ポールとリック・ルービンが語る、『マッカートニー 3,2,1』とザ・ビートルズの普遍性

ロマンを見出そうとする習慣

-先ほどおっしゃっていたように、あなたはいろんな意味でロマンチストだと思います。そういった面がはっきりと現れている「Two of Us」のような曲は、あなた以外の誰にも書けないと思うんです。

ポール:前にも話したけど、愛車のアストン・マーティンにリンダを乗せてロンドン郊外を走っていた時のことを、僕はすごく鮮明に覚えていて。彼女は知らない道を走るのが好きだった。僕の場合は出来たばかりのガールフレンドだったけど、大抵の男性は恋人とドライブする時、道に迷わないかどうか不安に思うものだよ。ロンドンはニューヨークみたいに、道路が碁盤の目状になっているわけじゃない。ストリーサムを走っているつもりが、いつの間にかハリンゲイに入っていたりするんだ。でも彼女が「道に迷うのって楽しいじゃない」って言うから、僕はそうだねって答えてた。

ロンドンを出て、小さな駐車場がある場所に行き着いたんだけど、そこには小さな森があって、僕らは中に入ってみることにした。当時いつもそうしていたように、僕はギターを持っていたんだけど、そこで自然と曲が生まれてきたんだ。歌詞は少しだけ詩的にアレンジしているけど、基本的にはあの場所にいた僕らのことをそのまま歌ったもので、あっという間に出来上がった。

-他の男性が注目しない女性に惹かれて、その女性のことを曲にする「Another Day」も、ファンの間ですごく人気があります。その女性を見つめながら、彼女の物語を紡いでいくという、とてもユニークなソングライティングが印象的です。

ポール:うん、それはきっと、僕に覗き趣味があるからだろうね。今じゃ捕まってしまうかも。というのは冗談で、僕はただ人を観察するのが好きなんだ。そのテーマで写真を撮りためたこともあって、「Indentations」っていうタイトルなんだ。きっかけになったのは女性が服を脱ぐ時に、ブラの紐が小さな突起に見えたことだった。ただ一緒にいるだけじゃなくて、愛する女性をじっと見つめていれば、些細なことが愛おしく思えてくるものだよ。コーヒーを飲むところだったり、書類を片手に仕事に出かけていく姿だったり、相手が1日のうちに見せるいろんな顔の魅力に気がつくんだ。

リック:身の回りで起きていることに注意を払うというのは、とてもスピリチュアルなコンセプトだと思う。マインドフルネスというのはそういうことだから。

ポール:その通りだね。

リック:周囲で起きていることにエンゲージし、何かを学ぶ際のプロセスを通じて注意を払うというのは、精神修養法の基本ですよね。私たちは関心を持つことで、自分にとって必要な情報を得ているから。

ポール:僕は何かと細かな点に気がつくんだ。そのせいで相手に恥をかかせてしまうこともあって、「まさか君が気づくとは思わなかった」なんて言われるたびに、「僕は目ざといからね」って答えてる。ちょっと脱線するけど、昔ジョージ・マーティンは艦隊航空隊にいたんだけど、彼はパイロットではなくてオブザーバー(観察者)だったんだ。他の隊員たちの行動に常に注意を払い、必要な部品なんかを迅速に供給するのを手伝っていた。彼にこう言ったことがあるよ。「まさにプロデューサーだ。いろんなスキルを把握して、指揮をとり、隊員たちをプロデュースしている」

-些細なことに喜びや驚きを見出すあなたの在り方はソングライティングにも現れていて、「Penny Lane」はその好例です。あの曲を聴いた誰もが、あの場所をとても身近に感じるはずです。

ポール:ジョンと僕にとって、ペニー・レーンは慣れ親しんだ場所だった。知っての通り、あれは実在するバスの終着点なんだ。ジョンの家に行くにはまずペニー・レーンまで行って、そこから別のバスに乗り換える必要があった。ジョンが僕に会いにくる時にも同じルートを通ってたから、僕ら両方にとってすごく馴染みのある場所だったんだ。ソングライターをやってると、そういうことがふと記憶の中から蘇ってくるんだよ。「今思えば、ペニー・レーンってすごく素敵な名前だ。ウィルムスロー・ロードなんて名前よりもずっといい」。あれもきっと、物事にロマンを見出そうとする習慣から生まれてきたんだね。

ペニー・レーンにまつわるあれこれはみんな、僕とジョンにとって馴染みのあるものばかりだ。歌詞に出てくる散髪屋は、イタリア系のBioletti’sっていう店だった。そういう具体的な事柄を2人の間で共有できていたことは、曲作りをスムーズにしてたと思う。ストロベリー・フィールズも素敵な名前だよね。救世軍が運営していた孤児院の名前だったんだけど、エーリュシオンのような楽園を思わせる響きがあるだろう? まずジョンが“知ってるよ、多分ね、いや、確かだ(I think, I know, ah yes, I know)”っていう、スタッカートの効いたあの奇妙で独特なフレーズを思いついた(実際の歌詞は“I think, er No, I mean, er Yes but it’s all wrong.”)。一体どんな曲にするつもりなんだろうと思ったけど、すごくジョンらしくてクールだと思った。想像がつくだろうけど、彼のアイデアにはいつも驚かされてばかりだったね。“知ってるさ、わかるよ、僕の木に登ったら理解できるかもね(I think, I know, I mean, maybe up in my tree)”(手を叩いて笑う)。もう「何が言いたいのか、はっきりとわかるよ!」って感じだよ。それでも、彼はしっかりと形にしてみせた。

Translated by Masaaki Yoshida

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