マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『Isn't Anything』 ケヴィンが明かすシューゲイザー革命の裏側

新しいアイディアが生み出された過程

ー『Isn’t Anything』のレコーディング時のあなたを突き動かしていた最大のモチベーションとは?

ケヴィン:そうだな……僕たちはとにかく、自分たちはとても自由だし、かなり意欲を掻き立てられている、そう感じていた。それに、僕たちはとても、とても生(き)のままで純粋なレコードを作りたいと思っていたし、だから、自分たちは……そうだな、僕たちがやろうとしていたサウンド、求めていたプロダクション、そして「こうなりたい」とあこがれていたのは……基本的に、僕たちは多くの音楽につきまとっていた姿勢の多く、それらを拒絶していたんだね。かつ、僕たちはあの頃、プロダクションに対するそれまでとは異なるアティテュード、パブリック・エネミー等々のヒップホップ・ミュージックのプロダクションだったり、あるいはダイナソーJrといったバンドにもインスパイアされていた。ああした音楽の生々しさには強い霊感を受けたし、ただ、僕たちはそれと同時に、あれらとはまったく違うもので実験も重ねていた。だから総じて言えば、僕たちはかなりこう、自分たち独自の方向感覚で進んでいた、というか? ここで自分が言いたいのは、きっとこういうことだろうな――自分たちはとても自由だったし、非常にオリジナルなことをやろうとしていたわけではないにせよ、とにかく、優れたアイディアが自分たちには山ほどあった。でも、僕たちはまた、自分たちの受けた影響を表に見せることにも抵抗がなかった、と。




ー極度の緊張感と脱力感、荒れ狂うカオスと唐突な静寂、死と官能といった具合に、『Isn’t Anything』はあらゆるアスペクトで分裂や矛盾を感じるアルバムです。

ケヴィン:なるほど。

ーたとえば“Sue Is Fine”が途中で“Suicide”に転じる「Sueisfine」などもありますし――

ケヴィン:ああ、でも、興味深いのは……「Sueisfine」の歌詞、あれは……(一瞬ためらう)。オーケイ、だから、あの曲にはちょっとしたストーリー/背景があるんだけれども、でも、でも……根本的に、あの歌詞は実験の一部というのかな。“意識の流れ”の実験、すべてを試しに即興でやってみた結果、という。だから要するに、あの曲を聴いていると色んなことがたくさん起きているのが聞こえるし、ちゃんとした「これ」というひとつのものには聞こえない。コーラス部では“Sue is fine….sueisfine…suicide”とスライドしていく、と。で、僕はあそこで、ある意味、あのどちらともを歌っているんだ。完全に本能的で自然に浮かんだまま歌っている。とにかくインプロみたいなものだったし、それに、そうなった理由は……あの曲は、僕たちのとある知り合いにインスパイアされたものだったからなんだ。その人はメンタルヘルス面で問題を抱えていて、脈絡なく色んなことを口走る状態になることがあってね。それは基本的に、意識の流れがそのまま出て来るようなものだ、と。なので、あれは素直に表したものというか、自分たちが実際に知っていた人々についての歌に過ぎないんだ。それに、僕たちは一時期、スーって名前の子と同居していたこともあったし(苦笑)。そんなわけで、あの曲はそういったことを詰めた一種のちっちゃなタイム・カプセルというのかな。歌の歌詞を思いつくというよりも、精神面で少々異常をきたしている人の状態になり、そこに共感して書いた歌詞、みたいなものだ。



ーなるほど。その「Sueisfine」も含め、先ほども言ったように、『Isn’t Anything』の総体的な美学には矛盾、時にカオスとすら言えるコントラストがあると思うのですが、これはあなたが意図した表現だったと言えますか? それとも、このアルバムで重要だった自由さゆえに様々なことを試した結果、こうなったのでしょうか?

ケヴィン:まあ、あのアルバムのどの曲も……すべてではないかな、でもあれらの曲のほとんどにおいて、僕たちはそれぞれの曲で毎回何かしら違うことをやっていたんだ。僕たちは別に他のバンドを模倣しようとしてはいなかったし、既に誰かのやってきたことをそれと同じ方法でやるつもりもなかった。だから……僕たちからすればあれはカオスではなかったというか。そうではなく、あれは新しいやり方に過ぎなかったんだ。ただ、他の人々にとっては、あのやり方はどうもあまり一般的ではなかったらしい、と。でも、僕たちは一緒に暮らすことで様々な極端な場面を味わってきたし、そんな僕らからすればあれはノーマルだった。それに、様々なアイディアを始めとする、僕たちのやっていたことの多くは、とにかく実験であり、新しい発想だったわけで……だから、ほんと、あれは新たなアイディア群の誕生みたいなものだったんだね。

Translated by Mariko Sakamoto

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