フェイ・ウェブスターが語る、どこにでもいそうなスーパースターの自由と葛藤

Photo by Kendrick Brinson

独特のユーモアセンス、共感を呼ぶ歌詞、カテゴライズ困難なサウンドで多くのファンを魅了してきたフェイ・ウェブスター(Faye Webster)。目下の課題は、これまでとは比較にならないプレッシャーや不安への対処だ。さる3月にニューアルバム『Underdressed at the Symphony』を発表。ローリングストーンUS版の「Future 25」にも選出された彼女の最新インタビュー。


フェイ・ウェブスターはテニスが上手い。どしゃ降りの1月下旬の午後、私たちはロサンゼルスのAltadena Town & Country Clubで極めてユルい試合をしている。かなりの腕前である彼女とは対照的に、筆者はラケットを握ること自体が生まれて初めてだ。にもかかわらず、情けないほど下手な筆者のラケットが雨でぐっしょりになったボールに当たるたびに(滅多になかったが)、ウェブスターはコートのネットの向こう側から声援を送ってくれた。

赤毛とひげが印象的なコーチのネイトも同じくらい優しく、「ストライクゾーン」や「基本姿勢」といったフレーズを用いながら指導してくれている。筆者にとってはどれも馴染みのない言葉だが、オーバーサイズの白いTシャツと黒いショーツに身を包み、赤褐色の髪を後ろで結んで前髪を額に散らしているウェブスターは、コーチの声に熱心に耳を傾けている。試合後に私たちがピックアップホッパーでボールを集めていると、彼女はある最近の出来事をふと思い出した。「ママが……」と言いかけて口をつぐみ、ウェブスターはこう訂正した。「サンタクロースが、クリスマスにこれを私にプレゼントしてくれたの」。彼女はきまり悪そうに笑いながらこう言った。「口が滑っちゃった」。

ツアーでオーストラリアに向かう前に一時滞在していたロサンゼルスで、アトランタ出身のウェブスターと筆者は行動を丸一日共にしたが、誰も彼女のことに気づかなかった。そういった状況も長くは続かないだろう。長年の友人であるリル・ヨッティをゲストに迎え、今年1月にリリースしたファジーでサイケデリックなロック「Lego Ring 」は、これまでに400万回以上のストリーミングを記録している。TikTokでは(皮肉なことに彼女自身はアカウントを持っていない)彼女のショーのクリップが何百万回も再生され、「Our mother is mothering」(女性ポップスターのファンが、そのアーティストの作品を賞賛する際に使うキャッチフレーズ)といったコメントが多数寄せられている。ニューアルバム『Underdressed at the Symphony』を携えて大規模なヘッドラインツアーに出ようとしている彼女は今、カルトヒーローから真のスターへと変化しようとしている。



リスナーもジャーナリストも、インディーポップに酩酊したようなR&Bと切ないフォークをブレンドしたウェブスターの音楽性をうまくカテゴライズできずにいる。「彼女は自分だけのジャンルを確立した稀有なアーティストのひとりだ」。そう話すのは、ウェブスターを2021年に自ら率いるウィルコの前座に抜擢したジェフ・トゥイーディーだ。「カントリーの独自解釈とも、ソウルへの斬新なアプローチとも取れる。一般的には互いに関連性がないと考えられている楽器や要素を、彼女はごく自然に調和させている。自分が様々な垣根を跨いでいることを、彼女は自覚さえしていないのかもしれない。彼女のインスピレーション源に共通項があるとすれば、それは文字通り彼女がただ好きなものなんだろう」。

しかし今、ウェブスターはサーブに全神経を集中させている。ほとんどのファンは、彼女が子供の頃にテニスをしていたことを知らない。スポーツの話題になると、彼女は大抵アトランタ・ブレーブスへの熱狂的な愛か、特注のヨーヨー(彼女はヨーヨーも得意だ)について語り始める。だが実は、彼女は18歳以下のテニスチャンピオンという輝かしい実績の持ち主だ。筆者がその事実を突き止めたことを知って、彼女は大いに驚いていた。「まさかそんなことを知ってるなんて。Nardwuar(博識で知られる突撃インタビュアー)も顔負けね」


Photo by Kendrick Brinson

コート上のウェブスターが手にしているラケットは大坂なおみのカスタムモデルで、ネイトから贈られたものだ。彼女が履いているナイキのシューズも、同じく大阪なおみがデザインしたモデルだ(同選手のお気に入りのお菓子があしらわれている)。彼女は最近、大阪選手が経験したスターダムとメンタルヘルスに関する苦悩について綴った新たな伝記を購入したという。

彼女にとって、大坂は単なる憧れのアスリートではない。今まさに名声に伴うプレッシャーに直面しているウェブスターは、彼女に強い共感を覚えている。(オバマ夫妻が大坂を「センセーショナル」と評し、バラクがウェブスターの「Better Distractions」を2020年のお気に入りの曲に挙げるなど、2人の間には好ましい共通点も見られる)。

「彼女もまた世間からの注目に戸惑っているけれど、プレッシャーへの対処の仕方にすごく共感しているの」とウェブスターは話す。「私は本当に感極まった時にはステージで泣くこともあるし、ものすごく悲しくて辛い時には、そういう気持ちを観客の前で打ち明けることもある。大阪選手が脆い部分を曝け出すのを見て、私も弱音を吐いていいんだって思えるようになった」

Translated by Masaaki Yoshida

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