ジュリア・ホルターが語る官能的サウンドの裏側、『ポニョ』から学んだ愛と変容の旅路

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─今作の収録曲では、あなたを始めラモーナ・ゴンザレス(ナイト・ジュエル)、ジェシカ・ケニー、マイア、ミア・ドイ・トッドの5人のヴォーカリストが歌声を重ねる「Meyou」もトピックだと思います。ホーミーも連想させるプリミティヴな歌唱が新鮮ですが、このコラボレーションはどういった経緯で実現したのでしょうか。

ホルター:あれは要は、自分のなかに浮かんだファンタジーというか(苦笑)。まず、あのメロディを思いついて――私は過去にもキャサリン・ラムといったコンポーザーの作品(2017年にTriangulumというプロジェクトに参加)で、この曲でやっていることに似た歌唱法を少し経験したことがあって。そこではユニゾンで歌いながら、様々な実験をやったんだけれども……それはともかく、だから数人と一緒にこういう風にまた歌うことに興味があったし、あの、いわば「Me」と「You」の2単語から成るメロディが浮かんだ時、どういうわけかこのメロディは自分がこのレコードで表現しようとしてきたことと通じている、そう思った。こうやって説明するとかなりダサく聞こえるけど(苦笑)、でも、あそこにあるのは……さっきの話に少し戻るけれども、タシの音楽に、彼がユニゾンを追求した作品とも繫がってくるし、今回私が強く求めていたもの、ぜひやりたかったのがユニゾンで、「5人の人間が一緒に歌うと、ユニゾンはどうなるか」ということだった。だから私たち全員が同じメロディを歌った、と。けれども興味深いのは、あの作品を聴き返すと、毎回自分の声を聴き分けられなくて(笑)。

─(笑)。

ホルター:あのトラックの開始部は私が歌ったはずなんだけど、不思議なことに、自分の声のようには聞こえなくて。まあ、ともかく、基本的に指示はシンプルなもので、単に実際的な理由から、まず私が歌い始め、徐々に他の4人が歌に参加していく。で、私たちはしばし離散し、そして再びひとつになる、と。だから回文みたいなものだし、唯一のディレクションは、各人に好きにやってもらう、だった。だから各自にとってのこの作品の解釈、あるいは「こうなってもいいだろう」と思うままにやってもらった。実は、あれは3テイク録ったんだけど、そのどれもみんな、もっとずっと長いピースで。結局カットしたんだけれども、あそこまで短くできるとは私たちも思っていなかった(アルバム収録ヴァージョンは5分55秒)。それこそ、ひとつのテイクは20分くらいだったし。

─そうだったんですか!

ホルター:うん。それくらい長く歌ったっていう(笑)。でも、あれはやっていて本当に楽しかった。そうだな、というわけで…………ごめんなさい、ちょっと言葉が浮かばないけど(笑)、そういう成り立ちだった。あ! だけどこう、意図的なところはあった。だから、誰でも構わない、単純にシンガーを4人引っ張ってくればいい、というものではなかった。言うまでもなく、歌い手はとても慎重に選んだし、それぞれまったく違う、でもみんな素晴らしい声の持ち主で。だからほんと、あの作品のキモは彼女たちというか、あれだけ異なる複数の声が同じひとつのメロディを歌うとどうなるか、そういうことだった。



─その参加した4人のミュージシャンのなかでも、ラモーナ・ゴンザレスはあなたと互いの作品で共演を重ねてきた付き合いの長い間柄になりますよね。あなたから見て、彼女の魅力はあらためてどんなところにありますか。

ホルター:うん、彼女は……私の大のお気に入りのポップ・ミュージックのいくつかを書いてきた人で。すごくキャッチーだし、本当にグレイト。声も素晴らしいし、彼女がプレイするのを初めて聴いた時のことは鮮明に覚えてる。彼女のツアーでバッキング・ヴォーカルを担当したこともあって、あれは本当に楽しい体験だった。彼女の音楽には常にインスパイアされるし、たぶん、とてもキャッチーな音楽を構築できる彼女の能力が、自分はとにかく好きなんだろうな。もっとも、ただキャッチーなだけではなくて、とんでもない深みを、詩的な深みも音楽に持たせることができる人でもある。うん、彼女の音楽には常にこの、詩的な深み、そしてハーモニー面での深みが備わっているけれども、それと同時に、それらをものすごくキャッチーにすることもできる、という。それに、初期の頃に彼女から衝撃を受けたことのひとつが、歌の背後に、しばしばとてもクリアーなアイデアが存在する、という点で。ほとんどもう、私からすれば絵画作品に近い、それくらい明解なヴィジュアルがそれぞれの歌に見えて。だから彼女は、各曲ごとに個別の何かを喚起させていた、というか。ある意味、私にはあんまり上手にやれなさそうな(苦笑)、そういうやり方で彼女は音楽を作っていたし、ひたすら感心させられた。とても複雑なのに、でも同時に本当にキャッチーなポップ・ソングを作れる、彼女のそういうところが大好きだな。でもそうは言いつつ、キャッチーなポップに限らず、彼女はバラードなんかも得意だし……うん、とにかく、彼女のメロディ・センスに、ヴォーカルに……ごめんなさい、この手の質問への頭の準備が整ってなくて、あっちこっちに話が飛んでる(笑)!

─ですよね、こちらこそ、すみません。

ホルター:(笑)いえいえ、気にしないで! 全然OKだし、話していて楽しいから! だからとにかく、彼女の表現力はすごく良いな、と思う。彼女の言葉の歌い方、あれは本当にナイス。どうやったらそれを説明すればいいかな、そうねえ、だから彼女の言葉の発語の仕方は……っていうか、これは今まで自分でもちゃんと考えたことがなかった点だけど、これは本当。彼女が言葉を発する、そのやり方が本当に好き。というのも、ほら、歌い手によっては――いやまあ、これは言語云々によっても差があるんだろうだけど、歌う時に、とある単語を特定の発音で歌うシンガーは多くて、ただしその発音は、文化的に育まれたアクセントとはまったく関連していない、という。で、そうした彼らの発音や特定の単語の発し方が、自分の耳にはやや不誠実っぽく響く、みたいな(笑)?

─(笑)なるほど。

ホルター:そう言いつつ、我ながら何を言ってるのやら……! だって、すべてのアートは、真の意味での作り手の反映ではないんだし……んー、自分でも何を言いたいのか分からない(苦笑)。とにかく、私は彼女の言葉の発音の仕方が好きだ、そういうこと。彼女はその言葉の持つ『音』を引き出している、と。うん、自分が言わんとしているのは、たぶんそれだと思う。

─それは、特にシンガーにとっては重要だと思います。

ホルター:うん、本当にそう。というのも、人々はたまに奇妙なアクセントを敢えて使って、とにかく、単におかしな発音の仕方で言葉を歌うことがあるし……んー、これは上手く説明できないな。それに、なんとなく意地悪を言ってるように聞こえるし。まあ、回りくどい言い方になったけれども、要は、私はラモーナの歌い方が大好きだ、そういうことで(笑)。


ホルターとナイト・ジュエルの共演曲「What We See」、dublab編纂のコンピレーション『Light From Los Angeles』(2013年)収録

─(笑)アルバムの話からは逸れますが、そのラモーナや、先ほども名前の挙がったコールマン・M.G.N.とあなたは、例えばdublabをハブとした地元ロサンゼルスのビート・シーンとも浅からぬ関わりを持たれてきた印象があります。そこには、Leaving Recordsを主宰するマシューデイヴィッドも含まれると思いますが、そうしたビート・シーンとの繋がり、あるいは同時代の地元の音楽シーンとどんな関わりを持ってきたのか/今現在も持っているのか、伺えますか。

ホルター:フフフッ! うん、今も関わっていると思うけど……ただまあ、なんというか私にはずっと、ちょっと妙な、“異なるジャンル/世界を行き来する”みたいなところがあって。

─ええ。

ホルター:だからさっきも言ったように、私の作るビートは超初歩的だし……自分はたぶん、Abletonを使いこなすことはないだろう、みたいな。ただ、私は……(笑)そうだな、自分が思うに……うん、Leaving、そしてdublabはどちらも新しい音楽を学ぶための素晴らしいリソースであり、今もそうあり続けている、そう思う。dublabもLeavingも、自分がとても感心させられるのは……一方はラジオを運営しつつイベント等々も企画・運営する組織、もう一方はレコード・レーベル、と違いはあるものの、どちらもとても上手く運営されていて、しかも自分たちのヴィジョンを貫いている、その意味では共通しているな、と。しかも変化しているし、若い世代をたくさん巻き込んでいて、だから複数の異なる世代が関わることになってもいて。それでも、両者はいまだにとてもインディペンデントな組織だし、彼らは自分たち独自のことをやっているだけなんだろうけど――しかもロサンジェルスみたいな場所でそれをやっている、というね。バラバラに分散した土地柄だし、そのぶん何かオーガナイズするのがむずかしい、みたいな。四方八方にシーンがちらばっていて、常に何か進行中だけど、思いがけない場所でそれが起こる。そんなこの街は常に、少々紛らわしい。だからロサンジェルスで組織を運営するのはあまり楽じゃないと思うし、ただその一方で、ちゃんとヴィジョンを持ったオーガナイザーにとっては実に多くの可能性に満ちた場所でもあって。

マシューデイヴィッドと彼のパートナーのディーヴァ、そして今dublabを運営しているマーク・“フロスティ”といった面々は、本当に優れた仕事をやってきた。何が起きているかを見極め、無名ながらも興味深いことをやっているアーティストを見つけ出し、彼らに様々なイベントでパフォーマンスする機会を与える、あるいは彼らの音楽をリリースする、そういう環境を保ってきた。で、私もそういうアーティストのひとりだったし(笑)、2007年に自分のやった最初のショウもdublabでだった。だからdublabは本当に、私を助けてくれた場だったし、それにLeavingのマシューデイヴィッド、彼は私の最初のレコード『Tragedy』(2011年)をリリースしてくれたし、あれは私にとってとても大きかった。というわけで、うん、あれらの人々すべてに本当に感謝しているし、彼らのローカル・シーンの維持ぶりはとても見事だし、最高だと思う。



dublabが2008年に配信したセッション音源

Translated by Mariko Sakamoto

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