未だ謎多きUKバンド、ジャンゴ・ジャンゴが「音楽のモンスター」になるまでの物語

アルバムのテーマは「どこかへ逃げ出したい」

—でもたしかに、ジャンゴ・ジャンゴは当初から越境的なサウンドを奏でていましたよね。1stアルバムに収録された人気曲「Default」(Spotifyで約2800万回再生されたバンドの代表曲)もそうでした。あの曲については今、どのように振り返りますか?

デイヴ:そうだなー、あの曲はコンピューターの4トラックだけを使って作ったし、プロダクションにも全然手がかかっていない分、すごく生っぽいというか。ギターのチューニングさえちゃんとしていなかった気がする。当時はまだ作曲家としては経験が浅かったし、プロデューサーとしての観点なんて持ち合わせていなかったけど、今振り返ってみれば、その生々しさや荒削り感が好きだし、気に入っているよ。テクニックや音がよければ、必ずしも質のいい作品になるってわけではないんだ。

例えばパンクミュージックをミックスし直して音質をクリアにしても、それが元の音源よりいいかっていえば、むしろ台無しになってしまうことだってある。だから、手を加えすぎてしまうことについてはいつも気をつけていなければいけないと思う。あの頃は誰かにアドバイスをもらって、これはこうしたらもっとよくなるとか、やらない方がいいとか教えてもらっていたわけじゃないから、細かいことを気にかけず好きなようにやっていたし、そうやって偶然できあがった音を今になって聴きかえすことで、それを思い出すことができるんだ。



—その頃からのファンとしては、最新アルバムのオープニングを飾る「Spirals」も不思議なグルーヴがあって嬉しかったです。

デイヴ:「Spirals」は特にライブセットで演奏することを意識して、フックになるような曲として作ったんだ。1stアルバムだと「Wor」とか「Silver Rays」とかに匹敵するような、アップビートでライブで盛り上がってもらえる曲を新しく作りたいとずっと思っていた。少し前からアメリカやメキシコのツアーで新曲としてプレイしていて、反応もいい感じだったからアルバムのために録り直したんだよ。未発表の曲をライブで演ることはこれまであまりなかったんだけど、それもおもしろかった。ライブのオープニングに適していたし、それと同じようにアルバムの1曲目に持ってきたんだ。



—話の順番が前後しましたが、今回の『Glowing in the Dark』におけるテーマやコンセプトについて教えてください。

デイヴ:話すべきことはたくさんあるけど、さっき「Free From Gravity」についても話したように、ロンドンや東京、ニューヨークみたいなめまぐるしく景色の変わる大都市に住んでいると独特の閉塞感に直面するというか、息が詰まって逃げ出したくなるようなときがある。だからそこから抜け出したい、みたいな気持ちを昇華させているんだ。それぞれの曲は全然別のアイデアからきているんだけど、根底には少しずつその想いがある。

たとえば「The World Will Turn」はジミーが書いた曲で、彼にとってすごくパーソナルなものなんだ。だけど、みんなで作った「Kick the Devil Out」なんかは、ある日ウザい悪魔が家にやってきて一緒に暮らすっていうおかしなストーリーがベースになっている。その悪魔は部屋を散らかしたり、近所でいたずらしたり、本当の悪者ってわけではなくて、ただイラつかされるようなレベルのワルなんだけどね(笑)。最後にはそいつを家から追い出すっていうコメディタッチの内容。ぼくらはみんなキッズ・イン・ザ・ホールというカナダのスケッチ・コメディ・グループが大好きで、そういった雰囲気を出したかった。そんな感じで、それぞれの曲のテーマは私生活の問題だったり、ファニーなアイデア、世界情勢や政治と本当になんでもアリなんだけど、共通したコンセプトは「どこかへ逃げ出したい」って気持ちがあることなんだ。




 「モンティ・パイソンの再来」と呼ばれたキッズ・イン・ザ・ホールのスケッチ「Bobby versus Satan」。最新アルバム収録の「Kick the Devil Out」に影響を与えた。

—ひねくれたユーモアセンスもジャンゴ・ジャンゴの魅力ですよね。あなたが所有するスポークンワードのレコードも影響源として大きかったと聞いています。

デイヴ:そうそう、タイトル曲の「Glowing in the Dark」では、『2001年宇宙の旅』を朗読しているレコードをサンプリングしているんだ。「in the dark」って読みあげてる部分をリッピングしてループをかけてビートを加えて使っていて、それの上からヴィニーとジミーのヴォーカルを被せている。だから歌うというよりも、どこか話し言葉みたいな雰囲気が残っているんだよね。

古いレコードを集めるのが趣味なのもあって、昔のライブラリー・ミュージックに影響を受けている部分はあると思う。テレビとか映画の挿入歌として作られている曲のコレクションなんだけど。60年代のプロダクションが特におもしろくて、エイドリアン・シャーウッドだとか、ダブのレコードなんかもそういったライブラリー・ミュージックがサンプリングに使われていたりするんだ。


Translated by bacteria_kun

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