける。最新作は『サターンリターン』。

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