ポールとリック・ルービンが語る、『マッカートニー 3,2,1』とザ・ビートルズの普遍性

ディティールを聞き分ける才能

リック:「Penny Lane」のメロディがどんな風に生まれたかは覚えていますか? 実に凝ったメロディですよね。

ポール:どちらかというとコードじゃないかな。僕にとってはコード進行が全てなんだ。ラジオか何かで聴いた「Send in the Clowns」が好きで、スティーヴン・ソンドハイムと会ったことがあるんだ。作曲の方法なんかについて語り合ったんだけど、「君のプロセスはどんな感じ?」って聞かれて、僕は「特に決まっていないけど、いいと思えるコード進行をいつも探してる」って答えた。「Penny Lane」にはすごくピンと来たのを覚えてるよ、確かCマイナー7thだったんじゃないかな。例によって、僕は自宅で例のピアノを適当に弾いていたんだ。その時はジョンとヨーコはいなかったけどね。あのメロディは、あのコードを鳴らした時に自然と出てきたんだ。

ビートルズの初期の曲のほとんどでは、ジョンとジョージがアコースティックギターを弾いて、僕がベースを弾き、リンゴがドラムを叩いてた。アコースティックギターだけを抜き出して聴いてみると、ハーモニクスがうっすらと聞こえるんだ。そんな時はそれをそっと抜き出して、前に持ってくればいい。ギターはいつもメロディを生み出そうとしているんだよ。僕の役目はそれを後押ししてあげることなんだ。

リック:それもやっぱり、ディティールを聞き分けることができるあなたの才能を示していると思います。大抵の人は表面のコードに気を取られてしまうだろうけれど、あなたはそのハーモニクスの中にメロディを見出したわけですね。

ポール:自分ではあまり考えたことがなかったけど、きっとそうなんだろうね。それってビートルズの魅力のひとつだったと僕は思ってる。少しでも気になることがあれば「ちょっと待って、今のは何?」って言って作業を中断して、納得がいくまで徹底的に突き詰める。僕は数えきれないほどのセッションを経験してきたけど、プロデューサーがテープをうっかり逆再生して、「チャーリー、テープの向きが逆だよ」「あっ、すまない」みたいなやり取りを交わして、何もなかったかのように事を進めていくケースを何度も見てきた。

でも、僕らはそうじゃなかった。「いや、ちょっと待って。今の感じ、一体何なんだろう?」って。音をあえて逆再生するなんて、当時は誰も考えたことがなかったんだ。今でこそ常套手段になっているけど、録音した音を逆方向に再生するとどんな風に聞こえるのか、あの頃は誰も知らなかった。大抵の人が単なる間違いだとして片付けてしまうものに、僕たちは「これって面白いじゃないか」って反応したんだよ。

リック:私も同感です。デフ・ジャムのプロジェクトがどのように始まったのかというさっきの質問ですが、まさにそれと同じパターンなんです。私たちは、自分たちが思い描いたことがそのまま形になるとはまったく考えていなかった。会話は所詮、ただの会話でしかない。その軌跡を描くというドキュメンタリーの企画もあったけれど、どれも私たちが感じていた興奮を捉えることができていないように思えて。どの作品も、私たちが何を思い描いていたかという部分しか表現できていなかった。本当に注意を払っていれば、それが何になろうとしているのかを見極めることができる。でもそれが何になるのかを予め知っていたら、それ以上のものには決してならない。

ポール:その通りだね。まったくもって同感だよ。


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-楽曲におけるあなたの女性の描き方は、時代のはるか先を行っていたと思うんです。あなたの曲に出てくる女性は内的生活や記憶、アイデア、思想を有しています。そういった女性を描いていた男性のソングライターは、当時決して多くありませんでした。

ポール:同じことをいろんな女性から言われたよ。「自覚してるかどうかわからないけど、あなたは女性についての曲をたくさん書いてるわね」ってさ。女の子という言葉に置き換えてもいいかもしれない。鳥についての曲も多いんだけどね。でも確かに、僕は昔から女性の方が男性よりもクールだと思ってた。女性は特別な存在だと思っているし、今もそれは変わらない。何と言っても、あらゆる命は女性から生まれてくるわけだから。それはどう転んでも、僕にはできないことだ。そういう意味でも、僕は常に女性という存在に敬意を払ってきたつもりだよ。

-あなたがたは2人とも、未来にフォーカスするという姿勢を貫いています。過去数年間で、ポールは『Egypt Station』『McCartney III』という傑作を発表しました。過去に囚われることなく、絶えず自身をインスパイアし続ける秘訣は何でしょう?

ポール:“僕はここまで戻ってきて、自分よりも先にいる”っていうラインを過去に書いたんだけど(「The World Tonight」のこと)、とても誇りに思っているんだ。リックには共感してもらえるんじゃないかな。君は好きなことに没頭して、気づけば大きなことを達成していたけれど、勝因は自分でも把握していない。でもそれって、音楽やコードに夢中だった僕と同じケースだと思うんだ。

ソンドハイムと話した時に、僕が「コード進行を考えるのが好きなんです」って言うと、彼は驚いている様子だった。僕はそれまで、誰もがコードを鳴らしながら曲を書いているんだと思ってた。でもそれ以来、「他にどういう方法があるんだろう? 自然に思い浮かぶのかな?」なんて考えるようになって。でも、考えすぎるのは良くないんだ。考えるのをやめて手を動かす、その方がうまくいくと僕は思ってる。

-それは先ほど話題に上った、マインドフルネスというテーマにも通じると思います。今この瞬間を生き、自分の周りで起きていることに注意を払うということを、多くの人があなたの曲から学んだと思います。

ポール:うん、父からよく言われたんだ。「今すぐ行動しろ。Do it now, D-I-N」ってね。それってレーベルの名前にするべきだって、以前からずっと思ってたんだ。どうだいリック?

リック:今すぐやりましょう(Do it now)。

Translated by Masaaki Yoshida

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