Finomが語るポップと実験性との婚姻関係、ウィルコやFrikoとの交流、 シカゴが特別な理由

音楽の原体験、シカゴが特別な理由

─今日は、RSJでの初取材なので、基本的なことも伺っていきます。まずはそれぞれ、音楽に最初に魅せられたときのことを覚えていますか?

シマ:もともと音楽好きの一家でね。いつも一緒に歌ったりジャムしたり、地下室に楽器がセッティングされていて、いつでも演奏できる状態だった。将来ミュージシャンとして人前で演奏する自分の姿を想像してるような子どもだったな。曲を作るのが好きで、楽器が好きで、人前で演奏するのが好きだったし、どうやったら今までとは違う形で自分を表現できるだろうって、頭の中はずっとそればっかり。

それが、メイシーと一緒に歌って音を鳴らしたとき、ビビビッって身体に電気が走るみたいな衝撃があって。2人してギターだのノイズを探求しつつ、2人の声から生まれるハーモニーを模索していく過程で「この瞬間に特別な何かが起こってる!」って、それは最初から感じた。一緒に歌い始めて、色んなプロジェクトに呼ばれるようになり、自然に一緒に音楽を作るようになったんだよね……そのビビビッっていう感覚に従いながら。しかももう10年一緒にやっているのに、未だにその衝撃を感じていて、それって改めてすごいことだなぁって思う。

メイシー:ホントにそう! 私はわりと小さい頃から音楽をやっていたのね。母親はプロのミュージシャンで、9歳から演奏活動していた筋金入り。だから、母親の音楽に対する姿勢が刷り込まれてる。音楽は常に身近にある、日々の努力と成長と共にあるという感覚。ピアノも母親から教えてもらい、ヴァイオリンのレッスンも受けたし、楽器が常に自分の生活の中心にあった。

うちも音楽一家で、姉も音楽をやっていたし、父親の音楽趣味は今振り返っても相当センスが良かった。子供の頃家でかかっていた音楽が、私の脳内にインストールされてる。高校生になる前には、自分が進むべき道は音楽って決めてたな。ただ、どうすれば実現できるのかわからなくて、手始めにクラシック・ピアノの道に進んで、専門の学校にも通って、その後高校生になってからシマの弟のリアムのバンドに参加して、一緒にツアーしたときに自分が求めているもの、探している形にようやく出会えたと思った。旅することが夢だったし、音楽を演奏しながらそれが実現できるなんてまさに夢のようだと思って! 天からのお告げみたいに感じられたんだ。



過去の人気曲「Icon」(2018年)と「3 2 4 3 」(2020年)

─今の自分を育む上で影響を受けたと思うミュージシャンを思いつくままに挙げてもらえますか?

メイシー:父親が聴いていたクラフトワーク、ケイト・ブッシュ、デヴィッド・ボウイ。それは氷山のほんの一角に過ぎないんだけど……あとはフィオナ・アップル! 子供の頃に影響を受けた人だとそんな感じ。

シマ:私が子供の頃はジミ・ヘンドリックス、ボブ・ディラン、あとはブルースを大量に聴いていたかな。父親がブルース・ギタリストだったから、夕飯時にジミヘンかディランかブルースかジャズのレコードを聴くのが我が家の習慣だった(笑)。

─シカゴはブルースでも有名ですものね。

シマ:そう。でも、ビートルズにハマっていた時期もあれば、ノー・ダウトにハマっていた時期もあるし、高校生の頃は色んなポップ・パンクに、とっかえひっかえ夢中になってた(笑)。あとメイシーとの関係が深くなってからハマった音楽もある。私はケイト・ブッシュを通ってなかったけど、メイシーに会って開眼した。フリートウッド・マックもそう(笑)。両親がフリートウッド・マックを毛嫌いしていたから、聴いたことがなかった(笑)。

メイシー:反対に、私はフリートウッド・マック育ち(笑)。でも、私もシマから優秀なソングライターを教わったよね。エイミー・マンとか……あと名前をど忘れしちゃったんだけど、誰だっけ?

シマ:ラサ・デ・セラ?

メイシー:ラサ・デ・セラもそうだけど、あ、そうだ、ギリアン・ウェルチ! ギリアン・ウェルチもシマに教えてもらった!!

シマ:私も、B-52'sのレコードをフルで聴いたのはメイシーに説得されてだし(笑)。

メイシー:というわけで、キリがない(笑)。


Photo by Anna Claire Barlow

─シカゴは大都会で、ツアーでは必ずミュージシャンが立ち寄ります。さらにローカル・シーンも活発でかなり早いうちからライブを観る機会に恵まれていたと思うんですけど、ライブ・パフォーマンスという点で衝撃を受けたアーティストはいますか?

メイシー:うわー、いい質問。

シマ:シカゴを“大都会”の仲間に入れてくれるなんて、恐縮なんだけど(笑)。

メイシー:私の場合は、コンステレーション(主にジャズや即興/実験音楽などをブッキングしているシカゴのヴェニュー)でマーク・リーボウの演奏を観たのが決定的だった。あとアート・リンゼイも! 「え、え、え、何、ギターってそんなこともできちゃうわけ⁉」って(笑)。その場で「私たちもやりたい!」って、あの2人のライブは今でも強烈なインパクトを残しているよね。コンステレイションは最高に素晴らしいヴェニューなんだよ! あそこで観たショウに、どれだけ自分の音楽観がひっくり返るほどの衝撃を受けてきたことか。それ以外のライブだと、サン・ラを初めて観た時もインスパイアされまくったし、セイント・ヴィンセントのシカゴ公演も!!

シマ:あれは最高だった! 特別なショウだったよね。それと、サブタレニアンというものすごく小さなヴェニューで──本来ならもっと大きな会場で演奏すべきなんだけど──観た坂本慎太郎のステージは忘れられない。私は坂本さんの全作品を追ってきているけど、その坂本さんが地元の、しかも小さな会場に来てくれるなんて!って、ものすごく感激したし、内容も素晴らしかった。いつかまたシカゴに来て、もっと大きなメトロとかサリア・ホールあたりで演奏してほしい!




シマ:シカゴでやっているといえば、私の夫も関わっているコズミック・カントリー(Cosmic Country)というミュージシャン集団による実験的なプロジェクトもおもしろいよ。インディ・ロックのアーティストにカントリーを演奏させてみよう!という企画で、プロのミュージシャンが普段やっているのとは異なるジャンルや文脈にポンと放り込まれて、そこで新たな自分を発見するきっかけの場として機能しているところが素晴らしい。

シカゴの音楽シーンの何に一番ときめくかと言えば、私としては、新しいことに挑んでいる人たちの心意気に触れる瞬間で、何ものも恐れないインディペンデント魂みたいなものがシカゴのシーンの土壌としてあるんじゃないかな、と思う。それとアットホームな雰囲気があるところ。それはシカゴ以外の土地のミュージシャンも、少なからず感じるところなんじゃないかな。

それにね、シカゴの小中規模ヴェニューの多くは大企業の傘下に入っていなくて、個人オーナーの経営が多いの。アメリカの大都市ではかなり珍しいことにね。だからこそ、何て言うんだろう……もうこれってベタすぎて申し訳ないんだけど、ご当地ソング「Sweet Home Chicago」の通り、シカゴに来たらみんな自分の故郷に帰ってきたみたいな温かい気持ちになるんじゃないかな。

メイシー:うん、本当に特別な町だと思う。シマが言ったようにクリエイティブな力を応援しようという雰囲気に溢れているし、素晴らしいライブを体験できる町にいることは、自分たちのパフォーマンスにも確実に影響している。シカゴという町に暮らしてること自体がインスピレーションそのものみたいなところもある。


Cosmic Country企画のパフォーマンス映像

─シカゴの町には古いものと新しいものが共存していると感じました。アカデミックな雰囲気もあって、素敵な建築物や美術館も多いし。

シマ:うん。これって音楽に限らずのことなのかもしれないけど、世間的にはとにかく最先端で若くて新しいものをありがたがる傾向があるよね。でもシカゴみたいな町でミュージシャンをやっていると、アートや創作活動のために長年尽力してきた人たちを敬って讃えるような空気があって……これは勝手な思い込みかもしれないけど、日本でも似たような空気を感じたよ。

それに、シカゴって学生の町でもあるから若い人たちのエネルギーに溢れてる。大学をきっかけにシカゴに出て来る子も大勢いる一方で、長年シカゴに住みながら音楽やアートに従事する人が精神的指導者の立場から、今まさに自分の道や方向性を模索している若い人たちにアドバイスしていたりする。色んな年齢層が混じり合ってるところが、シカゴの音楽シーンをすごく豊かで面白いものにしている気がするな。人生において違うフェーズにいる人たちをそれぞれ尊重できるってすごく素敵なことだし、大切なことのように思えるんだよね。常に若くて新しいものに飛びつくばかりの価値観ではなくて。

メイシー:あるいは、“ポピュラーなもの=価値あるもの”という以外の価値観だよね。

Translated by Ayako Takezawa

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