ポールとリック・ルービンが語る、『マッカートニー 3,2,1』とザ・ビートルズの普遍性

ポールとジョンの信頼関係

-作品の中で、あなたは他のビートルたちに対してとても好意的なコメントを寄せています。例えばリンゴに対しては、「彼は僕らの気分を高揚させてくれた」と語っていたり。

ポール:そうだね、だって事実だからさ。リンゴの前のドラマーをけなしているわけじゃないんだ。彼は上手だったし、やるべきことをしっかりこなしてくれた。でも、リンゴはマジックを起こすことができたんだ。彼と初めて一緒にプレイした時のことは、今でもはっきり覚えてるよ。はっきり言って、僕らは最初は懐疑的だった。でも彼がドラムを叩いた瞬間、思わず鳥肌が立ったんだ。こう思ったよ、「彼で決まりだ。これがこのバンドのラインナップだ」。事実そうなったわけだけどね。

-あなた方はどちらも数多くのコラボレーションを経験していますが、相手の優れたところを引き出すのが得意だという点が共通していると思います。

ポール:僕らはラッキーなんじゃないかな。場所やフィールドは違っても、リックと僕が辿ってきた道のりには共通点があると思う。幼い頃に音楽に感化されて、自分と同じような経験をした人と巡り会うという点においてね。リックの場合はデフ・ジャムの創設がいい例だよね。あれはどういう経緯で実現したんだろう?

リック:人と運の両方に恵まれたんです。関わった人全員が心から音楽を愛していて、何かしらのメリットを求めている人間はいなかった。あのプロジェクトがヒップホップの黎明期に成功を収めるなんて、誰も思っていなかったんです。ポール、あなたにはまだ話していませんでしたが、自分たちがしていることに自信を持つようになったきっかけのひとつは、あなたがあるインタビューで「デフ・ジャムの作品をよく聴いてる」と発言していたことだったんです。ビートルズの音楽を聴いて育ったけれど、多くの人が理解できない音楽を作っていたニューヨークのいち大学生だった私にとって、それはものすごく大きな意味を持っていた。デフ・ジャムのことを知っているとは夢にも思わなかったし、ましてや作品を聴いてくれているなんて考えたこともなかったので。

ポール:僕らが幸運だったことは確かだけど、運っていうのは情熱が引き寄せるものだと思う。幼い頃、僕は父の世代が聴いていた音楽が好きだった。コード進行が魅力的で、父が楽器を弾くのを聴くのも大好きだった。そうするうちに情熱がどんどん強くなって、結果的にそれがジョンやジョージとの出会いをもたらしたんだ。互いに引き寄せ合うようにして、同じ情熱を持った仲間と巡り会ったわけだよ。そういう人たちと出会えたという意味で、リックも僕も幸運だったんだ。

リック:コラボレーションは、相性次第でプロジェクトをすごくエキサイティングにする。素晴らしいケミストリーを持ったバンドとの仕事は、まさにマジックとしか言いようがない。あれ以上に素晴らしい経験はないですよね。

ポール:それも情熱によるものなんだと僕は思う。同じ情熱を持った誰かと、力を合わせて何かを作り出そうとする。僕の場合、最初のコラボレーション相手はジョンだった。多くの言葉を交わさなくても、僕らは意思疎通を図ることができた。ある曲の中に僕が好きになれない、あるいは気に食わないラインがあったとして、ジョンは僕の表情からそういう思いを読み取ってくれた。それを代弁するように「この部分は良くないと思う。やり直そう」って彼が切り出してくれて、僕らは問題を解決することができた。そういう関係を築く上で最も大切なのは、何を成し遂げようとしているのかをお互いが把握することだと思う。お互いがそういうプロセスを好んでいるから、自ずと解決策が見えてくるんだ。

僕があるラインを思いついたとして……例えば初期のケースだけど、「I Saw Her Standing There」で、僕は当初“彼女は17歳、ミスコンに選ばれたことはない”っていうラインを歌うことになってた。僕は「ミスコン(beauty queen)」っていう言葉に違和感を覚えていたんだけど、隣にいたジョンが同じように感じているのがわかったんだ。それで僕らは、どちらともなく「その部分は変えるべきだ」って言い出した。結果的に「君にはピンとこないかもしれないけど」っていう、ずっと良いラインに置き換えられることになったんだよ。

ニール・ヤングにこの話をしたことがあるんだ。ハリウッドのウォーク・オブ・フェームとか何とかいうところで、僕らは何かのイベントに出席してた。あのフレーズがもともとミスコンだったってことを話すと、彼は「へぇ、面白いね」って言ったきりで、特に気に留めていないようだった。でもその夜、確かMusiCaresのイベントだったと思うんだけど、彼が「I Saw Her Standing There」をプレイして「彼女は17歳、ミスコンに選ばれたことはない」って歌ったんだ。やらずにはいられなかったんだろうね、すごくニールらしいよ。実際、かなりいい感じだった。でも僕はやっぱり、作り直したバージョンの方が好きだな。



-その一方で、あなたが「Hey Jude」を聞かせた時に、歌詞を変えるなとジョンから言われたという有名なエピソードもあります。

ポール:そのことははっきりと覚えているよ。僕はロンドンの自宅の最上階にあった部屋で、自分で色を塗ったピアノを弾いてた。僕のすぐ後ろには、ジョンとヨーコが並んで立ってた。冒頭のフレーズから始めて、“君がすべきことは、その肩の上にのしかかってる”っていうラインを歌った直後に、軽く振り返って「この部分は後で変えるから」って伝えたんだ。その直後に交わしたやりとりは、僕とジョンの関係を物語ってると思う。彼はこう言ったんだ、「いや、変えなくていい」。まるで命令するかのようにね。「一番いい部分じゃないか、変える必要なんてない」ってね。「いやいや、まるで気に入ってないから変えたいんだ」って返したけど、ジョンは「いや、変えちゃダメだ」って言って譲ろうとしなかった。その瞬間、彼のいう通りだと僕は思い直して、そのラインを採用することに決めた。お互いのことを心底信頼していなければ、そういうことってできないものだよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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