「Reborn-Art Festival」が伝える、今の世の中に必要な「利他と流動性」

Bank Bandの新曲をモチーフにした、インスタレーション作品


森本千絵×WOW×小林武史「forgive」2021年


森本千絵×WOW×小林武史「forgive」2021年

Bank Bandファンがもっとも楽しみにしているであろう、Bank Band feat.MISIAによる新曲「forgive」をモチーフにした、森本千絵(Bank BandやMr.Childrenの多くのアートワークを手がけるアートディレクター)×WOW×小林武史によるインスタレーション作品は、2018年に廃校となった旧荻浜小学校の体育館に展示されている。布に映像を投影する空間で、「forgive」のリアレンジされた音が鳴り、「forgive=許す」という言葉に宿る意味が頭を駆け巡って新たな解釈や感情を与えてくれる。



曲の中で「次の未来へと(行こう)」と呼びかけることや、アート作品の中で震災をどう扱うのか、これまでも「Reborn-Art Festival」にかかわるアーティストたちは常にセンシティブに向き合ってきた。震災から10年の今年、個人的に特に驚いたのが、「波」を作品テーマに活動する東京育ちの写真家・夏井瞬が参加していたことだった。


夏井瞬「呼吸する波」2021年

荻浜小学校の教室に、夏井が撮った波の写真が美しく展示されている。言わずもがな、「波」は津波で被災した方々にとって複雑な感情と記憶が刻まれているものだ。単純に「美しい」と捉えるのは憚れる。筆者はこれまで何度も石巻を訪れているが、自然に満ち溢れた景色を見て、その美しさと表裏一体にある自然の脅威をも想像し、ただ「美しい」と受け取ることに後ろめたさを感じてきた。今回夏井の作品展示を決めたことについて窪田に尋ねてみると、誠実な答えをくれた。小林がたびたび言うように「人間も自然の一部である」中で、「自然と人間の共生」や「人間以外の生き物も含めた利他」について、白か黒かで分けられたり論理で説明できたりするような明確な答えなんてものはなく、まさに流動性の中で考え続けなければならないのだ。

「『石巻の人たち』と言っても、個々にまったく違う経験をされているし、津波の記憶に関しても人それぞれ違うと思うんですね。そういう人たちに対して僕らは作品を通じて何かを伝えようとしているので、必ずしもみんなが受け入れてくれるとは思っていなくて。そこで『わ、見たくない』と思う方もいらっしゃるけれども、それによって勇気づけられる方もいらっしゃる。その塩梅みたいなものを僕らがどう考えて提示するのかはすごく考えます。でも正解は絶対にわからないです。数値化もできない」(窪田)

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