Finomが語るポップと実験性との婚姻関係、ウィルコやFrikoとの交流、 シカゴが特別な理由

ポップと実験の「二股愛」

─さて、新作『Not God』ですが、事前に青写真や、漠然とでもやってみたいことなどはありましたか?

シマ:ひと通り曲ができた時点で、どの曲の組み合わせがいいのかジェフの意見を聞きながら一緒に探りつつ……ただ、今回に限らずなんだけどエレキ・ギターの可能性を広げたいという気持ちは毎回ありつつも、今回はそこにアコースティック・ギターの感触を復活させたくて。しかもユニークな形で。そういうことに挑戦すること自体がすごく楽しかったし、しかもジェフと一緒に追求することができたんだから! それが一応、青写真的に目指していたことかな。これまでになかったアプローチとして、ジェフに何曲か聴いてもらった上で、メロディはそのままの形を踏襲しながら、背後に流れるコードを変化させていったりもした。ジェフみたいな名ソングライターと一緒にそれができるなんて、本当に貴重な経験になったよ!

メイシー:あと、フォーカスしたかった点としてはグルーヴだよね。どういうグルーヴを自分たちは求めているのか。だから一度「これだ!」っていうグルーヴを見つけたら、曲の最初から最後までずっとその波に乗っていくようにということを何曲かで意識した。グルーヴを保ちつつ、どうやったらそこから面白い展開ができるだろう? このまま気持ちよくグルーヴに乗っていけるだろう? ということを一つの指針にした。私たちが好むレコードって、まさにそんな感じのものが多いから。圧倒的に素晴らしいグルーヴを持ちながらも、素敵なグルーヴだけに終わらず、独自の世界観を確立している。



シマ:歌詞のテーマに関しては……今回はかなり広範囲の感情をカバーしたように実感してる。あと、曲作りとは関係なく、あの時期に2人でよく話していたトピックとして、エゴとか権力とか支配欲ってことがあって。そうした権力といかにして闘っていくかが一つのテーマにもなっている。ここ4年くらいかな、2人とも人生のどん底みたいな時期をそれぞれに通って来ていて、エゴや権力、支配欲に関しても、それら対する怒りにしても、すべてはその苦しい時期を乗り越えた経験に伴って生まれた感情であり、経験から獲得した学びなわけで…………どんなに出口なしの状態にあっても、シニカルに流されてしまわないように、自分のすべての感情をそれに支配されてしまわないようにってね。

だからこそ2人とも今回は、基本に立ち返ることを切に望んだのだと思う。私たちにとっての本来の希望とは?、喜びとは何か?ってことを見つめ直して、そこにしっかりと軸足を置きたかった。歌詞もかなり挑戦してるけど、同時にこれは祝福でもあって、自分たちは何に対して“愛”や“生きている”という感覚を実感するのか……その上で自分の信じている方向に着実に一歩一歩進んでいくみたいな。自分でもまだ把握しきれない部分もある。あまりにもテーマとして巨大すぎて。ただ、自分の中にボンヤリとあった感情としてはそんな感じかな。

メイシー:多分だけど、補足ね。シマが今話したのは、「Dirt」という曲のことじゃないかと思う。淡々と努力し続けることについて歌ってる曲だけど──というか、シマがそう言ってたんだけど──実際、今回のアルバムの曲って「つべこべ言ってないでやることやれ!」的な、後ろから容赦なくビシビシ鞭打つ感じなんだよね(笑)。頑張ったからって報われるかどうかなんてわからないし、むしろその期待を捨てるところから始めるべきなのかもしれない。もちろん、何かを目指して努力することは素敵だし、いつかその努力が報われるかもしれない。ただ努力すれば必ず報われると期待するのは、ちょっと違うんじゃないか、と思うんだ。期待を抱くことで、“扱いにくいエゴ”の部分がザワザワと動き出してしまう。ただ、どんなに報われないとしても、努力し続ければ必ずどこかに辿り着くはず。たとえ自分が望んでいたものとは違っていたとしても。ひたすら努力し続けることで、必ず何かしら手にできるはずだから。ホントに(笑)!


Photo by Anna Claire Barlow

─歌詞は、2人別々に書くんですよね?

シマ:基本的には別々。私は、自分の中から自然にこぼれ落ちた言葉を大事にするようにはしている。何気なく口をついた一言とか、まさに素の自分から出てきたリアルな実感だよね。歌詞ってかなり厄介で、そもそも音楽について言葉にして語ること自体が難しい領域なんだけど、インタビューで「この曲の意図は?」的な質問をされると、自分たちにも答えがわからないことが往々にしてある。もちろん、この部分に関してはこれを伝えたいとか明確な部分もあるんだけど、曲全体として自分が何を伝えようとしているのかを訊かれたら、正直わからないことのほうが多い。それに、受け手がそれを聴いたときにどう思うのかに関しては未知の領域なわけでね。ただ基本的には、最初に曲を書いた人の気持ちなり、最初に降ってきたインスピレーションを大事にするようにはしてる。必要以上にこねくり回さないように……パン作りと一緒。こねすぎるのもよくない(笑)。

メイシー: アハハハ、今のすごくいい喩え!(笑) 本当に自分で曲を書きながら何について書いてるのかわからないことはよくある。でも、頭では理解できなくても、そこに何かしらの感情が入ってることは、自分が一番よくわかるから。歌詞って後になってから意味を持ち始めるもので、それは曲をレコーディングした直後かもしれないし、ライブで何度も演奏を重ねて、それこそ何年か越しに訪れるものなのかもしれない。自分の手から離れたところで曲自体が意味を持ち始めるような……そうであることを自ら望んでいるところもある。自分が何を書いているのか、むしろ曲から教えてもらいたい……うん、そういうことなんじゃないかな。



─この取材の序盤でシマはフィノムの音楽について、ポップ性と実験性という言葉を使って表現していました。その2つのバランスについてはどう考えていますか?

メイシー:そもそも2人とも、歌や歌ものが好きだから、1回聴いただけで一緒に歌い出して、そのままず〜っと一緒に歌っていたいような気持ちにさせられる曲が大好きなんだよね。それも自分たちのやりたいことの一つなんだけど、同時に音楽とかサウンドの面にもガッツリ魅了されちゃってるから、一つのアイデアに辿り着くまでに何通りの道が考えられるのか、あるいは逆に一つのアイデアからどれだけの道が開けているかにすごく興味を持ってしまう。さらには、そこからどんな新たな可能性が生まれるんだろう?って想像するだけで、ワクワクしちゃう。そう、まさに“実験”という言葉の通り(笑)。

あからさまに実験的な曲とそうでない曲の両方があるけど、いずれにしろ毎回実験していることには変わりない(笑)。だって本当に、自分たちでも最終的に何を作っているんだかわからないまま作っているから。ただその場の流れに乗っているだけで、そこから結果的に何かいいものが生まれているといいなって思う。あるいは、やっている本人たちが面白いと思っているなら、それでいいという気持ちもある。そこに、ポップと実験性との婚姻関係が成り立っているんだと思う。

シマ:いつも2人して「笑っちゃうね」って、話しているんだ。自分たちはロック界にもインディ界にも友達がいて、それこそカントリーならカントリー、フォークならフォーク一筋でやってる仲間もたくさんいる一方で、アヴァンギャルドで筋金入りの即興ミュージシャンみたいな友達一派がもう一方にいて(笑)。実験的な一派の中では私たちは一番ポップなバンドとみなされて、もう一方のシンガー・ソングライター/ロック派からすると、ときどき理解できないほど奇怪な音楽をやっているように見えるらしく(笑)。だから、かなりおかしな立ち位置にいることを自覚しつつも、2人とも両者の中間の、どっちつかずの立ち位置に大満足してる(笑)。2つの異なる世界の橋渡しの役目を果たすことが、ひたすら喜びでしかない。

メイシー:ほんとそう。自分はそれを目指してたんじゃないかなって思う。2つの世界の橋渡し役。即興や実験音楽に対する深すぎる愛と、これまたポップに対する深すぎる愛と同時進行の二股状態(笑)。で、この先も両方と良い関係を保っていけたらいいなぁ。




フィノム
『Not God』
発売中
詳細:https://bignothing.net/finom.html

Translated by Ayako Takezawa

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