ポールとリック・ルービンが語る、『マッカートニー 3,2,1』とザ・ビートルズの普遍性

曲を聴くたびに必ず発見がある

-『マッカートニー 3,2,1』は公開されるやいなや、大きな反響を呼んでいます(編注:アメリカでは2021年7月より配信)。

ポール:そうみたいだね、あちこちからフィードバックをもらってるよ。「こないだ『3, 2, 1』を観たよ」って、会う人みんなから言われる。こないだ話した時にリックにも言ったけど、あれって作品っていう感じがしないんだ。僕らの他愛ないおしゃべりを観てるみたいだって言われるけど、それってまさに事実なんだよ。

-シナリオを用意せず、2人がただ語り合うというミニマルなアプローチにしようと決めた経緯は?

リック:自然とそうなったんだ。何を撮るのか、どう使うのかも決めずに、ただインタビューの様子を撮影した。結果的に、それがありのままで形で成立したんだ。僕らの意向を挟む余地自体がほとんどなかったんだよ。

ポール:音楽について話すということ以外、事前に何も決めていなかったんだ。最初にリックと電話で話した時に「あなたのベースプレイに着目したい」って言われて、面白くなりそうだと思った。それを切り口にしつつ、いろいろと掘り下げていくつもりらしかったんだ。だから実際に会った時点では、僕のベースプレイが作品に与えた影響について語る予定だったんだけど、そこからテーマを広げていったんだよ。

-自発的だったということですね。

リック:そうだね。現場の様子をそのまま伝えているんだ。

ポール:誰かと音楽の話をするのって楽しいからね。相手がリックのような、そんじょそこらの人とは比べ物にならない知識を持った人なら尚更だ。彼の考えは確かな経験に裏打ちされてる。要するに僕らは、共通して好きなトピックについて、それぞれの考えを述べ合ってただけなんだよ。

-トピックとなる曲の中には、かなり意外なものもありますよね。リックが「Baby’s in Black」の名前を挙げた時には心底驚きました。個人的に最も好きな曲の1つなんですが、まさかあれが取り上げられるとは思わなかったので。

ポール:(笑いながら)僕も驚いたよ。

リック:私はあの曲が大好きなんだ。それにあの曲は、ジョンとポールが始終ハモりながら歌っている曲の好例でもある。曲の一部だけじゃなく、全編でハモってるんだ。あの曲が3拍子だってことを、私は言われるまで気づかなかった。それってすごく面白いと思うんだよ。ビートルズの音楽は多くの人にとって人生の一部になっているから、いろんなものの基準になっている。あの曲も、私にとってはそういう絶対的なものなんだ。私は3拍子がどういうものか知っているけれど、物心がつく前から聴いていた「Baby’s in Black」はそれでしかなく、3拍子かどうかなんてことを考える余地はなかった。ポールが指摘するまで、私はビートルズの曲が特定のフォーマットに当てはまるという考え自体を持っていなかったんだよ。

ポール:ワルツのファンキーな感じが気に入ってたんだ。「Baby’s in Black」が冷たくてダークな3拍子の曲になっているのは、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズの「I Put a Spell on You」を意識しているからだよ。リックが指摘したように、エヴァリー・ブラザーズの影響を受けてる。曲を書いてると、ごく自然に高音のハーモニーが浮かぶんだ。その方が何かとスムーズに進むからね。

リック:曲を聴くたびに、必ず新たな発見があるんだ。本当にすごいことだよ。これらの曲が存在していることに、心から感謝しているよ。


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-「Here, There and Everywhere」等、発表当初はヒットしなかったものの、後年になって魅力が再発見された曲も数多くありますよね。

ポール:僕はすごくロマンチストなんだ。それは男と女のロマンスに限った話じゃない。僕を夢中にさせるのは、愛情に満ちていながらも、どこか冷静で穏やかな一面もあるような曲なんだ。何かに対する愛を自覚すること、それが曲作りの最初の一歩になることが多いね。

リック:「Here, there and everywhere」のフレーズを思いついた時のことを覚えていますか? とても詩的で美しいですよね。

ポール:思い出せないな。基本となるアイデアを思いついて、次のヴァースをどうするか考えるっていう、典型的なパターンだったんじゃないかな。そこで躓くことって多いんだよ。最初のヴァースに満足したからと言って、次のヴァースが同じくらいいい出来になるとは限らないからね。

Translated by Masaaki Yoshida

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