北欧ブラックメタル「血塗られた名盤」 メイヘムのメンバーが明かす壮絶な制作秘話

メイヘム(Courtesy of Ecstatic Peace Library © Jørn "Necrobutcher" Stubberud)


サウンドを刷新した二人のメンバー

同じく1991年、ユーロニモスはハンガリー在住のデッドのお気に入りシンガー、シハーにタイプで打った手紙を送った。その手紙には彼が手紙を書こうと思った動機が2つ書かれていた。一つは80年代半ばにシハーがトラッシーなブラックメタル・グループ、トーメンターで録音したアルバム『Anno Domini』をリリースする機会があること。もう一つはデッドが書いた歌詞をスタジオでパフォーマンスしてほしいこと。「彼らは俺の曲を気に入ってくれたし、最高だったよ」とシハーが言う。

シハーがブダペストでトーメンターを結成したのは1985年。当時はまだ共産主義国だったかの地に、彼の友人が密輸したメタルバンドのテープに触発されたのだった。ブラックメタルというジャンル名は、気骨と面白さが同居するヴェノムの1982年のトラッシュ・アルバム『Black Metal』から来ている。このアルバム以降、セルティック・フォロストやバソリーといったグループが、このジャンルに拳で殴打するような暴力性と、クラシック音楽に触発された邪悪なクオリティを加えていった。トーメンターが取り入れたのは華美に装飾が施された段階のブラックメタルと不気味な雰囲気で、これが顕著に現れているのが「Elizabeth Bathory」という曲だ。この曲は処女の血の風呂を浴びていたハンガリー王国の伯爵夫人バートリ・エルジェーベトを歌っている。当時の彼らは700〜1500人の観客の前で演奏していて、シハー曰く「メイヘムと同じくらいの観客数だった」。しかし、ユーロニモスがシハーに手紙を書いた頃にはメタルから卒業して、プラズマ・プールというグループでEBM(エレクトロニック・ボディ・ミュージック)やインダストリアル・ミュージックに傾倒していた。



シハーは『Deathcrush』を聞いた。彼に言わせると「あれは『うん、いいね』って感じだった」らしいが、初期段階の『De Mysteriis Dom Sathanas』の楽曲を聞いた時点ではプラズマ・プールと仕事をすることになっていた。「俺は『なんだよ、これ、最高じゃないか』って思った。新しい音楽が生まれるって分かったね。未来を予見した音だった。モダンで、相当ダークで、クールだった」とシハー。ちなみに、プラズマ・プールはその後1年半、活動がなかった。

『De Mysteriis Dom Sathanas』の新しさの一部は、ソーンズ(Thorns)というバンドを率いたノルウェー人ギタリスト、ブラックソーンことSnorre Ruchとの音楽実験に起因していた。ノルウェーのブラックメタル・シーンにとってブラックソーンの存在は非常に大きい。彼こそがチャンキーなチャグコードに、ルーズでダークなサウンドという、スラッシュメタル/デスメタルのギタースタイルを最初に始めたのだ。「俺はクラシックのオーケストラを聞いていて、この音楽にときどき出てくる音調の進行にドラマとペーソスが詰まっていると思ったのさ。マイナーコードで試してみて、のちにユーロニモスから教えてもらった高速ピッキングを加えてみた。このおかげで不協和音のコードも音調の進行も増えたんだ」とブラックソーンが説明する。



「ユーロニモスはそういうプレイにとてもインスパイアされた。というのも、1988年に彼と一緒にツアーしたとき、ギター間のそういう衝突が気に入っていたんだ」とヘルハマーが言う。「ユーロニモスはソーンに夢中になり、ブラックソーンと出会ったときに大きく変化したんだ。アプローチもスタイルも激変したね」

ブラックソーンは3カ月ほどメイヘムのメンバーだった。これはユーロニモスが『De Mysteriis Dom Sathanas』でブラックソーンのギターをレコーディングした少しあとのことだったが、それ以前に彼の影響は広がっていたのである。「ソーンズは完全に休止状態になり、ユーロニモスと俺が互いのバンドでセカンドギターをプレイするということがしばらく続いた。でも、それが俺のサウンドをメイヘムに融合させる方向に発展したから、ソーンズをキャンセルするに至った。メイヘムは『上手く行っているバンド』で、ソーンズはそうじゃなかったから、メイヘムの方が面白いと思ったわけだ」とブラックソーン。ソーンズのデモテープ『Grymyrk』に入っていたインストのリード曲「Lovely Children」からのリフ2つが、メイヘムの「From the Darkest Past」に援用されているが、「数カ月後、メイヘムの内部ケミストリーが最悪になってしまい、俺はもう居る気が失せたね」とブラックソーンは振り返る。


Translated by Miki Nakayama

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