マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『Isn't Anything』 ケヴィンが明かすシューゲイザー革命の裏側

極限まで切り詰められた睡眠時間

ー『Isn’t Anything』のレコーディングにまつわる逸話として有名なのが、あなたたちが毎日2時間くらいしか寝ていなかったというものです。

ケヴィン:ああ、うん。



ーそうしたあなたたちのコンディションによって作業に、本作のサウンドメイクにどんな影響がありましたか?

ケヴィン:あの当時、うん、僕たちは……レコーディング中に睡眠欠乏状態になるとどうなるか?ってことを実験したっていうかな。その主な理由としては、レコーディングに5日間しかなかったからで。それまで、僕たちがひとつのレコーディング・セッションにつきスタジオで過ごしたのは5日が最長期間だった、と。ところがこの作品では、6週間も時間をもらえてね。というわけで、睡眠欠乏状態の実験をそこでも続けていったんだ、あれはやるのがかなりクリエイティヴな実験だなって風に感じていたから。ところが、1カ月経ったところで、「これ以上無理、たくさんだ!」と(苦笑)。実験の結果僕たちの学んだ教訓があれだったというのかな。

だから、実際にああやってみたし、僕は『Isn’t Anything』のレコーディング作業のほとんどを、それこそロクに寝ないで、1日3時間以下かそこらの睡眠時間でやっていった。とにかく、必要最低限の睡眠時間でね。ただ、1カ月ほど続けたところで、僕たちもとにかく消耗し焼き切れてしまった。そこで、睡眠不足な状態をレコーディングのテクニックとして使うのはやめにしたんだ。あれが長期間にわたって使えるテクニックではないことを僕たちも察したわけ。短い期間にガーッと集中して作る際には適しているけれども、1カ月以上のレコーディング作業には向かない。でも、あれはたしかに意識が変容した状態を生み出してくれたね。それが、音楽を作る際の姿勢に役立ったっていう。

ーそれは肉体/精神の両面でどういう状態だったんでしょうか。疲れて朦朧としていたのか――

ケヴィン:いやいや! そうではなくて……

ー逆にアドレナリンが出てギンギンに冴えた状態?

ケヴィン:そう、一種のアドレナリンが出ていた、そっちに近い。僕たちも若かったからだし、若ければ、ああやってかなりのエネルギーを消耗できるんじゃないかな? もっとも、本当はそこまで体力を消耗すべきじゃないんだろうけど。僕たちは若さにまかせてああいうことをやっていたし、概して疲労は感じなかった。いったん眠りに落ちてしまうと、次に起きるのが厄介だったとはいえね。ただ、僕たちはとにかく、スタジオで過ごせるのが楽し過ぎたし夢中だったんだ。でも、あの実験をやっていた当時は、別に“何かすごいことをやっている”という意識はなかった。で、さっき話したように、やってみた結果、あまり長い期間やれることではないなと僕たちも学んだわけ。しばらく経つと自分の身体の方が「ノー、限界です」とシャットダウンしてしまうんだ。

Translated by Mariko Sakamoto

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