人が自ら「自由」を放棄してしまう可能性 今必要なこととは?

もうひとり、エーリッヒ・フロムという心理学者も、この「自由」についての問題を提起しています。彼は著書『自由からの逃走』の中で、ドイツ人がなぜ自由を棄てて、ナチズムに走ったのか考察しました。そこでの主張をごく簡単に説明してみます。

かつての封建制や絶対王政などから解放されて、近代人は自由を得ましたが、同時に旧来の束縛とともにあった一種の安定感が失われ、それによって孤独と無力感がつきまとうようにもなりました。そこから逃れるために、大衆は自由を棄てて、新しい束縛と権威へ逃避し、それに服従するようになります。当時のドイツ人は、同じような構図の中でマゾヒズム的に新しい服従先としてナチスを求め、サディズム的にユダヤ人などを標的にすることで安定を求めたのです。また、自由には「〜からの自由」と「〜への自由」があり、前者は何かの束縛、あるいは絆からの自由とも言えますが、それは前述したように、新しい束縛と服従につながることがあり、後者のような自発的・積極的・創造的な自由が重要になります。

個人の責任が大きくなり、孤立していくことで、人は自ら「自由」を放棄してしまう可能性があります。それはときに、ナチスに代表されるような恐ろしい社会にまで発展してしまいます。現在の状況でも、似通っているところがあるかもしれません。緊急事態宣言が発令された今だからこそ、社会として個人の責任の増大と孤立化を避けることが大切です。また、先述のホッファーは次のようにも言っています。

「驚くべきことに、われわれは自分を愛するように隣人を愛する。自分自身にすることを他人に対して行う。われわれは自分自身を憎むとき、他人も憎む。自分に寛大なとき、他人にも寛大になる。自分を許すとき、他人も許す。自分を犠牲にする覚悟があるとき、他人を犠牲にしがちである」

「自分を犠牲にするとき、他人を犠牲にしがち」というのは、とても鋭い指摘だと思います。私たちは、このような状況だからこそ、できるだけ自分自身を犠牲にすることがないように、ときには声を上げていくことも必要なのだと思います。



<書籍情報>




手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/


RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE