中島みゆきのラスト・ツアー、瀬尾一三と振り返る

糸 / 中島みゆき
ローリング / 中島みゆき

田家:身も蓋もないことを恥ずかしげもなくお訊きしてしまいますが、この2曲で1番気を使われたことと、1番伝えたかったことはどんなことですか?

瀬尾:「糸」は普遍的な男女の曲で、ある側から言えば女歌じゃないですか。「ローリング」はどちらかと言ったら男歌ですよね。だから、女歌と男歌の対比ができたらいいなというのを1番に考えました。

田家:とてもデリケートで柔らかい大きなうねりみたいなものと、後半の無念さを抱え込んだような表現。この対比はあたかも組曲のような2曲に思ったりしましたね。

瀬尾:上手くそういうふうに感じてくださるのが1番いいと思います。

田家:「糸」に当時関われたときに思ったことはどんなことだったんですか?

瀬尾:『EAST ASIA』の中の1曲だったんです。20年も経って、みなさんからもてはやされるとも思わないから、想像もできないですよね。はじめは赤い糸の伝説とか、そんな感じで録って。はなから思っていたのはあまりにも生々しく生きている女性が歌うと、ちょっとお説教っぽいというか偉そうに聴こえると思った。中島さんを天上人にして天女が歌っている感じにするために、ちょっと雅な感じに作っているんです。2番から人間として歌う。最後はまた大きな天上から見ている感じに持っていこうと思って、オリジナルのときは作っていました。今回もそれの再現ですね。

田家:どんどん深みが増して、風格も増してドラマチックになりましたね。

瀬尾:中島さんもよく言ってたと思うんですけど、自分の手から離れてから育っていくもので、僕もアレンジして自分の中で思うんですけど年々熟成するんですよね。古酒になってくるので、なかなかいい味が出てるなって自分で最近思ったりしています。

田家:音楽って不思議なものだなって感じますね。瀬尾さんが今お話をしたことが名曲「糸」の編曲の全貌を語った動画サービスで公開されておりまして、「ほぼ日の学校」。ここではこういう話をされているんですか。

瀬尾:見てもらえば分かりますけども、そういうことを言いました。

田家:「ほぼ日の学校」は、谷川俊太郎さん、林真理子さん、三谷幸喜さん、笑福亭鶴瓶さんとか、いろいろな分野の方が講師として登場する学校。

瀬尾:「僕でいいんですかね」って聞いた(笑)。恐れ多くて、はじめは本当に迷って悩んだんですけども、向こうの方に上手く乗せられてやってしまいました。

田家:中島みゆきのレコーディングの秘密に迫りますという学校です。

瀬尾:いつもここでも迫ってますけどね(笑)。

田家:もう1つ、瀬尾さんの『音楽と契約した男』。2020年に出たこの本が重版に重版を重ねて、4刷が決まった。

瀬尾:ありがとうございます。なんかそうやって言うと、ものすごく売れているみたいですけど版が重なっただけで、ちょっとしか売れていない(笑)。出す数が少ないんで、これだとベストセラーっぽく聴こえますけどもそんなんじゃないです。

田家:でも4刷って、これだけ本がなかなか売れない時代で、素晴らしいことだなと思います。このライヴ、ラスト・ツアー「結果オーライ」はこれが5曲目、6曲目でありまして、ここでステージも空気が変わるわけですが、この先は来週ということで来週もよろしくおねがいします。ありがとうございました。

瀬尾:ありがとうございました!


ライブアルバム『中島みゆき2020ラスト・ツアー「結果オーライ」』

Rolling Stone Japan 編集部

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