ジェイ・ソムが語る傑作『Anak Ko』の背景、フィリピン人女性としてのアイデンティティ

─制作自体は結構時間あったんですか?

JS:2018年からずっと曲は書いてたんだけど、今年の1〜3月くらいにかけてガッとつくった感じかな。

─相変わらずベッドルームでつくってるんですか?

JS:もちろん。

─ベッドルームだとやりやすいですか。

JS:慣れてるっていうのもあるし、お金もかからない。

─せっかく前作でブレイクしたわけだから、大きなスタジオを使って制作するみたいな可能性もなくはなかったですよね。

JS:うーん。まだ準備ができてないっていう感じかな。人のレコーディングで大きいスタジオで仕事をしたこともあるんだけど、自分でできるしって感じちゃうとところもあるし、まだかなって思ってる。

─前作が本当に話題になって一躍注目を集めるようになって、今作は前作とは制作の状況もずいぶん違ったんじゃないかと思うんです。プレッシャーとかなかったですか?

JS:プレッシャーはあった。前作を出したのは22歳のときで、それまでは本当に友達に聴かせるくらいのつもりでmyspaceやBandcampに音源をあげていただけだったから。それがいきなりレーベル契約が決まって、全国ツアーに出て、自分が好きだったバンドと同じステージに立ったりとか、予期しないようなことがたくさん起きたから、そういう変化のなかでつくるのはプレッシャーといえばプレッシャーで。聴く人も増えたし、ツアーも大きくなってっていう状況なんだけど、とはいえ、これまでやってきたこと変えたくないっていう思いもあったし。ほら、アルバムも3枚目とか4枚目になると、アーティストも変わりはじめるでしょ。もっと実験的にしてやろうとか、もっとポップな線を狙うんだ、とか。そういうふうにはなりたくなく。ただ、ひとりでつくるのは止めようとは思ってた。

─それはなんでですか?

JS:自分でドラムを叩くのにうんざりしちゃって(笑)。練習する時間もなくて、下手くそなままやりたくなかったから、仲のいいドラマーふたりに今作は叩いてもらった。


Photo by Kana Tarumi

─曲はだいたいどうやってつくるんですか?

JS:ケータイのボイスメモに「ララララ」って歌を吹き込んだり、ギターで適当に歌ったのを録っておいて、それをしばらく放っておいて、やろうって決めたらコンピューターに向かって一からつくりはじめる。1曲をつくりはじめたら、それをいじりながらどんどん伸ばしていくっていう感じなんで、私の場合、どの曲にも別バージョンっていうものがないのね。

─どれくらいの曲数を今回のアルバムのために書いたんですか?

JS:2018年のうちに20曲くらい書いたんだけど、一回全部おシャカにして、今年に入ってからさらに12曲くらい書いて、それを削って一番自分が気に入ってる9曲にまで絞り込んだ。

─捨てちゃった曲は一体何が問題だったんですか。

JS:うーん。しっくりこないって感じかな。自分じゃないな、と。

─これって曲の作り方とも関連している話かもしれないんですけど、現状公開されている「Superbike」も、「Devotion」も、曲の後半のインスト部分が面白いですね。ギターソロっていうわけでもないし、ただ長いだけのアウトロというわけでもなく。

JS:曲のなかに、必ずどこか爆発する瞬間をつくりたくて。徐々に曲が盛りがってエピックな瞬間に到達する感じが好きで。映画のサウンドトラックをよく聴いたりするんだけど、ストーリーのなかでどういうふうに音が感情を刺激していくのかというところに興味があって、そういうことを歌詞がないところでもやりたくて。ずっとジャズの作曲を勉強してきて、そういう実験はたくさんやってきたので、ポップソングのなかでそれをどう活かせるかっていう興味から、ああいうパートが生まれたんだと思う。

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