「Reborn-Art Festival」が伝える、今の世の中に必要な「利他と流動性」

大友良英ら、アート作品で表現する「利他と流動性」

「アート」「音楽」「食」のジャンルからまずはアートにおいて、筆者がオフィシャルツアーに参加した中で特に印象的だった作品から「利他と流動性」について考える。


大友良英「バラ色の人生」2015年/2021年

大友良英は「バラ色の人生」と題した作品を展示。本作は「別府現代芸術フェスティバル2015「混浴温泉世界」」や「清山飯坂温泉芸術祭2018」でも展示されていたものだ。テレビ、レコードプレイヤー、ラジカセ、ジューサーミキサー、電気スタンド、扇風機、鉛筆削りなどの昭和家電をステージに並べて、それらの電源がつながれた節電タップのスイッチを黒子が巧みに操ることで、家電の音と光によるアナログなショーが繰り広げられる。大友いわく「古い家電を多数使った十数分ほどのオーケストラ作品」。昭和時代に愛された家電が作り出すアンサンブルは、まるで私たちにこう問いかけるようだ――人類の進歩やテクノロジーの進化、経済の発展の中で、我々は何を手にして何を失ったのだろうか? と。


雨宮庸介「石巻13分」2021年

石巻市街地エリアにある日和山公園では、震災時には救援物資の倉庫になっていた「レストラン かしま」の跡地が作品の展示場所となっている。そこで演劇的なインスタレーションを構築するのは、ベルリン在住のアーティスト・雨宮庸介(7月14日にベルリンから東京に戻り、本作の完成に取り組んだ)。認知能力が下がって文字が書けなくなった母親がこれまでに書いてきた文字をAIで解析し、母親の筆致さながらの「石巻」という文字をAI技術によって生み出し、体中でもっとも痛いとされている手のひらにその文字のタトゥーを彫った。その過程や、極めて個人的な「家族」という単位から石巻を通じて社会や人間の在り様を考える雨宮自身の姿が、「石巻13分」と題したインスタレーション作品として展示される。


バーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカ「Swinguerra」2019年

ブラジル出身&ドイツ出身の2人組アーティスト・バーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカによる作品「Swinguerra」は、少しあなたを驚かせるかもしれない。しかしキュレーター・窪田の解説を聞くと、この作品が今日本・石巻で展示されることの意図が腑に落ちる。地元の子どもたちに親しまれている娯楽施設「プレナミヤギ」のアイススケート場で展示される本作について、「ブラジル東北部の比較的貧しい街の若者たちのカルチャーにダンスバトルがあって、実際に現地で踊っている若者たちと一緒に作った作品。『Swinguerra』というタイトルは『踊り』と『戦い』という意味で、若者たちが振りや歌詞、音を考えて踊った作品です。なぜわざわざこういう作品をここで展示したかというと、作品の背景にジェンダーの問題や経済格差、若者が貧困から抜け出せないような社会状況が見え隠れしていて、それがちょっと日本の社会状況にかぶるところがあるからです」と窪田は語る。

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