「Reborn-Art Festival」が伝える、今の世の中に必要な「利他と流動性」

公共の場に設置された、オノ・ヨーコ、会田誠の作品

「震災10年目に復興した様子をみなさんに見ていただきたい」という想いで今回新たに「Reborn-Art Festival」の会場として加わった女川エリアには、会田誠やオノ・ヨーコの作品が展示されている。


会田誠「考えない人」2012年


会田誠「考えない人」2012年

会田誠の「考えない人」は、ロダンの「考える人」と「弥勒菩薩半跏思惟像」と会田のオリジナリティが融合した作品。坂茂が設計した女川駅舎前の広場にそびえ立ち、「考えない人」が海を眺めているような構図になっている。実際筆者が観賞していたときには2人の子どもが作品の周りを駆け回っていたが、誰でも触れることのできるパブリックな場所で、女川の自然に囲まれる中、会田の作品は六本木の森美術館に展示されているときとはまた異なる意味性が帯びてくるように思う。


オノ・ヨーコ「Wish Tree」1996年/2021年


オノ・ヨーコ「Wish Tree」1996年/2021年

オノ・ヨーコの「Wish Tree」は、倒壊転倒したままである旧女川交番の隣に展示。東日本大震災で津波によって海中に没した女川交番は、鉄筋コンクリート造の建物が津波で転倒した日本初の事例であり世界的に見ても稀な事例でもある、ということから震災遺構として保存されることが決まった。「Wish Tree」では、人々が短冊(少し余談だが、とても書き心地のよい紙質だった)に願いを書いて椿の枝に結ぶ。これまで世界各地で本作が展示されてきたが、願いの札はすべてアイスランドにあるIMAGINE PEACE TOWERのWishing Wellにて保存されている。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの愛のはじまりは、ヨーコの作品に書かれた「YES」という言葉を見てジョンが救われたからだというのが語り継がれている話だが、それほどまでに一言で人の心を動かしてしまうオノ・ヨーコによる「Keep wishing」という言葉は、町の再生が進む女川町というエリアで、かつコロナ禍という状況において、様々な意味が宿って力強く響く。


名和晃平「White Deer (Oshika)」2017年


布施琳太郎「あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて」2021年

荻浜エリアでは、2017年から常設されており「Reborn-Art Festival」の象徴にもなった名和晃平の「White Deer (Oshika)」を観賞することができる。他4人の作家が様々な素材や表現方法を用いた作品が展示されている中、特に印象的だったのが布施琳太郎による「あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて」。第二次世界大戦中に秘匿壕として作られた場所に大きなバルーンを設置し、ネガティブハンド(洞窟の壁画などに用いられる、手を壁や岩にあてながら塗料を吹きかけて手型を描く手法)のように手をバルーンに描いた。塗料は、あえて洞窟という高い湿度の中でよれる水性スプレーと、油性スプレーを混ぜたという。バルーンも環境や時間の経過によって変化する素材であり、「環境の変化の中でなくなったり形が現れたりするものを組み合わせて人の身体の一部を描いた」と布施は語る。まさに「流動性」というテーマを作品に昇華させて問いかけるものだ。

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