BREIMEN・高木祥太と鳥飼茜が語る、音楽と漫画の創作論

なぜ人間の魅力と醜さを描くのか

高木 さっきも言ったんですけど、登場人物全員、魅力的なんですけど醜くもあって。

鳥飼 そうですね。

高木 全員を魅力的に描き切らないって、意外と難しいことだと思っていて。『サターンリターン』だと、りつ子の編集担当の小出くんの醜さの加減がすごく絶妙だなと思いました。小出くんとか、彼女のまきちゃんは、この話の中ではわりと魅力的な部類の人たちじゃないですか。

鳥飼 そうです、善良さを担保しているので。

高木 でも醜さとか、小出くんだったら幼児性とかを出してくる。別に魅力的なまま描いても成立すると思うんですよ。それをやらないことも、本当に、リアリストだなと思ったんです。

鳥飼 あ、そうですね。自分のことを一言で言うとそう思ってますね。うんうん。

高木 めちゃくちゃリアリストだから、逆に嘘とかのぼかし方ができないんだろうなと思って。

鳥飼 できないんですよねえ。それがネックでもある(笑)。

高木 いやそれはすごく魅力だと思うんですよ。

鳥飼 多分、若い時は理想があったと思うんですよ。「こういう異性がいてほしい」とか、友情も一生続くと思ってるし、家族も立派だと思ってるつもりだったし。でも生きていくとだんだん「あれ?」ということが起きるじゃないですか。「すっごく信頼していたけど、この人は私にこういうことをしてくるんだ」とか。私にだけじゃなくて、「男の人ってこういうものだと思っていたけど、女性に対してこういう態度をするなあ」とか。そういうことがいろんな人と会っていく上でたくさんあって、それにいちいち幻滅しているわけですよね。ただ、ショックを受けても立ち直っていかなきゃいけない。落ち込んで沈んでしまったら生きていけない、というのが現実主義なのだろうなと思うんですけど。だから何をするかというと、全部の可能性を含んでおいて、人と会っていく、生きていく。

高木 うんうん。

鳥飼 楽しいことがあると別の側面では誰かがつらかったり、傷つけられることはあるけど自分が傷つけていることも絶対にあったり。なんていうか、10:0では生きていけない。自分が手負いになる部分は絶対に出てくるから、「保険」じゃないんですけど……。

高木 保険? 面白い。

鳥飼 保険というといやらしいな(笑)。もちろん、理想のことを詰め合わせて世界を作っていくやり方もあると思うけど、それはどうしてもできなくて。昔、少女漫画の雑誌にいたんですよ。

高木 そうですよね。

鳥飼 中高生の女の子たちが読む『別冊フレンド』でデビューしたんですけど、やっぱりどうしても理想の恋愛とか、キラキラした側面にフィーチャーすることが途中からできなくなっちゃって。私は基本的に希望を持って生きているんですよ。他の人もそうあってほしいんですね。そうじゃないと自分が幸せになれないから。自分が幸せになるために相手の人も幸せでいてもらわないといけないということで描いているんだと思うんです。

高木 わかります、うん。『サターンリターン』もそうだけど、10巻完結で、9巻で終わらせられるというか、多分終わらせられるタイミングはいくらでもある中で……。

鳥飼 すご! すごいですね(笑)。

高木 でも最後に、それまでの流れを汲んだ上でありえないくらい前を向いていくところにすごく意志を感じて。

鳥飼 めっちゃびっくりした。そう、内容的には9で終われたんです。めちゃくちゃすごいですね。

高木 俺にとってはこの10巻があるのが鳥飼さんの漫画なんですよ。重いテーマとかを扱っていく中で、別にそれを押し出したいわけじゃなくて、それを経た上でどう前を向いていくかとか、希望の部分を描く。『サターンリターン』も読後感としては、別にハッピーエンドではないけど、でも絶対に前を向いている描写というか。鳥飼さんの漫画ってこれだなと思いました。

鳥飼 私がリアリストであるということは、キャラクターとか役割を固定させないんですよね。だって普通に生きていても、一人の人が請け負っている役割って絶対に一個ではないじゃないですか。大きく言ったら、場面によって「マイノリティ」とか「マジョリティ」というのも入れ替わる。

高木 そうですね。

鳥飼 私から見ると、全部が交代ばんこなんですよ。人をフッたら次フラれるし、助けたら助けられるし。一側面だけで人生は終わらせてくれない。そういう厳しいものじゃないですか。だから、それを見ていたいんですよね。

高木 なるほどなあ。さっきのカメラアングルの話にも通じるのかなと思って。善悪は決めつけられなくて、どの角度から見るかによっても違うし、状況においても違うし、社会的な立場もそう。人ってシンプルではないというか。ある人から見たら素晴らしい人かもしれないけど、ある人から見たらそんなことはなかったり。いろんな角度がある中で、どの角度をどれくらい描くかというレンジがあると思うんですけど、鳥飼さんはそれを本当に描ける限り描いてる。だからリアルだし。

鳥飼 楽しみたいんですよ、自分が。

高木 だから登場人物が生きている感じがするんですよね。


最終巻にて。複数人の表情や背景が緻密に描かれている1コマ/『サターンリターン』第81話(10巻)より

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