KIRINJIが体現するポップスと社会の繋がり「もっとライトな感覚で歌ってもいい」

コロナ時代の抑制されたフィーリング

―「曖昧me」でも『cherish』までのサウンドも継承しつつ、今までやってこなかったようなアプローチを見せていますよね。

堀込:現行ラテンポップのプレイリストを聴くと、どの曲も基本的にリズムパターンが一緒なのに、割と飽きずに聴けるんですよね。「なんなんだろう、これ」と思って。それで調べたら細かく色々やっているんですよ、パーカッションの種類が違うとか。そういうのを自分もやってみようと始めてみたら、どちらかというとブラジルっぽくなってしまった。カエターノ・ヴェローソとかMPBみたいな。どうしようかなと思ったけど、「まぁいいか」って(笑)。

―3年前の「時間がない」では“残り半分て短すぎるね”と歌っていましたが、「曖昧me」では“俺 今 いくつだっけ”と繰り返されている。

堀込:40歳を超えたくらいから、1つとか2つとかの境目がよくわからなくなって。「俺50歳だっけな、49歳だっけな、あれ?」みたいなことがあるんですよ。

―(笑)。もちろん、この曲で歌われているのはコロナ禍での曖昧な時間感覚ですよね。

堀込:ここ1、2年で、歳が1つ失われた感じがして。『cherish』は2年前に出したはずなのに、「去年出したよな?」と思ってしまうような感覚。自分の歳を勘定するときも「いや違う、もうあれから2年経ってる」みたいに混乱してしまうというか。そういう「失われた1年」が裏のテーマとしてあります。


Photo by Kana Tarumi

―アルバム全体に反映されたコロナ時代の空気を、高樹さんはどんなふうに受け止めていますか。「しんどい」みたいな感じ?

堀込:ライブがなくなったり思うように活動できなかったりして、「困ったな」とは思いましたが、「しんどい」というよりは……自分で自分を抑制する癖がつくみたいな。それが嫌だなって思いました。

―“心はリミッターがかかったまま”(「再会」)みたいな。

堀込:それに世の中も抑制的になったというか。お店を早く閉めないといけない、店に入る度に消毒しないといけない、どこに行くのもマスクを着けないといけない。どれも間違いではないけど、そうやって抑制を強いられるのが嫌だな、面倒だなって。これは誰しも感じてきたことだと思いますが。

―そういう抑制されたフィーリングが、アルバムの収録曲にも出ているような気がします。

堀込:思いっきりアガる曲がないですしね。グルーヴはあるけどウキウキした曲調ではない。たぶん、それを今やっても白々しいものになる気がします。だからこそ、明るいノリの曲を書こうと思えなかった部分もあって。

―最初の話にもあったように。

堀込:そう。コロナ禍で自分の置かれている状況、世の中のあり方や空気。そういうのが自分の思っていた以上に反映されているんだなって。アルバムを作り終えてから思いましたね。

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